第9話 魔力40
今日は俺の十歳の誕生日だ。
そして、帝国立騎士学校の入学試験の日でもある。
この国では、十歳になった日の午後に入学試験を受ける決まりになっている。
騎士学校、魔法学校、普通学校のどれかを受けるのが義務なんだとか。
騎士学校は人気があるから、どの都市でも毎日五十人くらいずつ試験を受けているらしい。
ちなみにこの試験、不合格はない。
決まるのは、来年の四月から入るクラスだけだ。
SからCまであって、Sは一学年に五人いるかどうか。
一年の入学者は約五万人。それが住んでる地域で東校と西校に分かれる。
つまり、どっちかの学校でSクラスに入るには、単純計算で五千倍。
頭おかしいだろ。
で、そこに追い打ちをかけてくるのが親父殿だ。
親父殿の時代には飛び級があって、教員の半分以上が認めれば上の学年に上がれたらしい。
親父殿は入学して一週間そこらで六年まで駆け上がり、そこから二年ほど学んで卒業した。
なにそれ。
おかげで、俺への期待がやばい。
俺がやりたかった俺つえーを、親父殿は二十年以上前に全部やっちゃってるのだ。
ほんとやめてほしい。
「ユージーン、学校に行くぞ」
「はい、父上」
うちは超都会にあるので、学校まではちょっと時間がかかる。
馬車でパカラパカラ揺られていると、窓の向こうに学校が見えてきた。
まだ全然着かない距離なのに、それでもわかるくらいでかい。
この国で王城の次にでかい建物。帝国立騎士学校、東校だ。
◇
馬車を降りると、おじいさんが一人、深々と頭を下げてきた。
「よくぞいらっしゃいました。ゴネリル様、ユージーン様。ささ、こちらへ」
「やめろ、ドロシア。ここではユージーンは一生徒だ。教師のお前が頭を下げるな」
「お変わりないようで。かしこまりました」
おじいさんは顔を上げて、俺のほうに向き直った。
「では、ユージーン君。試験会場へ参りましょう」
「頑張ってくるのだぞ」
「はい、父上」
というわけで、俺はドロシアとかいうおじいさんと学校に入った。
ちなみに、ゴネリルというのが親父殿の名前だ。
ちょっとかっこよすぎないか。
中に入ると、ホグワーツだった。
いや、ホグワーツではないんだけど、あれを思い浮かべてもらえばだいたい合ってる。
床が石畳ってだけでテンションが上がる。うちはカーペットだからな。
廊下の脇には、鎧がずらっと並んでいた。
あれ、有事の際に動き出したりしないかな。
そんなことを考えながら歩いていると、受付っぽいところに出た。
「お名前をどうぞ」
「ユージーン・アンブロシアです」
これ、口に出すのまだちょっと恥ずかしいな。
「あぁ、ゴネリル様のご子息ですね。では、こちらの水晶に右手をどうぞ」
「はい……?」
「ユージーン君、これは魔力量を簡単に数字にする道具ですよ」
俺がよくわかってない顔をしてたんだろう。ドロシアさんが教えてくれた。
やっぱあるんだな、魔力を測る装置。
測ったことないけど、どれくらいあるんだろ。
右手を乗せると、水晶の中がぼんやり光った。
「はい、大丈夫ですよ。手を放してください」
「どれくらいでした?」
「え、えーと……大変申し上げにくいのですが……だいたい四十くらいですね」
「ドロシアさん、四十ってどのくらいなんですか?」
「まぁ、新入生全体で見ると……下の下、といったところでしょうか」
「下の下」
「ただ、あなたのお父様は三十もなかったそうですから。気に病むことはないと思いますよ」
「……ありがとうございます、ドロシアさん」
「えっと、次は魔法実習の試験になります」
「わかりました。ありがとうございます」
下の下かぁ。
親父殿が三十なくて、俺が四十。
それならいっそ十とかでよかったのに。なんで中途半端にあるんだよ。キャラが立たないだろ。
で、次は何だっけ。魔法実習。
名前からして、魔法を使ってその出来を見るんだろうな。うん。
うん?
魔法を使って?
「あ、あの、ドロシアさん」
「どうなさいました?」
「次って魔法実習ですよね?」
「そうおっしゃってましたね」
「ってことは、たぶん魔法を撃って、その出来で判断するんですよね?」
「例年どおりであれば、そうですね」
「あの、僕、魔法が五十センチ以上飛ばないんですけど」
「はい?」
「いや、だから、魔法が自分から五十センチくらい離れると消えちゃうんですよ」
「な、る、ほど」
ドロシアさんが固まった。
「……初めて聞きましたね」
「これって、どうやって点数つけるんでしょうか。ゼロ点ですかね?」
「放出系の魔法以外は使えないんですか? 召喚系や、呪縛系は?」
「身体強化でギリですね」
「うーーーーん……」
ドロシアさんは長いことうなった。
「前代未聞すぎて、私にもわかりませんが……試験官に素直に言ってみてはどうでしょう?」
「素直に」
「ええ。戦闘実習のほうに点数を寄せるくらいはできると思いますよ」
「そんなことできるんですか」
「たぶん、ですが」
「わかりました。言ってみます」
この体質のこと、前にジジィに聞いたことがある。
返ってきた答えがこれだ。
「超レア体質じゃぞ。喜ぶといい」
喜べるか。
しかもあの言い方、たぶんこれ治らないやつだ。
身体強化ができるだけマシだけど……魔法実習、どうすんの?




