実は京訛り。
【リュウキ視点(初】
今、リーフは何て言った・・・?
俺は先程あった信じられるはずもない話を思い返した。
「至急の報告がございますので申し上げます。」
「はぁ・・・。リーフ。ここは謁見の間ではないんだぞ?いつも通りでいいよ。」
「・・・はぁ。分かりました。では王、リュウキ様。昨日、ユキと会いましたね?」
リーフは一度大きく溜息をついてから切り出してきた。
「ああ。謁見の手続きまで踏んでいたから忘れるわけはないよ。」
「・・・ああ。」
「昨夜、イフ様が高熱で苦しむ幼子を抱えて私の執務室へ飛び込んで来られました。イフ様が仰るには、昨夜ユキが熱で苦しんでいたから私のところへ来れば何らかの処置は出来るだろうとユキを連れて飛び出した後、炎の館と王立研究院の間の庭園でユキが幼子の姿に変わったとのこと。」
「・・・は?」
「・・・っ!」
俺が息を飲んだのと王が驚いた声をあげたのは同時やった。
「そんなわけないやろ・・・。ユキは・・・。」
「・・・。リュウキ。その言葉遣い、直すのではなかったのか?僕はリュウキらしくていいとは思うけど・・・。」
「・・・あ。」
しまった・・・そう、俺はこの世界の人間じゃあなかったんや。
なかったと過去形にしたんは、俺の体はこの世界で生まれたからや。
ただ記憶だけは何故か前世で別の世界で生きた記憶が残っていた。
邪魔なだけやと思っていた前世の記憶が、昨日ユキと謁見した時に大きな波のように溢れ出した。
そう・・・見たこともない獣のはずのユキを、俺はひと目で前世の俺が生きてた世界の生き物『猫』という存在やと気づいて、懐かしい記憶が鮮明に蘇った。
俺は地球という星の日本という国で2度、生を受け、一度目は江戸で生まれ京での戦で命を失った。
2度目は皮肉なことに1度目の人生で命を散らせた京で生まれ生きた。
1度目の人生、短かったが俺は侍として生き、志を貫き見事に散ることが出来たが、心残りがひとつだけあったんや。
俺の心に燈った小さく暖かな蝋燭のような小さくて真っ白な『子猫』。
猫やのに気まぐれではなく、犬のように寄り添い、俺が家に帰ると玄関先で小さくなって待っていた俺の幸い。
『白いの』と名づけた不器用な俺は、家の者には笑われたけど、『白いの』だけは嬉しそうに俺が名を呼ぶ度に返事をしていてくれていた。
ユキにしか聞こえない声で、まさかと思いながらも『白いの』と紡いだ言葉にあいつはしっかりと耳をこちらに向けて反応を示して、俺は確信したんや・・・あの『ユキ』は俺の『白いの』やって・・・。
その『白いの』がユキやとするなら、幼子の姿に変化したいうんはどういうことや・・・?
そもそも『猫』という生き物は人の姿になんかなれるはずあらへん・・・。
俺は気にしている京言葉なんか気にする余裕もなく、リーフに尋ねることしか出来なかった。
「・・・リーフ。ユキが人の姿になったぁいうんはどういうことや?ユキは、ね・・・小さい獣だったはずや。」
「・・・はい。私にもよく分かりませんが、アルフ様の調合した薬湯を飲んで目を覚ましたユキに聞いてみると、元々人の姿になれるということでした。今は熱もひき、私の自室のベッドで眠っています。」
「おや。イフはよくそれを許したね。」
説明を聞いていた俺はリーフのベッドで眠っているという言葉を聞いて眉間に皺が増えるのが自分で分かってしまった。
王はイフがよくそれを許したもんだと少し驚いた顔をしていたが、俺は・・・何故か胸に何かが詰まったような気がしていた。
「・・・はい。ユキは聖地の印を受けた体ですから、この聖地への影響はないと思います。・・・こほん。ひとつ問題があるとすれば・・・。ユキの身の回りの物が必要になったくらいでしょうか。」
「なるほど、この聖域には幼子はいないからね。調達するなら誰か手配してほしいということかい?」
「あ・・・いえ。身に付ける物を買うならユキの体のサイズに合った物を用意する必要がありますので、・・・こほん。私が「俺が行こう。」・・・え?」
しまった・・・つい言葉に出してしまった・・・。
王は面白そうに声をあげて笑っていた。
「あはは。よかった。僕はリュウキがユキのことをあまり歓迎していないのではないかと心配していたんだよ。それなら、リュウキにユキを任せてもいいかい?無事ユキを連れ帰ること。それがリュウキを行かせる条件だよ。」
「いえ。リュウキ様にそのようなこと・・・私がユキを連れて行ってきます。」
「それは気にせんでいい・・・。俺が行く。無事連れて帰ってくるから安心して待っとったらええ。」
「・・・はい。それでは・・・お願いします。」
心なしかリーフが肩を落としてるように見えるが、俺はユキ、否、『白いの』と1度でいいから言葉が交わしてみたいとずっと思ってたんや・・・・。
あいつは、『白いの』は・・・あの時、帰らなかった俺をずっと待ってたんやろうか・・・?
志のために、俺が戦で命を散らしたことに後悔なんかあらへん・・・やけど、小さく鳴いた『白いの』がずっと待ち続けてくれていたんやないかと・・・。
寂しい想いをさせたんやないんかと・・・。
俺を・・・恨んでるんやないかと。
もう一度でええから、この世界にはない、あの綺麗な遅咲きの八重桜のような瞳の色を、真っ直ぐに見てみたいと、そう思った。




