聞き取り 2
侯爵夫妻が戻ったという知らせを受け、二人は部屋を移動した。
部屋に入ると夫妻が先に通されていて、先ほどの様な部屋ではなく普通の部屋だ。この二人が関わっているのかが分からない以上この部屋が妥当だと判断されたためだ。
「せっかくのお休みで、領地に帰られていたのに申し訳ありません」
「本当ですわ。あと半時で着く所でしたのよ」
「おいっ!国王直々の命なのだぞ」
「そうですけど・・・」
ソファに座り、先ほどとは違い柔らかな物腰と言い回し、そして笑顔のイムレに対し、休暇をつぶされ不満気な婦人に対し事情も教えられず急ぎ呼び戻された事への不安で仕方ない侯爵。
「正確には、国王陛下から全権を委ねられた王太子殿下、です」
「それは失礼しました。それで、王太子殿下は?」
「今、殿下は急用がありまして私がご説明をさせていただきます」
「そうですか、わかりました」
王太子の急用=寝不足による睡眠時間である。
「さっそくですが、毎年ご令嬢と共に領地に帰られているとお聞きしましたが、今回はなぜこちらにご令嬢だけ残られたのですか?」
「もう卒業なので友達と過ごしたいと言うので」
「それだけですか?」
「それ以外には聞いておりませんが?」
「グリメルダは、卒業後次期当主として色々と勉強の日々になり忙しくなります。ですので、お友達と楽しく過ごす時間を、と本人が言うのでこちらに残る事を許したまでですわ」
「あの、イムレ殿、娘がどうかしましたか?」
”この二人は、本当に何も知らないのか?”
回りくどい聞き方をし反応を見ていたイムレに対し、婦人は不機嫌に答え、侯爵は質問の意図がわからず困惑しながら聞き返す。
「ご令嬢は、王太子妃として儀式により呼び出された方を誘拐し顔に傷をつけ、迷霧の森に置き去りにしたのです」
「・・・」
「・・・まさか・・・」
それを聞いた夫妻は、思考が停止したのか理解が追いつかないのか、全身が固まり、青ざめていった。
そんなことは気にせず、今までの経緯を真顔で淡々と話し続けるイムレ。
「そういう訳で、お二人にこちらに戻ってもらい、ご令嬢はこちらに連行いたしました」
「連行・・・」
婦人がソファの背もたれに倒れる様にもたれかかる。
「それは、間違いないのですか?」
「そうですわ!誰かに濡れ衣を着せられたとか!?」
「誰にです?」
「誰と言われましても・・・」
「本人が認めたので連行したのですよ。証言もあります」
「でも、まさかそんな事・・・」
「王太子妃になる方がいなくなれば、今度は自分が選ばれると。随分と王太子妃になりたがっていたと聞きましたが」
「それはそうですが」
「だからと言ってそんな事するはずありませんんわ」
「では、お会いになりお話ししますか?」
「はい」
「もちろんですわ」
イムレが言おうと自分の娘を信じようとする夫妻に対し、合わせた方が早いといいと判断したので、グリメルダの居る場所へ行く事にした。
「大丈夫ですか?」
「両親がいた方が、聞き出しやすいかもしれないからな」
移動しながら、夫妻に聞こえないように、小声で話しをする。
部屋の前に着くと立ち止り、イムレが夫妻の方を向く。
「この中です。暴れたため縛ってありますが決して解いたりしないように。もし、令嬢の手助けをしたりして我々の妨害をしたりすれば、わかりますね?」
「はい」
「わかりましたわ」
部屋に入ると、殺風景な部屋に男性が二人、女性が二人、椅子に縛られたグリメルダがいた。
「・・・さいよ!ワタクシが誰だか知っててこんな事して!あっ・・・お母様、お父様!聞いてください、ワタクシにこんな仕打ち許せませんわ。どうにかしてください!!!お父様は侯爵ですのよ!早く解放しなさい、お父様が黙っていませんわよ!!!」
自分の娘が大声で怒鳴る姿に絶句し、すぐには言葉が出てこない侯爵夫妻。
そして、恐る恐る侯爵が口を開いた。
「グリメルダ、お前はなにをしたんだ?」
「お父様、ワタクシ何も悪い事はしていませんわ」
「わかった。なぜこんな事になったのかをお前の口から教えてくれ」
「そうよ。きちんと話してくれたら誤解が解けるわ」
「お父様、お母様、ワタクシ王太子殿下と結婚できるのですわ!」
夫妻がなだめる様にグリメルダに話しかけると、少し落ち着きを取り戻し話し始めたがその表情は現実が見えてないというか自分の思い込みを現実として認識している感じに見え、夫妻は唖然とし、他の人間は何度も似たような事を聞かされていたため落ちついた様子で聞いている。
「何を言っているんだ?お前は選ばれなかっただろう」
「えぇ、でもその女はもういませんもの。ですから今度はワタクシが王太子妃ですわ」
「・・・」
「グリメルダ、王太子妃様は生きておられるわ」
「お母様、そんな事ありませんわ。迷霧の森から戻れるわけないですわ、ワタクシ自分の目で見ていたのですから。お母様もワタクシは選ばれる、とずっとおっしゃっていたでしょう」
「!?それは・・・」
それは、子供の頃、女の子が王子様に憧れ、王子様と結婚すると言う他愛無い会話の一コマである。
その殆どが成長と共に、現実と憧れの区別が付いていくものだし、侯爵夫妻も例外なくそう思っていた。
ただ、グリメルダはその区別がつかず現実が見えていなかった事を今知り自分の娘ながら一種の恐怖を覚えた。
そして、イムレの話したことが真実だと理解する。




