皆の意思を一つに
side 翼
・・・信じられない話だった。ジルが話した今回の敵側の作戦は、味方であるはずの他の全ての兵を見殺しに・・・いや、捨て駒にして、四天王と呼ばれる、俺達の主力の誰か一人を捕らえるためだけの作戦だったというのだ。そもそも、元々の自分たちの主力である、『勇者』さえも捨て石だったなどと・・・普通ならば信じられない。笑い話にもならない、そんな類の話だった。・・・だが、ジルの事を信じていないわけでは無いが、あまりにも荒唐無稽な話だったので、念の為”アーカイブ”によって調べてみたら・・・何と、其の通りだったのだ。・・・確かにいつもより敵が少なくて変だとは思っていたが、それでも500か600人程度は居たはずなのに。それを、ただ時間稼ぎのためだけに使ったというのか・・・!?
そして、実際にその作戦は成功している。『首輪』よりもタチの悪い・・・人間とはここまでの悪意を思いつくことが出来るのかと、少し信じたくなくなるようなこの『傀儡呪』。とことんまで俺たちの事が嫌いらしい『名前を剥奪された神』とやらによって創られたこれによって、千尋さんは操られてしまったのだ。
・・・くそっ!”アーカイブ”は強力な分、魂を他の能力よりも若干多く消費する能力だ。その為、使用する頻度を少なくしていた。前半で酷使して、後半で能力が使えなくなったというのが余りにも馬鹿馬鹿しすぎるという判断だったのだが、今回はそれが裏目に出た。・・・予め分かっていれば、こんな作戦に引っかかることも無かったのに!
そして、今回に限っては、このまま彼らの本拠地を割り出して捕らえられている千尋さんを救出・・・というわけにはいかないのだった。余りにも大きな問題が浮上している。先に問題を片付けるべきなのか、それとも千尋さんを救出するのを優先するべきなのかが分からない。
よって、問題を説明して意見を聞くために、俺たちは本拠地である”翼人国家日本”へ転移して戻った。
『皆、見ているか?今回は、大事な話があるんだ。』
次の日、俺は、特設会場からTV中継(のようなもの。まだ白黒の映像しか映せないが、近いうちに近代の日本の技術に追いつくだろう。現代日本と変わらない生活レベルにすることが出来るのも、そう遠い話じゃないはずだ)によって、全ての国民に呼びかけた。
この映像は、国家全体に影響がある議題なので、一旦全ての作業や仕事を中断させて、全員に見るように予め通達してある。
『さて、皆に説明しなきゃいけないことがある。・・・俺たちの今後の行動を決める大事な話だ。心して聞いてくれ。』
会場で直接聞いている人間も、中継で見ている人間も、皆が緊張しているのが伝わってくる。
『・・・今回の作戦で、俺たちは勝利した。・・・が、結果的には敗北した。確かに、あの場所に囚われていた仲間を救出することは出来たが、その変わりに何人も死なせてしまった。試合に勝って勝負に負けた。これは全て、俺の責任だ。”アーカイブ”という、彼らの作戦を確実に回避する手段があったのに、敵を侮って使用させなかった俺の責任だ。・・・ゴメン。』
頭を下げた俺に対し、質問の声が上がった。
「そもそも、何で使用しなかったんですか?どうも、上層部の皆さんは何かを隠している気がします。例えば銃火器。何故アレが必要なんです?戦闘系の能力を使用すれば、銃火器なんかを使うよりも効率よく敵を倒せるはずです。例えば戦闘用の車両。空間転移系の能力を使えば、多人数が瞬時に移動出来る。・・・なのに何故、能力を使えば片付く問題を、何故わざわざ遠まわしな方法を使って解決するんですか?」
その質問に同調し、「確かに・・・。」とか、「俺も気になっていた。」とかいう声が聞こえ始め、ほんの数十秒で大きくなっていった。
(・・・どうする?)
俺は、”念話”を繋いで貰い、幹部クラスの人たちに質問する。そもそも、俺は前世ではただの高校生で、本当ならこんな、一国の代表なんて立場に立つ人間じゃないのに、此処にいる皆を『首輪』から開放した英雄とか救世主という扱いを受けて此処にいる。・・・つまり、こういう政なんて全く分からないということだ。正直、【魂】に関する話題を暴露しても大丈夫なのか判断に困る。
(・・・そうですね、そろそろ隠し通すのも限界でしょう。・・・話すしかないでしょうね)
と宗二さんが返してくる。他の人たちも同意見のようだ。
(・・・わかりました。全てを話します)
(その説明は僕がしましょう。元々、この情報を最重要機密にしようと提案したのは僕だ。翼君はそれに従っただけなのだから、誹謗中傷を受ける必要はないですよ)
そう言うと彼は、俺を壇上から退かして自分がマイクの前に立った。でも、本当にいいんだろうか?確かに最重要機密にしようと提案したのは彼だが、俺たちもその意見に賛成して可決したのだ。彼一人に責任を負わせることが、本当に正しいのか?
(子供に全ての責任を押し付けるなんて、大人のすることじゃないしな。翼には既に、国家代表という大きな枷を付けさせてしまっている。その上こんな責任まで取らせたら、俺たちのいる意味がないだろう?)
と黒兎さん。
(子供は大人しくしてなさい。せっかく大人が庇ってくれるんだから、遠慮しないの)
と姫百合さん。
(・・・子供子供って連呼しないで下さいよ)
流石に幹部連中には敵わない。前世での年齢を話した事はないと思うんだが、今までの態度とか言動とかでバレていたようだ。
「混乱を大きくするということで秘密にしていましたが、実は我々『翼人』には、大きな制限があります。」
しかもそうこうしている内に宗二さんは話し始めてしまった。こうなってしまってはもう、俺が割って入ることは出来ない。大人しく成り行きを見守ろう。
「巫山戯んな!魂がすり減るだ!?そんなことを今まで隠していたのかよ!」
「・・・死んでもまたこの世界に転生する・・・?じゃぁ、例え自殺出来たとしても俺たちに救いは無いってことなのか?」
宗二さんが説明したことは
・能力を使用すると、若干の魂を消費し、魂の残量が零になると存在ごと消滅してしまうこと。
・更に、極度の緊張状態や興奮状態での能力の使用は、魂の消費を更に早めること。
・一度『翼人』としてこの世界に捕まった人間は、死んでも必ずこの世界に『翼人』として生まれ直すこと。
・ただし、これらの【ルール】は、天海翼(つまり俺)の能力のレベルが上がり、翼を展開出来るようになれば解除出来、すり減った魂を元の状態に戻すことが出来ること。
・この事を秘密にしていたのは混乱を避ける為で、その責任は自分にあること。
の5つだった。・・・ただ、最後のは自分ひとりに矛先を向けさせようとしたんだろうが。
それを聞いた国民は怒り狂った。・・・というより、混乱した。そして、余りにも理不尽で不条理なこの世界に対する、今まで積もり積もった怒りが爆発したと言ったほうが正しいのか?大勢の人が叫び、嘆いた。中には能力を使用して攻撃しようとした奴もいたが、黒兎さんの「話を聞いていなかったのか!」という叫びによって使用を止めた。こんな精神状態で使用すれば、どれほどの魂を消費するのか分からないからだ。
だが、そんなことで彼らの怒りが収まるはずもない。・・・当然だろう。今まで彼らは何年も、下手をすれば何十年も拷問に耐えてきた。死ぬことも許されず、狂う事も許されずただただ耐えてきたのだ。
戦争などで死ぬ事をただ一つの救いとして今まで頑張ってきた彼ら。・・・・・・なのに、死んでもまたこの世界に囚われるというのなら、彼らの救いは最初から何処にも無かったということだ。
俺はグノーによってこの世界に連れてこられた人間だ。当然拷問なども受けたことが無い。だから俺には、彼らの気持ちは分からない。・・・分からないんだ。
苦しかったんだろうと思う。悲しかったんだろうと思う。憎かったんだろうと思う。・・・でも、想像しか出来ない。そして、俺の陳腐な想像力では追いつかない程に恐ろしい仕打ちを彼らは受けているのだ。その彼らが受けた衝撃は、どれほどの物だろう。
「・・・そうやって嘆いて、何か状況が変化するんですか?」
宗二さんの冷たい声が響く。
「確かに我々は皆さんにこの情報を秘匿していました。・・・ですが、最初からこの情報を出していたら、皆さんは能力を使う事が出来ましたか?この短期間でここまで国を発展出来たのは能力の御蔭です。今私たちが憎いこの世界に復讐することが出来ているのも能力の御陰です。・・・この能力を使用することを躊躇っていたら、今でも私たちは、森の中や砂漠でヒッソリと暮らしながら、アイツ等の追っ手に怯え続けなければいけなかったかもしれない!」
宗二さんの叫びによって、会場は一瞬で静かになった。皆、彼の言葉の意味を正確に理解しているのだろう。
「我々のやったことが正しかったのか間違っていたのかは、全ての問題が片付いた後、皆さんが判断してください。・・・ですが、これだけは知ってもらいたい。」
ゴクリと、誰かが唾を飲み込む音が聴こえた。それ程に今の会場は静かで、先程までの喧騒が嘘のようだ。
「我々四天王と呼ばれる人間の魂の残量は・・・あと三分の一も有りません。」
『・・・っ!』
「だけど、我々には翼君がいます。私たちの魂が尽きる前に彼の能力をレベルアップ出来たら我々の勝利。それが出来なかったら我々の負けです。・・・我々が焦る理由が、分かったでしょうか?」
彼らに付いている枷が無くなれば、世界征服だろうと、武力による威圧で今後一切俺たちに関わる事を出来なくすることだろうと容易だ。
逆に、このまま何もせずにこの島国に引きこもって生活していても、人が寿命や事故で死んだ場合、まだ各国に存在する『牧場』に生まれ直す可能性は高い。そうなれば、その人は戦争などに駆り出され、魂が尽きるまで戦わせられるかもしれない。俺たちに、戦わないとか、能力を使わないなどという選択肢は最初からないのだ。
そもそも、俺には瞳を救うという第一目標がある。この国の人たちが戦わないという選択をしたら、俺はこの国を出る。そして、姫百合さんのように、各国の戦争に介入して能力のレベルを上げなきゃいけなくなるだろうな。
「我々に、戦わないという選択肢は有りません。それなら、なるべく燃料が残っている今のうちに、出来るだけ有利な状況にしたいんです。・・・お願いです皆さん。力を貸してください。」
そして、今最も消滅の危機に近い場所にいる四天王の土下座に文句を言えるような神経の太い人間は、ここには居ないようだった。・・・この国は今、やっと一つになったのだ。
・・・コミュ力不足でした。疲れる・・・。




