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035

 その後ぼくらは、早速ぼくのデータを新しい体に移す作業に取り掛かった。

 これが、結構面倒だった。

 ぼくはすべてのデータを一瞬でぼくの体に移すために、できるだけ必要なデータだけをかき集めて、ひとつの塊にした。

 本当は、ちゃんとした専門用語を使った説明の仕方もあるけれど、面倒だから、しない。

 ……わかったよ。認めるよ。ぼくもあまり詳しくないんだ。自分でどうやっているかも、いまいちわからない。

 それより、ヴォルトのほうが、きっと大変だっただろう。ヴォルトはぼくが出した無数のコードの山を見て、呻き声をあげながらも、新しい体にそれを接続していく。

 三日間も起動したままだったんだから、体中の部品が悲鳴をあげているだろうに……。

 新しい体に入ったら、ぼくの分のお菓子を、全部ヴォルトにあげよう……。ティーマに羨ましがれないかが、問題だけど。

「あと、これだけだな」

 ヴォルトは下がってくるまぶたを必死に押さえながら、ふらふらとぼくに向かってくる。

『うん』

 ぼくは、一番太いコードをヴォルトがぼくの本体(今のぼく)につなぐのを見届けて、短く返事をした。

「さぁ、あとは、お前の、仕事だ。俺は……休む」

 ヴォルトは途切れ途切れにそう言い、差し込んだ後、その場にゴツッと重い音をたてて倒れ込んだ。

 ぴくりとも動かない茶色の頭に、ぼくは“ありがとう”と心をこめて文字を打つ。

 そしてすぐに、ぼくの引越しに取り掛かった。

 ぼくは塊にしたデータを抱えたまま、ぼくの本体に突き刺さっているコードの束に向かって、ゆっくりとぼくを進めた。

 詰め込まれた莫大なデータの中から選抜したデータでも、“アラン”だけのぼくには、少し重かった。

 しかし、差し込まれたコードに乗っかってしまえば、後はエスカレーターのように、ぼくの新しい体に運ばれていく。

 すいすいと進んでいく自分に、なんだか気分は上々。ワクワクする。

 そうだ、ぼく、今“アラン”なんだ。前から大嫌いだった、“ゼルダ”は、ぼくの中にはもう、いないんだ。

 ぼくのこの新しい体も、“ゼルダ”に取られる心配はない。そうだ、ぼく、

 ぼく、アランなんだ!

「やったぞ!」

 ぼくは思わずガッツポーズを決め、勢いよく起き上がった。

 目の前には、ついさっきまでぼくが入っていたぼくの本体が、緑色の画面をちらつかせて、ぼくの引越しを祝っている。

 ぼくは、ゆっくりと両手を掲げた。少し長くなった指が、ぼくの目に映る。中指を動かしてみた。

 少し角ばっているし、まるでおとぎ話に出てくる悪い魔女のような指だけれど、居眠りヴォルトに嫌がらせをする時、つっつくのには役に立ちそうだ。

 まぁ、その後にはさらに強烈なパンチが返って来るのは見え見えだけれど。

 目の前のスクリーンに写ったぼくの表情は、満足げに笑っていた。

 声にならない喜びを放出したくて、ぼくは作業台の上に立ち上がる。

 ギシッ、と嫌な音を立てたので、ぼくはすぐに床に降りた。

 ぼくの足元で、ヴォルトが茶色の目を開けたまま、完全に意識を失っていた。

 人間がこの様子を見たら、きっと死んでいると思うだろうな……。

 ぼくは少し苦笑いして、ヴォルトを抱きかかえると、作業台の上に寝かせた。

 幸い充電機は無事だったみたいだから、ぼくはそれをヴォルトにつなげておく。

 今は食料も換わりになる燃料もないけど、とりあえずこれだけしておけば、動けるだけの体力は回復するだろう。

 ヴォルトの目がすぐに青くなり、充電中のしるしを見せる。それと同時に、充電機にカラフルな小さい明かりが灯り始めた。

 細い光が小さなライトから発され、部屋中の壁に当たる。色つきのプラネタリウムを見ているような気分だ。

 ぼくはしばらくその様子を見つめた後、何か着る物を探しにかかった。

 ぼくのラボの中は、大半“ゼルダ”がめちゃくちゃにしてしまったために、ほとんど壊れっぱなしだった。

 乱暴な“元”自分に、ぼくはやれやれとため息をつきながら、壊れて鉄くずになった機械をかき分け、洋服が入っていた棚を探す。

 壊れた機械の破片が、ぼくのまだ新しい皮膚に傷をつけないようにするのには、結構時間がかかった。

 だってもし新品の体に傷なんかつけたりしたら、ヴォルトに絞め殺されかねないから。

 案外早く見つかったので、ぼくはほっとした。中身も、鉄の扉に守られていたため、全部無事だ。

 ぼくのお気に入りの白いシャツと、シンプルなズボンを取り出し、身に纏う。

 ぼくは、ズボンをはくのが苦手だ。一回転んだことは、認める。だって新しい体だしさ……。

 一通り自分の体を見回した後、転がっている鉄くずにむかって、指をくい、と動かしてみた。

 指の動きと一緒に、狙った鉄くずが浮き上がる。よし、いい感じだ。

 ぼくは鉄くずを浮かせたままで、指を横に移動させた。

 その途端、鉄くずが大きな音をたてて壁に激突した。

 少し動かすつもりだったのに! ぼくは驚いて飛び上がりながら、しばらく能力は使わないと決心した。

 まったく、ヴォルトは加減を知らないんだから。

 この調子だと、ぼくお得意の水なんか使ったりしたら、公司館中、大洪水かな……。

 ぼくは顔を顰め、恐る恐る指先からほんの少し水を出してみる。

 これは、前と同じように出来るようだ。ぼくの人差し指の先から、少し蛇口を捻った水道水のように、チョロチョロと水が流れる。

 手のひらを広げ、さらに強く念じると、水は小さな塊になり、パシャン、と音をたてて、床に落ちた。

 浮くように念じたのに。やっぱり、浮遊能力が変だ。こればっかりは、ぼくが調整しよう……。

 ぼくは一通り自分の能力を確認した後、三日前にヴォルトがドアの前に敷き詰めたガラクタの山を、片付ける作業に取り掛かった。

 こんな時に、普通に浮遊能力が使えたらなぁ。なんて思いながら、自分の手で一つ一つガラクタを後ろに放り投げる。

 ヴォルトに当たるかもしれない、なんて良心は、頭の隅から消しておいた。

 半分ぐらいガラクタの山を崩すと、山はひとりでに音をたてて周りに散らばり始めた。

 ぼくはひょいとその場から退き、靴を履いていない足を守る。

 すぐに、ガラクタの中から、ラボの出口が現れた。

 ぼくはドアに近づき、何とかこじ開けようとしたけれど、ヴォルトの馬鹿力で捻って閉められてしまったために、なかなか開かない。

 ええい、この際、使わないと誓った力を使おうじゃないか。

 ぼくはぶあつい鉄の扉に向かって、ぎゅっと眉間に力を込めた。

 その瞬間、ぼくの目の前は真っ赤になる。そして、目の前に二重に重なった丸と、きちんとしたメモリが現れた。

 ゆっくりと輪が揺れる――ぼくは中心を鉄の扉に定め、目を細めた。

 高速で発射される音とぶつかった爆発音がほぼ同時にして、ぼくの目の前に大きな穴が開いた。

 ふん、どんなもんだ。

 ティーマのレーザー砲より正確さは劣るけれど、威力はお墨付きさ。

 嫌な臭いのする煙を避けて外へ出ると、扉の破片が散らばった廊下に足を着き、ぼくのラボを見上げた。

 “LABO5”の文字が、ぼくのせいで、下半分欠けている。

 いいさ、ぼくはもう、ここには戻らない。

 どうやらヴォルトは、ぼくにほんの少し、自分と同じ強気な性格を入れたようだ。

 さて、少し強気になったぼくは、これからどうするか。

 ぼくの体を奪った、もう一人のぼく。“ゼルダ”を、退治しに行くんだ。


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