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笠木珠江物語〜へこたれてたまるか〜  作者: リンダ


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失敗の価値

第24話


「失敗の価値」


その日の舞台で、珠江は盛大に言い間違えた。


「私は湯たんぽ芸人です。低温でじわじわ……えー、皆さんの布団の中に潜り込みます」


言った瞬間、客席が止まった。


珠江も止まった。


「……いや、違う違う。今のは完全に不審者や」


客席から笑いが起きる。


珠江は額を押さえた。


「湯たんぽとして、ですよ。人間として潜り込んだら事件です。芸人やめてニュースになります」


さらに笑いが広がる。


本来のネタより、言い間違いの方がウケてしまった。


終演後、珠江は少し落ち込んだ。


「やってもうた……」


その夜、はなまるツインズのひなたとみずほにその話をすると、二人は声をそろえて笑った。


「それ、めっちゃええやん」


珠江は驚く。


「ええんですか?失敗ですよ」


ひなたが言った。


「失敗こそ次のネタやん」


みずほも続ける。


「昔から言うやろ。失敗は成功のもとって。うちらもお笑いライブとかラジオで、言い間違いも段取りミスも数えたらキリがないくらいやってきたよ」


ひなたが笑う。


「でも、その失敗を次に使うんよ。笑いのタネにする」


みずほが静かに言った。


「失敗はね、次の笑いの肥料やから」


珠江は、その言葉をネタ帳に書いた。


《失敗は次の笑いの肥料》


ひなたが続ける。


「完璧な舞台は気持ちいい。でも、お客さんが覚えてるのって、意外とハプニングだったりするんよね」


みずほも頷く。


「そこで逃げずに、自分で拾えるかどうか。それが芸人の筋力やと思う」


珠江は深く息を吐いた。


「失敗を拾う筋力……」


翌日の舞台。


珠江は開口一番、前日の失敗をネタにした。


「昨日、私、“湯たんぽ芸人として皆さんの布団に潜り込みます”って言いましてね。帰ってから冷静に考えました。怖すぎるやろ」


客席が笑う。


「芸人として売れたいとは思ってます。でも、住居侵入でニュースになる売れ方は望んでません」


さらに笑い。


珠江は手応えを感じた。


失敗は恥ではない。


拾えば、次の笑いになる。


舞台後、珠江はネタ帳に書く。


《失敗をなかったことにしない》

《失敗を拾えると、客席も安心する》

《完璧じゃないから、人が入れる》

《肥料は最初、きれいなものではない。でも次を育てる》


最後に、こう書いた。


《私の失敗も、私のネタになる》



次回予告


第25話「消えかけた居場所」


失敗を笑いに変える力を少しずつ身につけていく珠江。


しかし劇場では、ついに出演枠の削減が正式に告げられる。


自分の居場所が、少しずつ消えていく。


次回、第25話

「消えかけた居場所」


舞台に立ちたい気持ちだけでは、守れない場所がある。

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