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第12話 「その勇気の報酬は」

魔石発掘の翌日、ギルドの酒場にてエヴァが両手で魔石の欠片を持ちながらニヨニヨと笑みを浮かべていた。

 よっぽどアクセサリーを作りたかったらしい。


 【独奏突破(ソロ・ブレイク)】を使ったせいで全身が筋肉痛だけど、彼女のあの嬉しそうな笑みを見れば痛みも和らぐというものだ。


 「朝食食べ終えたらさっそくアクサセリーショップに行きましょうよ、シドゥさん!」

 「分かったから。焦り過ぎて喉に詰まらないよう気を付けろよ」

 「はいっ!」


 パクパクと朝食のパンとスープを口に運んでいくエヴァ。

 口では調子よく返事をしていたが、その食事ペースはかなり早い。


 まぁ、楽しみなのは俺も一緒だ。

 お揃いというのもあるが、あの魔石の欠片は俺がフルジール人に対して向き合った結果、つかみ取った戦利品だ。


 リンドウというフルジール人の助太刀もあって見た事もないような怪物を討伐し、あのフラタイン博士に認めてもらえた。


 クラウディオにパーティーを追放された時は絶望で明日も見えない状況だったが、エヴァと出会ったことをきっかけに俺も色々と変わり始めた気がする。


 もちろんそれも、良い方向へ向かってだ。


 「随分と嬉しそうですね、エヴァンチェスカさん」

 「あっ、モニカさん!」


 カウンター席に座っていた俺たちの元に、大量の資料を抱えたモニカが話しかけてきた。

 

 そういえば今朝からギルド内が騒がしいな。

 彼女の他にも受付嬢の人たちやギルド職員が、慌ただしく資料を抱え右へ左へ駆け回っている。


 「何かあったのか? 忙しそうだけど」

 「……当の本人は呑気なものですね。貴方たちも昨日見たのでしょう? 魔石を体内に宿したモンスターを」


 モニカの言葉に、洞窟内で討伐した異常発達していたカースドスパイダーを思い出す。


 「魔石を喰らう怪物。メリィーサ様は暫定的にその怪物を『魔喰種(まくいしゅ)』と呼ぶことにしたそうですが、魔喰種の登場で朝っぱらからずっとこの調子ですよ」

 「メリィーサ博士は今どこに?」


 昨日洞窟調査を終えた俺は、その疲労感もありすぐに街の宿へと戻り眠りについた。そこまでメリィーサ博士は着いてきてくれたが、今朝から彼女の姿は見当たらない。


 すると、モニカがわざわざ資料をカウンターに置き「こほん」と咳払いをした。


 ま、まさか……。


 「お姉ちゃん、急いで王都に報告しに戻らないとだからぁ、シドゥくんたちによろしく伝えといてね、モニカちゃん! あっ、あとこのメモをエヴァちゃんに渡しておいて! ……と、夜中に私の家に突如来訪しこの街を出ていかれました」


 メ、メリィーサ博士はやりたい放題だな。

 あの後モニカの家に押しかけて、その足で王都まで帰ったのか。凄い行動力だ……。


 別れの挨拶が出来なかったのは残念だったが、また会う機会もあるだろう。王都に寄る時が来たら、彼女を探してみるのもアリかも知れない。


 「私宛てのメモって何ですか?」

 「ああ、それならここに」


 大事そうにポケットに折りたたまれ仕舞われていた、小さな羊皮紙を2枚取り出すモニカ。

 それを受け取ったエヴァが羊皮紙を開くと、見覚えのある字がそこには書かれていた。


 「えっと、『魔石の欠片のアクセサリー加工は本来違法なので、地図に記されてるアクセサリー屋で加工してもらってね。お姉ちゃんの名前を出せば協力してくれるハズだから』だそうです」

 「地図って、これのことか?」


 もう1枚の羊皮紙を開いてみると、そこにはメリィーサ手書きの地図が描かれていた。

 

 「確かに魔石の欠片を持ってるってバレたら一大事だしな」

 「メリィーサ博士のご厚意をありがたく受け取りましょう!」


 モニカと別れ、俺たちは魔石の欠片を手に地図に記された目的地へと歩み始めた。


 

 ♢♦♢♦



 「ここ、ですかね?」

 「……だと思う」


 地図に従って歩いて来たはずだが、俺たちの目の前には貴族御用達といった雰囲気のかなり立派なアクセサリ-屋がそびえ立っていた。


 いやいやいや、明らかに俺たち場違いじゃないか。

 冒険者が訪れるような店じゃないぞココ。


 チラリとエヴァを見てみると、案の定ガチガチに緊張して固まっている。


 ただでさえ貧乏性な俺たちだ。

 溢れんばかりの豪華オーラに体が拒絶反応を起こしかけている。


 「吾輩の店に何か用か?」

 「うわっ!」

 「きゃあっ!」


 い、何時の間に後ろに人が!?


 振り返ると、ビシッと貴族の服に身を包んだ小太りの男が立ちすくんでいた。

 その眼は完全に俺たちを警戒している。

 取り敢えず客とは思っていないだろうな。


 「冷やかしなら帰ってもらいたいのだが?」

 「あ、あのっ、メリィーサさんという方からこのお店を紹介してもらったのですが――」

 「んなっ!? メ、メリィーサお嬢様から!?」


 お嬢様ぁ?


 目の前の小太りの男はエヴァからメリィーサ博士の名前を聞いた途端に、その態度を一変させた。

 深々と頭を下げると店の扉を開ける。


 「メリィーサお嬢様のお客人だとは知らずとんだ失礼を。ささっ、どうぞお入り下さい」


 真逆の態度に俺とエヴァは互いに顔を見合わせる。

 

 アクセサリー屋の中はかなり広く、商品棚には数多くのきらびやかなアクセサリーが綺麗に整頓されていた。

 その奥にあるカウンターに着いた小太りの男は、うって変わってにこやかな笑みを浮かべる。


 「吾輩の名前はバルトロと申します。メリィーサお嬢様には何時もよくして頂いてまして」

 「メリィーサ博士って、もしかして貴族の人だとか?」

 「当然でございます! ベルムート家と言えば、貴方たちもご存じでしょう?」

 「ベ、ベルムート家って。大富豪の貴族の1つじゃないか……」


 まさかあのマイペース博士がそんな偉い立場の出身だったとは。


 貴族の更に上の立場とも言えるベルムート家のご令嬢となれば、このバルトロって貴族も頭が上がらないって訳か。


 「ところで、本日はどういったご用件で?」

 「ああ、ここでアクセサリーを作ってもらいたいんだけど」


 エヴァがカウンターに魔石の欠片を置く。


 「こ、これは!? もしや魔石!?」

 「ああ、実はそうなんだ。メリィーサ博士からこの店ならアクセサリーに加工してくれるって聞いて」

 「むむっ。魔石の加工は経験が無いですが……。いや、メリィーサお嬢様からの頼み、吾輩やり遂げてみせましょうとも!」


 ギュッとバルトロは胸に拳を当てると、遠くをみるような目を浮かべた。

 よく分からないが、協力してくれるらしい。


 「では、どういったアクサセリーに加工しますかな? 指輪やイヤリングなど色々ありますが」

 「どうする、エヴァ?」

 「そうですね……」


 真剣な顔つきで悩むエヴァはぐるりと店内を見渡すと、とある一か所にてその動きを止めた。


 「あっ、あれが良いです!」


 パアッと顔を明るくしエヴァが指さしたその先には、胴体のみのマネキンが鎮座されている。

 

 「あれは……、首飾りか?」


 そのマネキンの首には、見事な装飾が施されたペンダントが添えられていた。

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