あこがれのアレ。
リュウキさんにおろしてもらった私は、リーフさんがリュウキさんとイフさんに私のさっきのハプニングがどうして起こってしまったか説明してくれている間に芝生の上をコロコロ転がっていたら、いつの間にか眠ってしまっていたみたい。
浮遊感と心地いい振動に目を覚ました時には、私はイフさんにだっこされてちょうどごはんを食べるお部屋を通り過ぎたところだった。
・・・あれ?
イフさんの手、すっごく大きい?
私はいつの間にか猫の姿に戻ってたみたい。
リーフさんとリュウキさんはいなくて、ばいばいって言えなかったことは気になったけど、イフさんを見上げたら私の視線に気づいてくれたから考えることは取り合えず中断。
「ユキ?起きたのか?」
「みゅ・・・。」
くぁーっとあくびをしてイフさんを見上げたら、目を細めて喉の奥でククっと笑われてしまったよ。
「歩行訓練をしていたらしいな。日頃の訓練が実を結ぶ。・・・とは言え、お前はまだ幼い。多少の無理はしてもいいが無茶はするな。」
んにゅ?
イフさん、それって頑張っていいの?それともだめなの?
それに、私、神猫の年齢ではまだ子供みたいだけど、きっとイフさんより長生きしてるんじゃないのかな?
あれれ?
でもここでは時間は止まってるわけだから、イフさんも私より長く生きている可能性もあったりするのかな?
頭を抱えていたら、聞いているのか?と指先で耳の根元をこしょこしょされた。
その長い指をテシっと肉球で叩いたら、イフさんはクスクスと笑いながら目を細めた。
「そうか。聞いてたか。エイルがお前のためにミルクを用意していると思うぞ。」
「みぁっっ!」
ミルクっ!
エイルさんの用意してくれるミルク、とーってもおいしいんだよっ。
リーフさんから聞いたのか、お熱を出していた時にリーフさんがまぜまぜしてくれた花虫の蜜をもらってきてたみたい。
うれしい気持ちにしっぽがファサファサと動くと、イフさんはくすぐったそうに首をすくめた後、私をおろしてくれた。
・・・って、これなぁに?
私が見つけたのは穴。
そう・・・穴。
穴と言ってもまん丸のぽっかりした地面にある穴じゃなくて、人工のいかにもさっき開けましたっていう真新しい四角い穴。
炎の館についてイフさんが地面に下ろしてくれたわけだから、扉の横の下側の壁に穴が開いていたの。
もしかしてこれって・・・憧れの猫扉っっっ!?
ちょうど私の体がスムーズに行き来できるくらいの大きさで、透明の薄い扉がついてる。
でもどっちからでも通れるようになってるわけではなさそう・・・。
普通、猫扉ってどっちから押しても通れるように出来てると思うんだけど、この扉は外からしか押せないようになってるみたい。
要するに、お部屋の中からは出られないけど、お外からなら入れるってことみたいだけど、どうして?
無理すれば、というか、頑張れば中からでも爪とか引っ掛けて手前に引けば出れないことはなさそうだけど、私の逃亡防止に考えたんだろうなぁ・・・。
イフさんと扉をせわしなくキョロキョロと視線を行き来させてた私に、イフさんは珍しくわくわくしたような顔をしていた。
「どうした?お前専用の扉だ。通ってみろ。」
「みぁっ♪」
少しだけ複雑な気持ちで猫扉の透明な扉をちょいちょいと手で揺らしてみる。
うん、軽いし、紙よりも少しだけ丈夫な素材っぽいし、しっぽを挟むこともなさそう。
前の世界で1度挟んだことがあったけど、あの時は本当に痛くてしっぽがちぎれちゃったかと思った。
あの扉は一生ゆるせないにょっ。
よしっ、入るぞーっと意気込んでおでこでグイっと扉を押そうとした瞬間、小さな穴の向こうからエイルさんの顔がにゅっと覗き込んだ。
ビョーンっっ!!
「わっ!?」
「っっ!?」
驚き過ぎた私は思い切り横っ飛びして一瞬で私の全身の毛はぶわっと逆立ってしまった。
びびびび・・・びっっっくりしたっにょ!!
「ユキちゃんっ。ごめんねっ!?驚かしてしまいましたっ!」
ガチャリと開いた扉から、申し訳なさそうに慌てて飛び出してきたエイルさんは、私の前に両膝をついてあわあわと取り乱してるけど、このドキドキはそう簡単にはおさまらないよ。
「エイル・・・。もう少しでユキが扉を使おうとしていたのに、何をしてる。」
「す、すみません。イフ様。ユキちゃんが僕の作った扉をくぐるのをどうしても見たくて、扉の向こうで待機していたんですが、ユキちゃんまだかなって、待ちきれなくなってしまって・・・。タイミングが悪かったみたいです・・・。」
八の字に眉を下げであわあわしているエイルさんは、私とイフさんを何度も見てしゅんとうな垂れてしまった。
「みぁ。みゅう。」
テシテシとエイルさんの膝を手で叩いて、ありがとうの意味を込めてスリスリしてみる。
エイルさん、エイルさん。
私のために、この扉つくってくれたんだね。
とぉっても嬉しかったの。
だから、落ち込まないで。
すりすり・・・。
「・・・。」
すりすりすり・・・。
「・・・・。」
すりすりすりすり・・・ごろごろ。
「ふふ。ありがとう。慰めてくれているんですか?」
「みゅう♪」
まだ落ち込んでいるっぽいけど、エイルさんは微かに口元に笑みを浮かべてくれた。
まだふあふあの毛は膨らんだままだったけど、どきどきはうれしい気持ちにかわってた。




