↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/60

第53話 女子会の夜は始まったばかり

佐倉家のリビング。


テーブルの中央には、みおが作ったティラミスが四人分、きれいに取り分けられていた。


「いただきます」


結衣がスプーンを入れる。


一口食べた瞬間。


「……おいしい!」


ぱっと顔が明るくなった。


「本当ですか?」


みおも嬉しそうに聞く。


「ほんとです。すごくおいしい」


真琴も一口。


「うん。おいしい」


「よかった」


さきも食べる。


「相変わらず上手」


「お姉ちゃんは作ってる途中で試食したでしょ」


「完成品は別」


「そういうもの?」


「そういうもの」


四人でテーブルを囲む。


女子だけ。


休日。


甘いもの。


そして今日は、このままお泊まり。


自然と会話ものんびりしたものになっていった。


◇ ◇ ◇


結衣が、向かいに座るみおをじっと見る。


「みおちゃん」


「はい?」


「前から思ってたんですけど」


「何ですか?」


結衣が少し身を乗り出した。


「ほんと可愛いですよね」


「……え?」


突然の言葉に、みおが止まる。


「肌もすごく綺麗です」


「いやいや、普通ですよ!」


「普通じゃないです」


結衣は真剣だった。


「近くで見るとほんとに綺麗。何使ってるんですか?」


「何って?」


「化粧水とか」


「ああ」


みおは少し考える。


「そんな高いものじゃないですよ」


そこから。


普段使っているスキンケア用品の話になった。


化粧水。


乳液。


乾燥する日はクリームを足すこと。


逆に肌の調子が悪いときは、あれこれ使いすぎないこと。


結衣は思った以上に真剣に聞いている。


「最近ちょっと乾燥するんですよね」


「季節の変わり目だからかもしれませんね。私も最近は保湿少し増やしてます」


「真似しようかな」


隣で聞いていた真琴が、何気なく言った。


「結衣はそのままで十分綺麗だけど」


「……」


結衣が止まる。


「真琴先輩」


「何?」


「急にそういうこと言わないでください」


「事実」


さきがにやにやする。


「いいなぁ」


「何がですか」


「そういうのさらっと言えるの」


「普通です」


「普通じゃないですよ」


結衣のほうが赤くなっている。


みおがくすくす笑った。


「結衣先輩、真琴先輩に弱いですよね」


「みおちゃんまで!」


「だって今すごく赤いですよ」


「……もう」


今度は結衣がみおの髪を見る。


「でも髪も綺麗ですよね」


「それはちゃんと手入れしてます」


「何使ってます?」


そこから。


シャンプー。


トリートメント。


ヘアオイル。


さらにメイクや服の話へ移っていく。


完全に女子会だった。


みおも最初こそ、


――絶対、恋愛の話にされる。


と警戒していたのに。


いつの間にか、そんなことも忘れて普通に楽しんでいた。


◇ ◇ ◇


ぶぶっ。


テーブルの上で、さきのスマートフォンが震えた。


「ん?」


画面を見る。


陽翔からだった。


『勉強してます』


その下には、広げた問題集とノートの写真。


「……」


さきの口元が少し緩む。


真琴が気づいた。


「天野?」


「うん」


「何て?」


「勉強してます、だって」


「ちゃんとやってるんだ」


結衣も笑った。


「報告してるんですね」


みおが首を傾げる。


「お姉ちゃんが送れって言ったの?」


「うん。勉強の報告なら送っていいよって」


「家庭教師みたい」


「私は何も教えられないけどね」


さきは何気なくテーブルを見る。


そして。


「……」


スマートフォンを構えた。


ぱしゃ。


「何してるの?」


「写真」


「それは分かるけど、なんで?」


「陽翔くんに送ろうかなって」


「……」


みおに嫌な予感が走る。


さきは、ティラミスの写真に一言添えた。


『女子会中』


送信。


少しして。


返信が届く。


『え!!!』


続けて。


『みおちゃんが作ったやつですか!?』


さきが返す。


『そう』


すると。


『ずるい!!』


『俺も食べたい!!』


さらに。


『俺も行きたかった!!!』


「ふふっ」


さきが吹き出した。


「何て?」


真琴に画面を見せる。


結衣も覗き込んだ。


「すごく羨ましがってますね」


「陽翔先輩、今日ずっとそれ考えてそう……」


みおが呆れる。


真琴がさらっと言う。


「今からでも行くって言いそう」


さきが笑う。


「聞いてみる?」


「やめて!」


全員が笑った。


◇ ◇ ◇


少しして。


真琴がティラミスを食べながら、ふとさきを見る。


「さきさん」


「ん?」


「一個聞いていいですか?」


「何?」


真琴が少し意味ありげな顔をした。


「天野のこと」


みおのスプーンが止まる。


結衣は。


やっぱり来た、という顔をしていた。


「陽翔くん?」


「はい」


真琴はかなり直球だった。


「あいつ、さきさんのこと本気で好きですよ」


「真琴先輩!」


みおが思わず声を上げる。


「そんなにはっきり言うんですか!?」


「だって分かるでしょ」


「分かるけど!」


結衣が小さく笑っている。


さきは数秒黙ったあと。


「ああ」


あっさり頷いた。


「そうだよね」


「……」


今度は真琴が止まった。


みおも。


「え?」


「知ってるよ」


「知ってるの!?」


みおの声が大きくなる。


「うん」


さきは普通にティラミスを一口食べた。


「だって、陽翔くん分かりやすすぎるから」


「いつから?」


「最初に会った日」


「黒瀬先輩の家で!?」


「うん」


「その日から!?」


「ずっと私のこと見てたじゃん」


「……」


みおはあの日の陽翔を思い出した。


確かに。


ものすごく見ていた。


真琴が少し呆れたように聞く。


「じゃあ、好意に気づいた上で連絡先交換したんですか?」


「したよ」


「……強い」


結衣がくすっと笑った。


「さきさんらしいです」


「何それ」


さきも笑った。


◇ ◇ ◇


真琴がさらに聞く。


「じゃあ」


少し間。


「陽翔に可能性ってあるんですか?」


「真琴先輩!」


「みお、気になるでしょ」


「……気になるけど」


結衣も。


少し興味深そうにさきを見る。


さきは「うーん」と考えた。


「陽翔くんね」


「はい」


「可愛いとは思うよ」


真琴が反応する。


「……可愛い」


「うん。明るいし、素直だし」


「はい」


「頑張って勉強してるのも偉い」


「はい」


「ちょっとお馬鹿だけど」


結衣が吹き出した。


「そこ入るんですね」


「そこも含めて可愛い後輩って感じ」


「……」


みおはさきの言葉を待つ。


さきはあっさり続けた。


「でも、今のところ恋愛対象ではないかな」


「……そっか」


「私、もうちょっと大人っぽい人が好きだし」


真琴が一秒考える。


「事前失恋」


「真琴先輩!」


「まだ告白してないですよ」


結衣も笑う。


「そうだよ」


さき自身も笑った。


「そもそも本人から何も言われてないのに、私から『ごめん、恋愛対象じゃない』なんて言うほうがおかしいでしょ」


「それはそうですね」


真琴が頷く。


「だから今は普通に接してるだけ」


「勉強も?」


「それは普通に応援してる」


さきはスマートフォンを見る。


さっき届いた。


『俺もティラミス食べたい』


というメッセージがまだ画面に残っている。


「せっかく目標できて頑張ってるんだから、受験は受験で応援したいしね」


「恋愛とは別?」


「別」


はっきりしていた。


「でも」


さきが少し笑う。


「頑張ってるのは可愛いと思うよ」


真琴が小さく笑った。


「本人が聞いたら、その一言だけで一週間くらい頑張りそう」


「ありそう」


結衣も頷く。


みおは。


少しだけほっとしていた。


「……」


さきがすぐに気づく。


「何その顔」


「何でもない」


「安心した?」


「してない!」


即答。


真琴がみおを見る。


「した顔」


結衣も。


「ちょっとしてました」


「結衣先輩まで!」


さきが笑う。


「妹ってそういうものなのかな」


「だって……」


みおは少し困る。


「陽翔先輩がお兄ちゃんになるの、まだ全然想像できない!」


真琴が思い出したように言った。


「本人はもう『お兄ちゃんって呼んで』って言ってたね」


「言ってましたね」


結衣も覚えていた。


「絶対呼ばない!」


また笑い声が上がった。


◇ ◇ ◇


「でも」


さきが言う。


「今の話、陽翔くん本人には言わないでね」


真琴が頷く。


「もちろん」


結衣も。


「はい」


「私がどう思ってるかは、必要になったら私が本人に言うから」


「うん」


みおも頷く。


それなら納得できる。


さきは恋愛感情を持っているふりをしているわけではない。


陽翔が頑張っていることは応援する。


好意に気づいていても。


まだ本人から何も言われていない以上。


勝手に答えを出して突きつけるつもりもない。


ただそれだけだった。


「特にみお」


さきが指を差す。


「なんで私だけ!」


「顔に出るから」


「出ない!」


真琴が即答する。


「出る」


結衣も。


「出ますね」


「二対一!」


「三対一」


さきが加わる。


「お姉ちゃんは最初から敵!」


また。


四人の笑い声がリビングへ広がった。


◇ ◇ ◇


それからも。


話はなかなか止まらなかった。


また、さきのスマートフォンが震える。


『ここ分からない』


問題の写真まで送られてきていた。


さきが画面を見ながら首を傾げる。


「私に聞かれても分かんない」


真琴が横から覗く。


「あ、これ?」


「分かるの?」


「分かる」


さきが文字を打つ。


『真琴ちゃんいるから聞いてみたら?』


すぐ返事。


『真琴怖い』


「……」


真琴の目が細くなる。


さきは無言でその画面を見せた。


「ふふっ」


結衣が吹き出す。


みおも困ったように笑う。


「陽翔先輩……」


真琴だけは。


「今度覚えてろよ」


低い声で呟いた。


さきが今度は。


『結衣ちゃんに聞きな』


と返す。


少しして。


『結衣ちゃん神』


「……こいつ」


「私は大丈夫ですよ」


結衣が笑う。


「結衣、甘やかさなくていい」


「でも、勉強ですから」


「ほら、甘い」


「真琴先輩が厳しすぎるんです」


「普通」


「普通じゃないです」


そこからまた。


笑いが起きる。


美容。


学校。


友達。


恋愛。


何でもない話。


少しだけ恥ずかしい話。


誰かの失敗談。


また恋愛の話。


話題は何度も変わりながら。


途切れることがなかった。


みおは。


最初こそ警戒していたけれど。


いつの間にか。


完全に女子会を楽しんでいた。


「……」


さきは、そんな妹を見る。


昨夜まで。


自分の気持ちが分からないと悩んでいた。


たぶん。


今日も。


夜が深くなれば。


またその話になるのだろう。


でも。


今は。


普通に笑っている。


それでいい。


「みお」


「何?」


「ティラミス、もう一個食べていい?」


「ダメ」


「即答!?」


「明日の分」


「写真送ったら余計食べたくなった」


「自業自得!」


真琴が笑う。


「陽翔にも残すんじゃないんですか?」


さきは即答した。


「やだ」


「ひどい」


結衣が笑う。


みおも。


声を上げて笑った。


佐倉家の女子会は。


まだ。


始まったばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。