ひとこいし。
改めて猫扉から入った私を、エイルさんとイフさんは嬉しそうに中からわざわざ出迎えてくれた。
猫っていう生き物を知らない人たちに言うのもなんだろうけど・・・この猫好きめ・・・。
でも嫌われるよりぜんぜんいいよね?
そしてその後。
トタトタトタトタっ。
どんっ。
「みぎゃっ。」
パタパタパタパタっ。
がんっ。
「ふみゅぁっ。」
「あああああぁぁ・・・・。ユキちゃんごめんよごめんよぉ・・・。」
エイルさんはイフさんの執務机の横で頭を抱えて蹲ってしまっていて、イフさんは横目でそんなエイルさんに同情するような視線を送り続けてた。
最初の音は、私が無邪気に(見えるように)走り回っている音。
その後の痛々しい音は、(わざと)猫扉にぶつかっている音。
私は自由を手に入れるため、ちょっぴり頑張っているのですっ。
ほら、外から猫扉を押して入ることを覚えた私は、だったら外へも出られるんだって思いこんでいる子猫ちゃんなにょ。
エイルさんにはどうしても、両方に開く扉に交換してほしいっていうアピールをしなくちゃっ。
ただアピール方法が間違っていたのか、エイルさんを悩ませたあげく、私もぶつけたとこがあちこち痛くなっちゃった。
後々、変身して口で言えばいいのに、どうしてそうしなかったんだ?と、冷静にイフさんに言われて泣き出してしまってイフさんもオロオロとさせてしまうことになっちゃったにょ・・・。
私、おばかだったのかな?
***
子供の姿になった私は、ソファーで落ち込んでしまっているエイルさんを絶賛なぐさめ中です。
「えいりゅ。ごめんにゃしゃい。」
「いいんです。僕がユキちゃんの意思も確認しないで片開きの扉を作ってしまったから・・・。本当にごめんね?じゃあすぐにでも両開きの扉に交「待て」換・・・を・・・。どうしましたか?イフ様。」
もう少しで出入り自由な扉をゲットできると思ったところで、まさかのイフさんからのストップがかかった。
えええー・・・。
「条件がある。ひとつ。部屋から外へ出て行く時には必ず俺かエイルに断りを入れること。ひとつ。外出した時には必ず夕食までには戻ってくること。ひとつ。夕食を取った後は出かけないこと。どうしてもこの条件を破らなければいけない事態になった時には誰かに伝言を頼むこと。」
う・・・イフさんの目が、この条件を飲まなければ両扉の話はなしだぞって言ってる・・・。
「この条件が守れないなら、今の話はすべてなしだ。」
ほら、やっぱりそうだったにょっ。
やっと立ち直ったらしいエイルさんの顔をじーっと見上げたら、人差し指で自分のほっぺを掻きながら苦笑い。
「みゃっ!?」
突然ふわりと体が浮いてびっくりしたけど、後ろからイフさんに持ち上げられて、私の小さな足は振り子みたいにプラプラしてる。
「ユキ。聞いているのか?」
「みぃ・・・。きいてりゅ、にょ。げんまん、できりゅにょ。」
ジタバタともがいてみると、イフさんはため息をついて頷いてくれたの。
「それなら早速、つけかえることにしましょうか。」
「えいりゅ。ありあとっ。」
ふにゃりと笑った私に、エイルさんの顔はみるみる真っ赤になっていく。
どうしたのか聞こうと思ったのにそのまま勢いよく走っていってしまった。
「いふぅ。えいりゅ。おねちゅ?しんどいにょ?」
「・・・?ああ。いや、大丈夫だろう。すぐによくなる。」
イフさんの言葉に首を傾げながらも、コクコクと頷いておいた。
「俺はもう少し書類に目を通さなければならない。ユキ。お前は先に寝ていろ。」
「いっしょ、ねんねできにゃい、にょ?」
お熱が下がってから、イフさんと一緒に寝られてないのに、イフさんお仕事しちゃうんだ。
さみしいにょ。
へにゃりと垂れてしまった耳と、またまたぺたりと垂れてしまったしっぽをずりずり引きずりながらベッドのあるお部屋に向かおうと、ヨチヨチ歩き出した私は、おやすみなさいを言いたくなくて神猫の姿に戻ってお部屋の隅に置いてある猫用のかごの中にもぐりこんだ。
いっしょに、ねんねできると思ってたのに。
いっしょに、ぬくぬくおふとんでお話できると思ってたのに。
おいでって、呼んでくれると思ってたのに。
お仕事だって、お仕事だって・・・。
お仕事が大変なのは分かるから、ちゃんと頭の中では我慢しなきゃって思ってるんだよ?
でもでも・・・。
寂しいんだから、震える体とほとほと零れる涙は許してほしい。
さっきまで、楽しかったのに、今はもうこんなに悲しい。
人間になれたからかな?
子猫の体の時よりも、人間になれたあの時から、うんとうんと嬉しいも、楽しいも、幸せも、悲しいも大きくて、わがままになっちゃったのかな?
拾ってくれて、ぬくぬくのおふとんもあって、リボンだってもらった。
おいちいごはんも食べられて、おなかだってぽんぽこりんになる。
ご主人様・・・。
リュウキさんがご主人様だったって気づけたから、昔、すごくすごく昔のぬくもりを思い出してしまったのかな?
あったかい、ぬくぬくの手で、なでなでしてもらえないと、今日はきっと眠れないよ・・・。
「ふみゅ」っと情けない声が出かけて、慌ててクッションに顔をぐいっと押し付けたら、もっと情けない声が出ちゃったけど、零れた涙はクッションが吸い込んでくれた。




