戦闘2
side 赤嶺黒兎
「ガッ・・・・・・!?」
気が付いた時には、俺の腹にジルの拳が突き刺さっていた。
(ば、馬鹿な・・・!全然見えなかったぞ・・・!?)
「・・・Aha♪」
ジルは、目を見開き、口を愉悦に歪ませて、追撃を放とうとしてきた!
「く・・・!」
反射的に、自分自身にジルから離れるように水平方向へ5倍の重力を掛けて落ちる。
「ぐ、が・・・!」
急速なG変化によって体がダメージを受けるが、奴の追撃を喰らうよりマシだ。アレを喰らっていたら、既に俺は死んでいたかもしれない。
『大丈夫黒兎!?今援護を・・・!』
『援護は要らない!』
『え、でも・・・!』
『別に死にたいわけじゃないから安心しろ。どうしても勝てないと思ったら援護を頼む。・・・でも、俺は、コイツを真正面からぶっ潰してやりたいんだ。』
これは、唯の意地だ。我が儘だというのは分かっている。俺たちとしては、『勇者』を倒したという事実さえあれば、そこに至るまでの過程は関係ないのだから。どうせ目撃者は全て排除するのだ。後で首でも送りつけてやればいい。正々堂々戦おうが、卑怯に不意打ちで倒そうが、『『翼人』は『勇者』を倒すほどの力を持っている』と認識させることさえ出来れば十分なのだから。
『・・・でも、あんな子供があんな壊れた笑顔をしてるんだぜ?・・・・・・俺には、あいつが泣いてるように見えるよ。救ってやりたい。』
勿論、ジルはそんなこと一言も言っていないし、唯の自己満足だ。それは分かっている。・・・だが、それでも譲ることは出来ない。
俺たちと同じように、生まれてからずっとこの世界に人生を弄ばれた子供。俺たちは、前世の知識や価値観があったから耐えることが出来たが、彼はそうじゃない。真っ白な、何も知らない無垢な状態から、ここまで調教されてきたのだ。
『四天王の一人として、正々堂々と『勇者』に勝利してみせる。・・・だから、見ててくれ。』
『・・・・・・分かった。でも、貴方は私たちに必要な人間なの。絶対に勝ちなさい。』
数秒逡巡した彼女だったが、了承してくれた。これで、心おきなく戦う事が出来る。
「うーん、コレが君の能力?」
ジルは、何か考えているようだった。
「面白いなー。どういう能力なんだろう?僕みたいに加速しているってわけじゃないみたいだったよね・・・。だって、足も地面に付いていなかったのに、不自然なスピードで僕から離れた。風とかを操る能力かな・・・?」
独り言を言っていた彼だったが、不意に首を横に振る。
「ま、いっかどんな能力でも。叩き潰せばいいだけだしね。」
そう言って、彼が此方を向いた瞬間
「・・・!」
ドン!という音と共に、気がついたら目の前にジルがいた。
「舐めるな!」
だが、今度は微かにだが見ることが出来た。それは、俺が予め目の前の空間に、十倍という途轍もない重力を掛けていたからだ。それにより、彼のスピードは減速され、視認出来るまでに落とされた。
「え・・・何これ!?」
ジルは驚いた声を出すと、即座に10m程後退した。
(十倍でやっとこのスピードかよ!?どれだけ早いんだ!?)
空間が歪んで見えるほどの重力内で、尚もそのスピードは圧倒的だった。だが、この程度ならば対処も出来る。
(十倍は俺にも負担が大きいからな。短期決戦で行かせてもらうぞ!)
極度の興奮状態の時に能力を使用すると、時間が経てば経つほどに魂を消費するのが既に分かっているからな。多少負担が大きくてもここは短期で決着をつけるしかない。
「体が重くなる・・・!?」
ジルはそう言いながらも走りよってくる。そのスピードは、さっきよりも更に早い!
(馬鹿な、まだ本気じゃなかったのかよ!?)
『勇者』とは、本当に化け物並みの力を持っているなと、自分の事を棚に上げつつ考える。そして、能力の効果範囲を広げて、今彼がいる場所も範囲に入れる。そして、能力圏内を二つのエリアに分けて、彼がいるエリアの重力を、俺のいる方向へ落とすように設定し、もう一つのエリアの重力を、彼のいる方向へ落ちるように設定する。すると、流石に重力の方向までは抗えないらしく、ジルが叫びながら落ちてきた。
「う、うわぁーーー!?」
「これが、俺の切り札だ。」
俺は、ポーチから一抱え程もある大きな袋を取り出す。このポーチにも”空間連結”が付与してある為、無限に何でも入れる事が出来る。
そして、俺はその中身を空中へばら蒔いた。その中身は俺の能力の圏内に入った瞬間、彼の方向へ落ちていく。
「重力百倍。」
そして、此方の重力を百倍に設定した瞬間、ヒュゴ!という凄まじい音と共に、それらは落ちていく。
俺がばら蒔いた物の正体は、何の変哲もない、パチンコ玉位の大きさの金属の玉だ。ただし、”想像金属創造”によって、『熱で解けない』という概念を設定された幻想の金属で出来た物だが。それが、数百個、あの袋には入っていた。
さて、それが百倍の重力で加速されたらどうなるか・・・?
「あ、が・・・ゴ・・・ガガガガガガガガガガガ!?」
ボボボボボという音を立てながら、ジルの体を削っていく。まるで大気圏を突破した隕石のような攻撃力を持つ玉によって、『勇者』と言っても、唯の人間の体しか持たないジルが耐えられるはずもなく。
「・・・御免な。強すぎて手加減出来なかった。」
そこには、見るも無残な姿になったジルの姿があった。・・・先程もやったように、重力を逆転させて大気圏外まで落として殺すという選択肢もあったんだが、『勇者』を倒したという証拠を手に入れなければならないため、大地で殺す必要があった。しかし、それだと彼の異常な戦闘能力に対処出来なかった為、こんなムゴイ倒し方になってしまった。
「・・・・・・これは、素直に援護を頼んだほうが良かったかもしれん。」
そうすれば、ジルもここまで痛めつける必要が無かったかもしれない。
「偉そうに言っておきながら、こんな酷い殺し方しか出来なかった。救いたいとかいっておきながら、自分の命を優先した俺を・・・許さなくてもいいぞ。」
・・・俺は、人として最低の人間かもしれないな。
『・・・戦闘は終了した。彼の遺体を回収しておいてくれ・・・・・・。』
『・・・分かったわ。』
そうして、踵を返して去ろうとした俺の耳に・・・有り得ない音が飛び込んできた。
「・・・A・・・・・・ha♪」
「・・・・・・・・・馬鹿な。今ので生きていられる訳が・・・!」
バラバラという表現でも足りないくらいになっていた筈の彼の肉体が、復元されていくのだ。
「い・・・痛い、なぁ・・・・・・。でも、でも、楽しいな・・・。」
バラバラになっていた肉が、ゲル状になってジルの体に張り付いていく。
「・・・悪夢のような光景だ、な・・・・・・。殺しすぎた俺への罰とでもいうのか・・・?」
十秒もせずに、彼は肉体の全てを再生しきってしまった。そこに居たのは、傷一つなく、疲労しているようすもない『勇者』の姿。
「じゃぁ・・・またやろうよ!」
「・・・勘弁してくれよ。」
先程の繰り返しのように両者が戦闘体勢を取り、また戦闘が始まるといったその瞬間
「『勇者』、ジルアート・アスベルの【ルール】、『神話級不死性』を破棄!更に、『盲信』、『絶対服従』を破棄!」
俺たちの救世主の声が響いたその瞬間、ジルの体から眩い緑色の光が溢れ出した。
「え・・・え!?」
「これは・・・・・・!」
俺達二人が声のした方向を見ると、そこには思った通りの少年と、彼の護衛である少女がいた。
「俺の名前は天海翼。フラム王国の『元勇者』。・・・俺たちと一緒に、世界を変えて見ないか?」
ジルに、優しく手を差し伸べながら。




