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『勇者』

side 赤嶺黒兎



 最初に感じたのは、違和感だった。


『・・・変だな。』


『何がです?』


 狙撃・補給部隊隊長で、今は俺の補佐をしてくれている凛子が聞いてくる。


『今回の敵は、二国の混合軍だったはずだよな?』


『はい。そうですけど・・・?』


『・・・数が少なすぎる。ここに来るまでに、たったの二百人くらいしか倒していないぞ?今までよりも少ないのはどうしてだ?』


『・・・そういえば。』


 そう、今回の作戦の目的は、圧倒的な武力によって世界に恐怖を植え付けること。それなのに、今までの中で一番敵の数が少ないのだ。これでは、この作戦の意味がなくなってしまう。


『他の区域ではどうだ?そっちに人員が多く配置されていたりはしないか?』


 と少しの希望を込めて尋ねてみるが、返ってきたのは否定。


『いえ、どこも同じくらいです。・・・どういうことでしょう?』


『たったこれだけの戦力なら、投入する意味がない。無駄に兵を減らすだけだからな。それなら、むしろ無抵抗で逃げたほうがマシだ。』


 千や二千の兵力では、敵に勝機などないのは、他の国の経験から分かっているはずなのだ。なのに逃げていないという事は、敵は何らかの作戦か、切り札を持っているのだろうか?


『・・・凛子、監視を強化してくれ。嫌な予感がする。』


 俺は、ポーチに『緊急脱出用ボタン』が入っているのを確認する。これも”能力付与”によって創られた作品で、小さい灰色の箱に真っ赤なボタンと保護シールドが付いている。これには”空間連結”の能力が付与されていて、緊急時には、コレの保護シールドを開けてからボタンを押すことで、本拠地へと転送されることになっている。使い捨てで、一度使うと効力が無くなってしまうが、俺達全員に一つずつ渡されている。





 さて、取り敢えず周囲の敵は滅ぼしたし、後は他の地区の報告を待つだけかと思っていたその時だった。


『・・・っ!何これ!?』


 突然、凛子から念話が来たのだ。それも、かなり切羽詰った声だった。


『どうした!?何があった!?』


『凄いスピード・・・!駄目、狙撃も当たらない!避けられる!!本当に人間なの!?』


『何だと!?』

 

 俺は驚愕した。この世界には無い狙撃を避けることが出来る人間などいるのか(そもそも、音速で飛来する銃弾を避けることが可能なのか?)!?


『気を付けて、あと一分もしないうちに其処に来るわよ!』


『了解!』


 彼女の、半ば悲鳴のような警告を聞き、なおさら気を引き締めた。俺の能力は、無敵ではない。他の能力よりも応用性と威力が高いだけで、他の四天王の女性二人のように、攻撃を喰らっても再生するなどといった特技は無い。血を流し過ぎれば死ぬ、心臓を貫かれれば死ぬ、頭を吹き飛ばされれば死ぬ、そういう弱い存在でしかない。


 だから、強者とはなるべく出会いたく無かった。俺の役目は、有象無象の一掃であり、強者との一体一タイマンは、千里や白金に任せるべきなのだ。


「・・・と、我が儘言っても仕方ないしな・・・・・・。」


 既に、俺の立つ場所からでも、ドドドドドという凄まじい音と共に、大量の砂埃が舞っている光景が見える。今から逃げても追いつかれるだろうし、そもそも敵に恐怖を与える作戦で、仮にも四天王などと恥ずかしい名前で呼ばれている俺が逃げ出したら駄目だろう。


「・・・よし、やるか!」


 俺も、日本で育っていたからには、少し位ならゲームの事も分かる。四天王とは、その背後に座る王を守護する存在。敵に弱みを見せる訳にはいかない。四天王は四天王らしく、堂々と振舞わなければならないのだ。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドと、凄まじい地響きを立てて走ってきた人物は、俺の少し前で止まった。


「・・・質問だけど、貴方が四天王の一人・・・アカミネコクト・・・でいいのかな?」


「・・・ああそうだ。俺が赤嶺黒兎だ。」


 土埃が落ち着くと、其処に立っていたのは、何と年端も行かないような少年だった。落ち着いた銀色の髪は肩の辺りまで伸ばされていて、茶色のローブを羽織っている。柔和な顔立ちをしていて、戦場に立つには不釣り合いな人間だと思った。


 ・・・だが、見た目に惑わされてはいけないことも分かっている。この少年は、凛子の狙撃を避けたのだ。どういう方法を使ったのかは知らないが、それは事実。それに、立ち振る舞いを見ても隙はなく、この少年が相当の実力者だと言うことが分かる。


 それに、俺の名前を知ってここに来たらしい。つまり、俺狙いだということ。今まで、俺たちの存在を知らしめる為に四天王は戦場で名乗りを上げてきた。大昔の戦国武将のように。その効果が、嫌な形で現れたということだろう。


「僕は、フラム王国の『勇者』の、ジルアート・アスベル。ジルと呼んでよ。」


「・・・!」


 成程・・・コイツが『勇者』か。『勇者』とは、各国に一人いる最強の守護者のことだ。毎年、各国で行われる武芸大会で優勝した人間が、その国の最後の砦として『勇者』の称号を得る。その人間は、その国内であらゆる権限を有し、単独で行動出来る権限を持つという。


 ・・・のが、表向きの『勇者』だ。だが、”アーカイブ”によって調べた『勇者』の実態は酷い。俺達『翼人』といい勝負だと言える。


 彼らは、赤ん坊の頃からその国のありとあらゆる魔術や技術によって徹底的に肉体や精神を改造された、国防の為にのみ存在する操り人形、生きた兵器なのだ。武芸大会なんて、所詮は何も知らない無知な国民を騙す為のフェイクに過ぎない。何故なら、その国の技術の粋を集約させ、文字通り生まれた時から戦闘経験を積んでいる『勇者』が負ける訳が無いからだ。最初から優勝者が決まった出来レースに過ぎない。


 そして、『国に仇なす者の排除こそが最高の喜び』と洗脳インプットされた彼らは、自らに疑問を持つことなく、死ぬその時まで戦い続けるのだ。


「・・・・・・君には、同情するよ。同じような境遇の人間としてね。」


「・・・?」


 俺の言っている事が分からないのだろう、ジルは首を傾げている。


「だが、俺たちも負けるわけにはいかないんだ。こんな世界に拉致されて、望まない終焉エンディングを迎えた仲間たちのためにも、ここで立ち止まる訳にはいかない。俺たちは、絶対にこの世界の神とやらをぶっ殺さなくてはならないんだ。」


 だから、と俺は続ける。


「悪いが、死んでやる訳にはいかないんだよ!」


 その言葉を聞いた瞬間、ジルはニタァと笑った。何処までも楽しそうで、何処までも悲しそうな、そんな純粋なこわれた笑顔。・・・こんな顔を子供にさせるのが、この世界の正義なのか・・・!


「何だ、戦いたいならそう言ってくれればいいのに。難しい言葉は分からないよ。」


 そして、俺たちは戦闘体勢をとり・・・


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