アールヴとラヨシュ
「窓に見慣れない物が吊るしてあったが、何かしっているか?」
アールヴが部屋に入って来るなり、イムレに訪ねる。
「殿下もお気づきになったのですね。あれは、さくら殿の国のおまじないだそうです。確か、てるてる、てるてる何とかと言う名前でしたか。気になって侍女に聞いたら、一つ作らされましたよ」
「てるてる何とか?何のまじないなのだ??」
「天気のまじないとかで、丸いのが頭で頭が上に来るように吊るすと晴れ、下に吊るすと雨になるそうです。以前さくら様が作ったことがあったらしいですよ」
※てるてる何とか=てるてる坊主
アールヴは廊下を歩きながら、窓の外に吊るしてあった沢山の何とも言えない異様な物の正体がわかって、怪しい物ではないようで少しホッとした。
「下が丸かったから、雨が降るようにか」
「そのようですね。殿下も作ってきてはどうですか?」
「いやいい。だが、なんでさくら殿がそんな事?」
イムレが少しばかりからかうように言うが、それを無視するように話しを続ける。
「本人には内緒らしいので知らないはずですよ。理由は言わなくてもわかるでしょう。明日雨になってほしいからですよ」
「そのまじないはよく聞くのか?」
「気になりますか?」
「まじない、と言う物が効くならば、晴れてほしい時などに使えると思っただけだ」
「そういう事ですか。その時は、次の日晴れたそうですが、さくら様の話しだと効果はないそうで、気休めだそうですよ」
「そうなのか」
「残念ですか?」
「そんなことはない、そんなに絡むな」
「それは失礼しました」
バタンッ。
ノックもなく部屋のドアが開き、ラヨシュが怒った顔をして部屋に入って来る。
「兄上!」
「どうした?やっと口をきいてくれるのか?」
仕事をしていた手を止め、目の前に立つラヨシュの方を向く。
「!?、明日ですよ!」
「なにがだ?」
アールヴにはラヨシュが何を言いに来たのかはわかっているが、平静を装いながら知らないふりをして話しをする。
「さくら殿が帰るのが、です」
「そうだな」
「兄上」
「なんだ?」
「さくら殿を本当に帰して後悔しないのですか?」
「しない」
「なぜ?」
ラヨシュはアールヴの落ち着きや、迷いのない言葉が理解出来ず、理由を知りたいと思った。
「取りあえず座ったらどうだ?」
「はい」
「では、私は出ております」
「いや、別に聞かれたくない話しでもない。仕事を続けていて構わない」
イムレが気を利かせ席を外そうと立ち上がろうとしたが、それをアールヴが止めまた椅子に座り、仕事を続ける。
ラヨシュとアールヴは、部屋にあるソファに移動し、向き合うように座る。
「私も聞きたいのだが、ラヨシュはなぜそこまでさくら殿にこだわる?」
この事は、今まで聞いた事がなくアールヴ自身気になっていたことだったので、いい機会でもあり聞いてみる事にした。
「僕が答えたら、兄上もきちんと答えてくださいね」
「わかった」
「初めて会った時、笑顔で笑ってくれたからです」
「笑顔で笑ってくれたから?どういう事なんだ??」
ラヨシュに笑いかける人間など大勢いる。むしろ、不機嫌になる者の方が少ない。
アールヴはラヨシュの言葉の意味が理解できず聞き返した。
「僕は人が本当に笑顔を向けているのか、嘘の笑顔なのかぐらいわかります。さくら殿は僕に作った笑顔は見せなかったから」
「・・・そうか」
ラヨシュがさくらを気に入った理由は、自分と同じ事だと言う事に驚いたと同時に素直に納得がいった。
もちろん、ラヨシュにとってさくらは恋愛対象ではなく一人の人間として気に入っていると言う意味でその点においてはアールヴとは少し違うが。
「ラヨシュ、もしさくら殿がこの国の人間だったら、何時でも好きな時に実家に帰り家族に会うことが出来る。他国の人間でもそうだ。だが、違う世界の人間ならもう二度とそれは無理だ。向こうの世界で普通に暮らしていたさくら殿は突然家族だけでなく向こうの生活そのものを失ってしまった。家族はなぜいなくなったのかもわからずにだ。こちらから伝えるすべもないんだ。さくら殿もさくら殿の家族も心の準備もなく、連れ去られたのと同じなのだ。それに、自ら望んで来たのとは違う」
「それが理由ですか?」
「そうだ。わかるな」
「はい。でも、今のさくら殿がここに居る事を望めば話しが違うのではないのですか?」
「そうかもしれない」
「でそれじゃ!」
「ラヨシュ、本人が帰るのを嫌がったのを聞いたことはあるか?少なくとも私はない。今ここで説得して無理やり留まったとしても、二度と帰る事が出来ないとなればいつか後悔しないとは限らないだろう」
「・・・」
ラヨシュは小さく頷くと、部屋を出て行った。
「そういう事だイムレ」
「はい。私に聞かせたのは、これ以上何も言うな、と言う事ですね」
「そうだ。これ以上策は練るな」
ラヨシュとイムレが協力してアールヴを湖に行かせた事を言っているのだ。
「私の今日の仕事は終わっているから、後は頼む」
「どちらに?」
「午後は休暇だ」
そう言うと、アールヴは部屋を出て行った。




