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笠木珠江物語〜へこたれてたまるか〜  作者: リンダ


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それでも続ける理由

第26話


「それでも続ける理由」


配信を始めて、一週間。


再生回数は、静かだった。


一万。

二万。

三万。


爆発的ではない。

トレンドにも乗らない。


「……まあ、こんなもんか」


珠江はスマホを置いた。


その横で、一郎が画面をのぞき込む。


「でも減ってへんで」


「減るって何や」


「普通、伸びん動画って途中で止まるやろ。でもこれ、毎日ちょっとずつ増えてる」


珠江はもう一度数字を見る。


確かに。


一日あたり、約千再生。


大きくはない。

でも、止まらない。


翌日。


劇場で北川レンと顔を合わせた。


レンの動画は、相変わらず強かった。


新作ネタは一晩で数十万再生。

コメントも多い。


珠江は正直に言う。


「すごいな」


レンは苦笑する。


「でも、三日で止まります」


「止まる?」


「はい。最初は一気に伸びるんですけど、すぐ次のネタに流れていく。再生は増えても、同じ人が何回も見てる感じじゃない」


珠江は少し考えた。


「消費されてる、ってことか」


レンは頷く。


「面白いとは言われる。でも、“また見たい”とは言われにくいです」


その言葉は、珠江の胸に残った。


その夜。


珠江は自分の配信のコメントを見返していた。


《昨日のネタ、もう一回見に来ました》

《前に見たやつ、今日も思い出して見ました》

《夜しんどくて、また来ました》


派手な数字ではない。


でも、同じ人が戻ってきている。


珠江はネタ帳を開いた。


《AIネタは爆発する》

《でも、早く流れる》

《珠江のネタは遅い》

《でも、止まらない》

《再生回数にも種類がある》

《一回見て終わる笑い》

《何度も戻る笑い》


その数日後。


珠江の配信動画の一本が、ふとしたきっかけで少しだけ拡散された。


バズではない。


でも、じわっと広がった。


そして、止まらなかった。


一週間後。

再生数はまた増えている。


二週間後。

まだ増えている。


一ヶ月後。

まだ、毎日千人ずつ見ている。


珠江は、画面を見つめた。


「……なんでやろな」


そのとき、涼子からメッセージが届く。


《このネタ、何回も見てます》


珠江は、小さく笑った。


分かった気がした。


爆発する笑いは、広く届く。

でも、長くは残らない。


ゆっくり届く笑いは、広がらない。

でも、残る。


珠江は、次の配信で話した。


「最近、気づいたんです。笑いにも“花火型”と“薪ストーブ型”があるなって」


コメントが流れる。


「花火は一瞬でドーンって上がる。みんなが見る。でも、すぐ消える」


少し笑い。


「薪ストーブは、火つくまで時間かかる。でも、一回ついたら、じわじわ長く温かい」


コメント欄に、


《分かる》

《薪ストーブ芸人》

《それ好き》


珠江は続ける。


「私はたぶん、薪ストーブ側です。火つくまで時間かかります。でも、ついたらしばらく消えません」


画面の向こうに、確かに人がいる。


数は多くない。


でも、ちゃんといる。


珠江は、少しだけ胸を張った。


劇場の枠は減った。

配信も爆発しない。


でも、続けていれば、火は消えない。


配信を終えたあと、珠江はネタ帳に書いた。


《爆発しなくてもいい》

《止まらなければいい》

《広がらなくてもいい》

《戻ってくる人がいればいい》

《私は薪ストーブ》


そして最後に、こう書いた。


《それでも続ける理由は、もう分かっている》



次回予告


第27話「揺らぐ信念」


少しずつ積み上がる手応え。


しかし、ある日届いた一通のメッセージが、珠江の心を大きく揺らす。


「あなたの笑いでは救われなかった」


その言葉に、珠江は立ち止まる。


次回、第27話

「揺らぐ信念」


届かない声があるとき、続ける意味はどこにあるのか。

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