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行きつけの店②

 連絡先を交換すると、黒田はスマホを掲げた。


「やったぞ。やっと家族以外の連絡先を手に入れたぞ」


 すごい嬉しそうなんだけど、家族の連絡先しか入っていなかったという衝撃の事実まで知ってしまった。

 まぁ、それはいいとしてここからが本題だ。


「ちょっといいか、こっちからも頼みがある」


「我が友の頼みだ。なんなりと言うがいい」


 素じゃなくなったが、まだ顔はニヤけたままだ。


「一緒にきた妹を探しているんだ」


 すっごい迷ったが、一応妹と言ってしまった。その方が説明しやすそうだったから、断じて妹と認めたわけじゃないぞ。


「逸れてしまったのか、それでは、電話をすればいいのではないか」


 変態の癖に意外にも普通の事を言ってきたが、そんな事できるなら、お前に頼んでなんかいないって話だ。


「あいつの連絡先を知らないんだ」


「それは大変だな。だが、探すと言ってもこのアキバは広いからな」


 その通りだ。ここは広いし、人も多いから、迷子を探すなんて無理だ。それでもこいつだったら行けると思うんだ。


「あいつは、かなりのオタクだから、穴場みたいなのも知ってると思うんだ。だから穴場に連れて行ってほしい」


「そういうことか、いいだろう。契約に従いその願い叶えるとしよう」


 やはり、オタクだからこそ知る穴場があるのか、これならなんとかなるかもしれない。

 希望の光が射したと同時に、輝く笑顔のメイドさんが現れた。


「ご主人様。大変お待たせいたしました。こちら、萌え萌えオムライスでございます」


 頼んでいた品を可愛いメイドさんが届けてくれた。当然のことだろうが、瀧崎さんじゃなかった。まぁ、気まずいよな。

 メイドさんは、オムライスにケチャップで猫とうさぎの絵を書いてくれた。書き終えると、にこっと笑って口を開く。

「これから、このオムライスにおいしくなる呪文をかけますので、ご主人様もご一緒に、手でハートを作って下さいね。……では行きますよ~。おいしくな~れ」


「おいしくな~れ」


「「「萌え萌え。キューン!」」」


 これが、伝説の呪文かあああああああ! 心で叫びながらも恥ずかしさのあまり無言。黒田は余裕の表情でメイドさんとお喋りしていて、流石だと思った。

 オムライスが呪文で美味くなったのかは、わからなかったが、非常に美味しかった。

 強いて言うなら、瀧崎さんに呪文をかけてもらいたかったな。あの後は忙しそうだし、声もかけずらいし、結局話せなかった。

 食事を終えて、名残惜しがメイド喫茶を後にした俺達は、穴場に向かった。


ーーーーーー


 五時間ほどかけて電気屋、アニメショップ、ゲームショップ、ガチャポン屋、神社と数十件以上回ったが見つからなかった。

 もう辺りはすっかり暗くなっている。疲れ果てた俺達は駅前にいた。


「我の力を持ってしても見つからないとは」


 悔しそうに空を見上げる黒田に俺は投げかける。


「悪いな。こんな遅くまで手伝ってもらって」


「気にするでない。我らの仲ではないか」


 さっきまでの俺なら、そんな仲ではないとか言っていただろうが、この五時間で黒田と俺には少しだけ友情が芽生えていた。


「そうだな。だけどここまでだ」


 そう、これ以上巻き込むわけにはいかない。こいつはここまでよく頑張ってくれた。何とか理由をつけて帰ってもらわないとな。


「なぜだ。貴公ほどの堕天使が諦めるつもりか」


 不服そうな様子の黒田を説得する。


「諦めるんじゃなくて、一回家に帰ってみる」


 もう堕天使にはツッコまない。疲れるから。


「そうか、もう帰ってる可能性もおおいにあるな」


 大きく頷く黒田は納得してくれたみたいだ。


「そうだ。だからここで終わりだ。見つけたら連絡するわ」


「わかった。我はまだ帰らぬからして、もう少し探してみるとしよう」


「まだ、帰らないのかよ」


 ダメだ。全然帰る気ないし、探す気満々だし、止められそうにないな。


「無論だ。これから漆黒に包まれた闇の世界を楽しむのだ」


「そうか、ほどほどにな。妹の件はもう気にするなよ」


 これからはお前の時間なんだから、後はアキバを楽しんでくれ。


「そうだな。半分探して、もう半分は闇を楽しむとしよう」


 こいつは、いいやつなのがわかった。これ以上言うのは野暮ってもんだ。


「わかった。それじゃあ、見つかったら連絡頼む」


「任せておけ。我が友よ、さらばだ」


 そう言い残し、颯爽と人込みの中へと姿を消した。


「それにしてもあいつどこいったんだよ」


 黒田と別れたぎんは愚痴をこぼしながら駅へと進んだ。



「お兄ちゃーん」


 聞き覚えがある透き通った声が響く。声がした方に目をやると、白い妖精が走って来てるのが見える。

 白髪を靡かせ、白のワンピースに白い靴だったから見間違えた。あれはよもぎだ。


「おい。お前今までどこ行ってたんだよ。探したんだぞ」


 眉根に皺をよせ強めの口調。それを見たよもぎはペコリとお辞儀をして言い訳を並べた。


「ごめんなさい。興奮のあまり前しか見えなかったの。気が付いた時にはお兄ちゃんはいなかったの」


「心配させるんじゃねーよ」


 その言葉に驚くよもぎ。


「え! 心配してくれたの?」


 よもぎの宝石のようにキラキラ光る瞳にうろたえたぎんは、話を反らす。


「してない。それよりすごい量だな。それ貸せよ」


 よもぎが沢山持っている。袋を持ってやろうと手を出したのに、よもぎは不満げな顔で指を差す。


「はなし反らしたー」


 よし! めんどくさいから、置いていこう。


「置いてくぞー」


「嘘なのー。待ってよー」


 ひょこひょこと後ろをついてくるよもぎを無視して、黒田に『見つかった。今日はありがとう』とメールを送った。

 するとすぐに、『それはよかった。お礼を言うのは我の方だ。ありがとう』と、意味深なメールが返ってきた。

 どうせ、連絡先のことだろう。変態の癖にいい先輩だ。

 連絡先と言えば、よもぎとも交換しておかないと、こんなことは今日限りで十分だ。

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