『元勇者』が仲間になったぞ
side 翼
「ヤバイ!!」
俺は、後方支援として”空中神殿”にいた。囚われていた『翼人』の首輪や洗脳を解除するためや、厄介な能力を持つ敵の無力化の為で、毎回ここにいる。そんな俺は、どんな事態にも対応出来るように、加持守家さんの”水鏡”という能力で、前線での戦闘を全て把握していた。
「今、彼を失う訳にはいかない・・・!」
そして、恐れていた事が現実になろうとしていた。何と、今回の敵である『フラム王国』と『レジナル王国』は、自国の奥の手である『勇者』を、同時に出撃させてきたのだ。だが、千尋さんと戦っている相手はまだいい。彼女が一対一で負ける訳はない。所持している能力的にも、彼女の驚異になる敵ではなさそうだ。
しかし、問題は黒兎さんのほうだった。彼と戦っている『勇者』の持つ能力は、彼と相性が悪すぎる。・・・というより、『四天王』の全員と相性が悪い。なりふり構わなければ黒兎さんもあんなに苦戦することはなかっただろうけど、『勇者』を倒したという証拠を残さないといけないから手加減せざるを得ない。・・・だが、手加減して勝てる能力じゃないのだ、あの『勇者』の持つ能力は。
「俺が行く!誰か、転送系の能力を持つ人間はいるか!?」
「スイマセン、他の地区の援護に行っていて、残っていません!」
「ちっ・・・!」
舌打ちをするが、それも仕方がないことだろう。そもそも、転送系の能力者は数が圧倒的に少ないのだ。既に二千人に届く俺達の中で、転送系能力者はたったの7人。しかも、短い距離しか転移出来なかったり、少ない人数しか運べなかったりと制約も多い。むしろ、”空間連結”が異常なのだ。
だが、それでも戦略上、経済上の利益は計り知れない。だから、今全ての転移系能力者が出払っていても、全く不思議ではない・・・が、
「くそ、こんな時に・・・!!」
黒兎さんを失うわけにはいかないのだ。あのジルアートとかいう『勇者』の能力は、俺以外の人間では太刀打ち出来ない。誰が相手をしても、精々時間稼ぎしか無理だろう。それ程に理不尽な能力なのだから。
今から自力で移動したとして、それまで黒兎さんは耐えることが出来るだろうか?この『牧場』は世界的に見ても広大で、俺の強化された身体能力を以てしても、恐らく到着までに10分以上は掛かる。黒兎さんは先程大技を発動したし、更に、今不可解な物を見たせいで混乱している。それによって精神が極興奮状態になっている彼が後先考えずに能力を連発したら・・・最悪、十分しないうちに彼の魂は消滅するかもしれない。
「・・・どうすればいい!?」
「私に任せて。」
叫んだ俺の前に現れたのは、一人の少女。つい最近仲間になった、『傭兵』の真柴姫百合さんだ。俺たちと出会う前から、フリーの傭兵として各地の戦場で戦っていたという、特殊な経緯を持つ女性だ。彼女の話はまた今度することにするが、新参ながら、その能力の強力さによって、俺の親衛隊長にまでなった人物だ。・・・いや、別に俺は親衛隊なんていらないって言ったんだが、皆が『トップに護衛がいなくてどうする』っていうから、仕方なく新設した部隊なんだが。だが、彼女の力は、使いようによっては四天王よりも強力だ。
「そう、か・・・!貴方の力なら・・・!」
「そういうこと。・・・・・・行くよ。」
そう呟いた彼女の背に現れた翼は、目を灼く程の光を放つ黄金。よくよく見れば、その翼は地球とこの世界の様々な国、時代の金貨を模した光が寄り集まって構成されていることが分かる。
『久しぶりに呼んでくれたじゃねぇか。寂しかったぜ相棒?』
「そうね。久しぶり、ギン。」
彼女の手に現れたのは、銀色の懐中時計。だが、その蓋の表面には、悪魔の口のような形をした大きな口が彫り込まれている。そして、それが動いて言葉を発しているのだ。始めて見たときは驚いたよ。本当に『翼人』の能力は幅が広い。この世界の神とやらは、どうして俺達にこんな力を与えたんだ?
「私達二人分だと幾ら?」
『そうだな・・・金貨二枚ってことろか。それで辿り着くまで『進めて』やる。』
その言葉に頷くと、彼女は腰につけた小さな鞄(これにも”空間連結”を付与してある)に手を突っ込み、二枚の金貨を取り出した。俺の手を昔みたいに掴んで・・・呟く。
「”時は金也”。」
彼女は、持っていた金貨を懐中時計の口に近づけ、突っ込んだ。すると、時計は金貨をバリバリと噛み砕きながら、告げた。
『加速。』
その瞬間、周囲から音が消えた。
「行くよ。」
「おう!」
俺達以外に動くものが無くなった世界で、俺たちは手を繋ぎながら走り、”空中神殿”から飛び出した。
だが、風の音すら聞こえない。飛んでいた鳥も、その場で固まったように動かない。俺たちは、全く無音に変化した世界を落ちていく。
「出番だよ。」
「分かってる!」
そう言って、俺は迫り来る大地を睨みつける。すると、その大地の情報が頭の中で浮かび上がる。
それを操作して、俺たちが着地すると思われる区画の地面に、【衝撃全吸収】というルールを付け加える。
「よっと!」
全く何の衝撃も音もなく着地した俺たちは、地面に付け加えた【衝撃全吸収】を消してから走り出した。そうしないと、歩くときの衝撃も吸収しちゃって動けなくなるからな。
『ははは!相変わらず便利な能力だな翼!』
「全くだ!」
その意見には全面的に同意するよ!でも、様々な場面に対応出来るようにこの能力を貰ったんだから、これくらいは出来ないと困るんだがな!
「急ぐぜ!」
「うん!」
未だ、周囲の物は動かない。・・・いや、よくよく見れば非常にユックリと動いてはいるんだが、それが分からない程に俺たちが・・・俺たちの時が加速しているのだ。これが、彼女の能力”時は金也”。彼女の能力は、俺たちの中でも、更に特異な能力だ。
”時は金也”は、『時間を金で買う能力』だ。ギンに喰わせた金貨の価値分、対象の時を操作することが出来る。今みたいに、俺たちを周囲の時間から切り離して加速することも出来れば、逆に、時を巻戻して若返らせる事も出来る。文字通り金を喰う能力だが、使いどころを間違えなければ非常に強力な能力だ。
だが、彼女の真価は別にある。彼女は、能力の行使に殆ど【魂】を消費していないのだ。彼女が【魂】を消費するのは、己の能力の産物であるギンを生み出す時だけ。『時を操作する』という能力は、ギンが使用しているのだ。しかも、ギン自体も『金を喰う』という行為で代償を払っているため、魂などの消費は存在しない。
つまり、彼女は、今現在のところ、俺を除けばただ一人だけ【魂の摩耗】を気にすることなく能力を使えるということになる。これは、大きな利点だ。・・・金は使うけど。
どの位の金を払わなければいけないかはランダムだ。ギンのその時の気分で決まるらしい。金貨一枚で済むこともあれば、十枚取られることも有る。だから、彼女の鞄は、俺たちの金庫に接続してあって、いくらでも金貨を取れるようにしてある。・・・ただ、”アーカイブ”によって誰が何時何をしたのかは簡単にバレるので、能力に必要な時にしか使わないだろうが。
さて、走り続けた結果、何とか黒兎さんたちの姿が見えてきた。
っていうか、やっぱり厄介な能力を持っていやがるなあの勇者。肉塊が蠢く様は長く見ていたいものじゃ無いな・・・。
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・名前:ジルアート・アスベル
・性別:男
・属性:運命干渉・神性
・能力:人形操作
呪いを掛けられています。
・呪い:神話級不死性・盲信・絶対服従
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何だこれ?名前だけじゃ判断出来ない能力がいくつかある。しかも、呪いかけられすぎだろ!
『神話級不死性とは・・・また恐ろしい物を使うねこの世界の人間は・・・。』
(何だ?何が恐ろしいんだ?)
『神話級不死性・・・それは、神に近づく為に創られた禁呪だよ。その効果は、神性が存在しない攻撃での死亡を無効化するという、『運命干渉術式』さ。・・・でも、その代償として、使用者は、戦う度に理性を削られて狂い、更に転生の輪からも外れてしまうというデメリットを持っている。・・・つまり、生き返れなくなるってことさ。君たちと同じ立場と言っても過言じゃ無いかな。』
(・・・本当に、この世界の人間は狂っているな。)
『翼人』だけでは飽き足らず、元々自分の世界の人間にすらそんなことをしているのか。・・・やっぱり、この『勇者』は被害者じゃないか。この世界の。
『助けるなら、他の呪いも一緒に解いておいたほうがいいよ。理性を取り戻しても、盲信と絶対服従があれば襲ってくる筈だからね。』
(分かった!)
そして、彼らの元にたどり着いた。
『時間切れだ。』
ギンがそう言うと、周囲の物が動き出す。音が戻ってきた。そして、俺は与えられた僅かな時間で叫ぶ!
「『勇者』、ジルアート・アスベルの【ルール】、『神話級不死性』を破棄!更に、『盲信』、『絶対服従』を破棄!」
彼の体から緑色の光が溢れ出し、正気を失いかけていた彼の瞳に理性の色が戻ってくる。
ステータスを見て、成功したことを確認し、俺は世界に使い捨ての道具として扱われた彼に手を差し伸べる。
「俺の名前は天海翼。フラム王国の『元勇者』。・・・俺たちと一緒に、世界を変えて見ないか?」
まるで、悪魔の囁きのようなその言葉に・・・『元勇者』は、首を縦に振った。
能力解説コーナー
・”時は金也”
真柴姫百合の能力。彼女の能力は、正確に言えば、『時を操作する能力を持つ懐中時計を召喚する』能力である。この召喚自体にはあまり魂を消費することはなく、何度使用しても問題ないレベルである。その能力の強力さと、【魂の摩耗】を気にすることなく能力を使用することが出来るという点から、翼の護衛隊長に抜擢された人物。
彼女の能力によって召喚される懐中時計は自我を持っていて、名前はギン。彼も、能力の使用代償に【魂】ではなく、【金】を使用することで、金がある限り無限に能力を使う事が出来る。彼の能力で出来ることは幅が広く、人や物の時を進めればその対象は周囲の時間の流れから切り離されて擬似的に【加速】することが出来るし、逆に時を戻す事で、怪我を直したり若返らせたりすることが可能。ただし、この能力を使用されている最中は、掛けられた倍率によって歳を取ったりするので注意が必要。あまり長く能力を使用すると、何時の間にかヨボヨボの老人になったりするかも。
・”水鏡”
加持守家の持つ能力。
水と水、鏡と鏡を繋げる能力。それに映っている映像を見ることも出来るし、それ自体を繋げて擬似的に転移することも可能な能力。しかし、これには制限が掛けられていて、『転移可能距離は30m程』、『入口と出口が、十分な広さを持っている』という二点が揃っていることが必須。今回の場合は、『牧場』の内部に転移可能な広さを持つ水場や鏡が存在しなかったため、使用出来なかった。
だが、転移能力としては微妙だが、監視能力としては優秀。人の眼球の水晶体を鏡に見立てることで、その人間が見ている光景を監視することが出来る。勿論、この能力を使用することは戦闘員には話している。




