行きつけの店
「ついたぞ。ここが我行きつけの至高の地だ」
「こ、ここは!」
そこにそびえ立つはメイド喫茶。男なら一度は行ってみたい場所だけど、中々入るのに勇気を必要とする。ましてや高校生にはハードルが高い。だが、こいつと一緒なら俺でも入れる気がする。
「我が同士よ。気がついたのか、この場所こそ我ら男の夢の箱なのだ。さあ、ゆくぞ」
「待てよ。黒田」
先に行こうとしている。黒田の後を追う。
変態元眼鏡の名前は、黒田白斗と言うらしい。ここに来るまでの間に教えてもらった。
「その名前で呼ぶな!」
声を荒げた後に、黒田は堂々とした態度で扉を開けた。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」
ドアを開けると、メイドさん達が満面の笑顔で出迎えてくれた。それに圧倒される俺を横目に、黒田は微動だにしない。席に案内された後に黒田が心配そうに口を開いた。
「どうしたのだ。さっきから、落ち着きがないな」
「こういう所は初めてなんだよ」
やはり、緊張する。スタッフの子達はヒラヒラのメイド服でしかもスカートが異様に短くて目のやり場に困る。
店内も華やかで、この空気に心臓の鼓動が抑えきれない。
「そうなのか、それでは我が楽しみ方を伝授しようではないか」
「そ、それは助かる」
常連のこいつが居て本当に助かった。せっかく来たんだから、俺だって楽しみたいからな。
それにしてもメイドさんってかわいいな。
「それではまずは、メニューだ。我に任せておけ」
そう言って、余裕の笑みを浮かべるこいつにぎんは全てを託すことにした。
「それじゃあ、頼む」
手を上げてメイドを呼ぶ姿は常連のそれだった。しかも名前で呼んでるし、「ことりん」とかなんとか、すぐにメイドさんがニコニコと微笑みながら注文を取りにきた。
「お待たせしました、ご主人様。ご注文はいかがなさいますか?」
肌は白くて華奢な身体、ポニーテイルが印象的な可愛いメイドさんだ。でもなんか見たことあるような気がするんだよな。
「この、萌え萌えオムライスを頼む」
黒田は常連の如く慣れた手つきで注文をする。メイドさんが注文を繰り返していると、たまたまぎんとメイドさんの目が合う。その途端にメイドさんは慌てた声を上げた。
「ああああああ! あ、浅井君」
「え? 俺のこと知ってるんですか?」
こんな可愛い人が、俺の知り合いにいるわけないんだよな。でもなんで苗字知ってるんだろ。それを聞いた黒田も動揺する。
「なんだと、我が友と知り合いなのか!」
「大きな声を出してしまい申しわけ御座いません。人違いだったみたいです」
お辞儀をすると、すぐさま踵を返した。その時ぎんの脳裏に過る。
「ちょっと待って。瀧崎さん」
「苗字で呼ばないで下さい!」
可愛いメイドさんは、瀧崎琴音だった。俺のクラスでいつも独りでいる。俺が気になる女子だ。前に一回だけ、ノートを拾う時に話したことがあるだけだから、最初は気付かなかったけどビビッと思い浮かんだ。
髪形がいつもと違ってポニーテイルだし、学校では長い前髪も綺麗に分けられていたし、何しろこんなミニスカートじゃわかるわけがない。制服のスカートはクラスで一番長いからな。
気付けたのは、奇跡だ。
「ごめん。でもなんでここに?」
「……それは、秘密です。仕事中なので失礼します」
そのまま駆け足で、厨房の方へと行ってしまった。
「我が友よ。まさか貴公に、あんな可愛いメイドさんの知り合いがいたとは」
黒田は信じられないといった表情だった。
「知り合いというか、クラスメイトなんだよ」
「そうか。だが、これも邪神の導きだろう。ここアキバで出くわすなど、我と貴公ぐらいかと思っていたのだがな。あのメイドも、我らの同士やも知れんな」
腕を組みながら意味深な面持ちで語る黒田にキッパリと言う。
「そんな事はない。しかも俺はお前の同士じゃない」
「照れなくてもよい。それで、貴公に頼みがあるんだ」
「照れてないわ! ーーまぁ、一応聞いてやる」
全然聞いてない上に、頼み事とか、こいつおこがましい奴だな。あの時もそうだったけど。
「流石は我が友」
「友でもないけどな」
そこは、ちゃんとしておきたい。この変態とはただの知り合い。それ以上でもそれ以下でもない。
「そう照れるな。それで、話なのだが、我と部活を作ろうではないか」
「お前は、いきなりなに言ってんだ。そもそも学校が違うだろ」
やっぱり変態だ。何を言っているのかわからない。謎すぎる。
「なにを言っている。我の学び舎は、神奈川県立神北高等学校。貴公と同じだ」
こいつまさかの同じ高校だと、いくらなんでも見た事くらいあるはずだろう。もしかして……。
「何年生だ?」
「我は二年だ。だが、気にするな。我等にとって歳の差など些細なこと」
まさかの年上かよ。外見的にはそんな感じはしなくもないが、なんか嫌だな。
まぁ、こいつも些細とか言ってる事だし、敬語なんて使わないけどな。
それにしても俺の知らないうちに、俺達の関係が深まっているのが気がかりだ。今はそれより聞きたい事がある。
「それよりなんで俺のことを知ってるんだよ」
「そんなもの、波動に決まっている!」
変態は顔に手を当てて謎のポーズ。それを見てため息が漏れた。
「もういい。部活の件に関しては無理だ」
「なぜだ?」
「もう俺達は新しい部活を作ろうとしている」
「やはり、我等の考えることは同じだったようだな。我もその部活に入るとしよう」
全然通じない。このポジティブ馬鹿を誰か止めてくれ。
「全然同じじゃないと思うぞ。俺等が作ろうとしている部活は、遊部だからな」
「なんと、甘美な響き……。ーーやはり入るとしよう」
自分の身体両手で抱いて、幸せそうな表情の黒田に、ドン引きの俺が苦笑いで答える。
「……別に入りたいなら、拒否はできないしいいけど、まだできてないからな」
「それは心配ないだろう。貴公ほどの堕天使が、部活如きを作れないわけがない」
きりっとした眼光で俺を睨む。なんかうざい。
「その自信はなんなんだよ。あと俺は堕天使ではないからな」
「謙遜をするでない。胸を張れ」
黒田はドンと胸を叩いた。どうでもいいからスルーしよう。
「もういい。わかった」
「そうか、ならば、我と契約をするとしよう」
邪悪な笑みを浮かべつつ、ポケットをゴソゴソする黒田を見て尋ねる。
「なんだよそれ」
「これだ」
そう言って見せつけてきたのはスマートフォンだった。
「はいはい。連絡先を交換するだけね」
「ちっがぁぁぁぁう! 断じてそんな人間がやってるモノではない。これは契約だ」
声を荒げる黒田のせいで、周りの視線が集まる。こいつ声がでかすぎるんだよ。早く用を済ませて帰りたい。
「わかったから、早くしようぜ。メアド交換」
「契約と言え。契約と」
「嫌ならいいわ」
「わ、わかったから、早く交換しよう」
ぎんの言葉に動揺したのか、黒田は素になった。




