最後の時間 湖 2
アールヴはさくらを馬に乗せ馬を歩かせる。
「さくら殿」
「はい?」
「私は、やはり女性と二人きりで話すのは苦手なようだ。昔から女性話しをするのは、社交の場が殆どで、こういうことは中々難しいものだな」
「わたしもあまり男性と話しをした事はないからにてますね。でも、女性とか男性とか考えて話さなくてもいいのかもしれませんね。あっでも、わたしの個人的な考えで、立場上そうはいかないですよね」
「そうだな」
初めて二人でお茶をした時の緊張感や気まずさなどはなく、穏やかに話しをしながら進んでいると、さっきまで晴れていたのにみるみる曇り空になった。
「雨か」
「さっきまで晴れていたのに」
「さくら殿、馬を走らせるから落ちないように気を付けて」
「はい」
アールヴは急いで城に戻るため馬を走らせ、さくらは落ちないようにさらにアールヴに密着する。
城に戻る前に雨が降りだしひどくなり出したため、近くにあった木でできた小さな小屋に馬を止め、中で雨宿りをすることに。
外から見たら何気ない小屋だったが、中に入ると椅子にテーブル、暖炉など住むことが出来そうな物が揃っており、それらの物も質素に見えるが品がよくいい物のようだ。
「少し濡れてしまった。取りあえずこれを」
「ありがとうございます」
馴れた感じに棚からタオルを取り出すとさくらに渡し、暖炉に火をつける。
「ここ誰か住んでたんですか?」
「曾おばあ様が毎年フェールを見に来ていた時に休憩所として曾おじい様が建てたのだ。フェールの時期はこういう通り雨が多いのもあったようだ。一、二時間したら止むだろう」
「そういえば、他にも何ヶ所かあったような」
「風邪ひくといけない、暖炉の近くに」
アールヴはそう言いながら、椅子を暖炉の近くに持って行きさくらを座らせると、自分用の椅子も持っていて隣りに座る。
「王太子様ってこういう事できるんですね」
「こういう事?」
「暖炉をつけたりとか」
「出来るが、それが不思議か?」
「だって、王子様ってこういう事は誰かがやってくれそうだから。勝手な思い込みでごめんなさい」
「別に謝る必要はない。普段はそうだが、私も騎士団所属だから野営訓練などで火起こしや簡単な料理もできる」
「そうなんですね」
感心するようにアールヴを見る。
「そんなに意外だったか?」
「まぁ・・・」
「王族は他の者より贅沢をし権力もある、何事もなければそれでいいのかもしれない。だが傍若無人な振る舞いをしたり、有事の際などそれなりの責務が伴っている。有能かどうかはさておき無能であってはならない、と思っている」
「・・・」
さくらは、暖炉に炎を見ながら真剣に語るアールヴを横で見ながら、王妃もそうだったが、ただ人に傅かれなんでも自由になる、そんな世界ではないのだと今更ながら気付く。
「こんな話しつまらないな」
「そんな事ないです。知らない王太子様に一面を見た感じです」
「そうか」
「そういえば、皆さんは大丈夫かな?」
ラヨシュ、祖父、祖母の事を思い出し、雨に濡れてないか心配になる。
「皆どこかで雨宿りしているだろうから大丈夫だろう」
「王太子様が大丈夫と言うなら大丈夫ですね」
それから、雨が止むまで約一時間ほど話しをしたり外を見ながら過ごした。
雨が止むと同時に晴れ、二人は外に出た。
「本当にすぐに晴れた」
さくらは、両手を上にあげ体を伸ばす。
「あっ、王太子様!虹!!」
「本当だな」
体を伸ばし顔を上に向けた時に虹が出ている事に気づき指で指しながらアールヴに教える。
「さっ・・・」
「こっちの虹って地球と同じなんだ」
”チキュウ!?・・・そうだったな、彼女には帰る場所がある”
アールヴが何か言おうとした時、同時にさくらが小さくつぶやいた言葉がアールヴの耳に聞こえ、言葉が止まる。
そしてそのすぐ後、聞きなれない、けれどとても綺麗な鳴き声がし、声のした湖の方を見ると一羽のフェールが二人の近くを泳いでおり、ひと声泣き終わると群れのいる場所へ戻って行ってしまった。
「今の聞きました?」
「あぁ」
沈黙。
「あれって・・・」
「フェールの鳴き声だ・・・」
「すごい!」
「初めて聞いた」
「王太子様も初めてなんですか?」
「あぁ、めったに聞けるものではないからな」
二人は興奮し、喜ぶ。聞いた事のある人間の方が少ないと言われているのだ。
「王太子様、さっき何か言いかけませんでしたか?」
「!?」
「?」
「・・・さくら殿に一つお願いがあるのだが」
「無理な事でなければいいですよ」
「 」
「いいですよ」




