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傀儡呪

side 翼



「・・・例えば、人を操るのに一番適している、効率の良い方法は、一体何だと思う?」


 やっと皆の混乱が収まり、本来の話が出来ると感じた俺は、演説台の上に立ち国民に問いかける。


「・・・そんなの決まってるじゃないですか。『首輪』を使えばいい。それが一番簡単でしょう。」


 と、本来なら話題にするのも嫌だというように忌々しげに話したのは、一人の少女。彼女は、確か一番最初に襲撃した『牧場』で囚われていた娘だったかな。俺が直接助けた娘だからよく覚えている。あれ以来、時々俺に差し入れとかを持ってきてくれる優しい女の子だ。確か、朧月杏奈おぼろづきあんなちゃんだったか。


 周りを見れば、他の人たちも苦虫を百匹くらい噛み潰したような顔をしている。・・・この国では、やはり『首輪』という言葉は最大の禁忌タブーとなっている。・・・まぁ、言ったからといって何の罰則があるわけでもないぞ?ただ、その場の空気が最悪になって息が詰まるだけだ。


 ・・・皆、思い出したくない事をやらされているからな。時々、路地裏とかで静かに泣いている女性を見かけたり、既に死体はこの世に存在しないが、自分が殺してしまった仲間の墓を作って黙祷している人とかを見かける。


 今回の場合は、俺の問いの答えに最も相応しい答えだと感じたからこの娘も渋々答えてくれた感じだな。・・・でも、正しい答えじゃないんだ。


「それは違う。『首輪』は、人間を操るのに最も適した方法だが、効率としては良くない。・・・例えば、俺がこの中で一番最初に救った人たち。・・・今の四天王と呼ばれる彼らも入っていたその人たちは、『俺を殺せ』と命令を受けた。・・・・・・だけど、俺は今こうして生きている。それは何故だと思う?」


「・・・翼さんが、強いから・・・・・・じゃないんですか?その能力で全員の『首輪』を壊したんでしょ?」


 周りを見渡すと、他の人たちもそう思っていたようで、不思議そうな顔をしている。


「少なくとも俺は、その時まだこの能力を十分に扱えなかった(本当はその時はまだ能力を持っていなかったんだが)。だから、皆にそのままの状態で襲いかかられていたら、今俺は生きていなかったかもしれない。」


 その言葉を聞いて、皆の顔がかなり強ばった。その時にその場にいた人も居なかった人も、俺が死んでいたら今のこの暮らしは有り得なかったわけだから、その恐怖を感じているんだろう。・・・人は、一度何かを手に入れてしまうと、それを失う事を極端に恐れる。以前だったら諦めていた事を、今度は諦めきれなくなる。・・・しかも先程の話で、俺を失うと、魂の摩耗という理不尽なルールを消去することが出来なくなると知ってしまったから、これまで以上に俺の事を守護しようとしてくるんだろうな・・・。


「今俺が生きていて、そしてこの世界に囚えられた仲間を助ける事が出来るのは、その時の皆が『首輪』の命令に全力で逆らってくれたからだ。そのおかげで俺は能力を使う時間を(欲しい能力を考える時間)得ることが出来た。

・・・俺が何を言いたいのかと言うと、『首輪』には強固な意思によってある程度反抗出来るということだ。結局はその命令を実行してしまうことになるので抵抗しても無駄だと思うかもしれないが、こと戦闘行為において、その抵抗によって稼いだ時間の価値は金貨にも勝る。

『首輪』を使って『翼人』を操る奴らにとっては、致命的な時間を生み出してしまうということだ。・・・つまり、『首輪』っていうのはある意味で欠陥品なんだよ。」


 実際、俺たちが『牧場』の襲撃に何度も成功しているのには、コレが関係している。


 敵は、当然自分たちが一番大切だ。だから、自分たちが生き残るために自分たちの『牧場』の『翼人』を操って俺たちを殺しにかかってくる。奴らの魔法などは俺たちにとっては既に何の脅威でもないのだが、『翼人』だけは別だ。


 『翼人』の能力は強力だ。それは使っている俺達が一番よく知っている。だが、『牧場』襲撃で死亡者が出たのは今回が始めてなのだ。


 ・・・それは何故か?


 答えが先程から言っている『首輪にはある程度抗う事が出来る』という事実。俺たちはまず、『牧場』に捕らえられている全ての『翼人』に”念話テレパシー”で指示を出す。『助けに行くから全力で命令に抗って時間を稼げ』と。そうすることで、『首輪』による攻撃命令を受けても、ある程度時間を稼ぐ事が出来るため、その間に敵を蹴散らし、行動不能にする。そしてそのあと、俺が全員の首輪を外すのだ。


 これが、俺たちが今まで被害を全く出さずに仲間を救い出せた理由。


 言ってしまえば単純な作業だ。圧倒的な火力で、敵が全力を出す前に薙ぎ払うだけなのだから。・・・ただ、単純だからこそ強い。


「・・・だけど、これからは今までの方法が通用しなくなる可能性が高い。・・・つまり、敵は今までの非効率的な『首輪』に変わる新たな道具を生み出し、それを使って俺たちを操ろうとしているんだ。」


 ザワザワと皆が騒ぎ出す。そんな馬鹿なと驚く者、絶望に顔を染める者、怒りに顔を歪める者と様々だ。


「これが、『名前を剥奪された神』という、俺たちの真の敵が作り出した、悪魔の兵器だ!」


 俺が懐から取り出し演説台に叩きつけた物。それは一辺が5cm程の大きさの、水晶のように透明な正方形の箱だった。中には小さな緑色の粒が入っている。


 これは、あの時ジルが見せてくれた『傀儡呪』を”封鎖結界”によって封じた物である。


「先程の問いの答え。『人を操るのに適している、最も効率の良い方法は?』の答えがコレだ。

・・・これはね、『翼人おれたち』の脳みそに寄生して、記憶を都合のいいように改変する道具なんだよ。」


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