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第10話 禁術

「えーと、ユージーン君だね。あぁ、ゴネリル殿のご子息なのか。さぁ、君はどんな魔法を使うんだ?」


「えっと、あの、その……身体強化しか使えなくて」


「ん?」


「その、まともに使える魔法が、身体強化しかなくて」


「え、身体強化以外は全部だめなの?」


「発動はできるんですけど、ちょっとしか飛ばなくて……」


「ちょっと? 一回見せてもらってもいい?」


「わかりました」



 右手を前に出して、のどの調子を確かめる。



「あいうえお……よし。“火球(ファイヤーボール)”!」



 手のひらの先に、ちっちゃい火の玉が生まれた。


 火の玉はひょろひょろっと前に進んで、五十センチくらいのところで、ぱっと消えた。



「こんな感じです」


「……なに、これ?」


「僕にもわかりません」


「でも、身体強化はできるんだよね?」


「そっちならいけます」


「わかった。こっちはいったん保留にして、上に掛け合ってくるよ。君は戦闘実習のほうに行っておいで」


「はい」



 会場を出ると、ドロシアさんが待っていてくれた。



「許可してくれるといいんですが」


「まぁ、ここは騎士学校ですから。最悪、剣の腕さえよければ、ある程度のクラスには入れますよ」


「そっかぁ」





 ◇





 指定されたグラウンドに着くと、おっさんが一人、剣をかついで待っていた。



「おぉ! 君がユージーン君か! 話は聞いてるよぉ!」


「あ、ほんとですか? よかった……」


「なんでも、身体強化の達人なんだろう? お手柔らかに頼むよ」


「え!? どこからそんな話に!?」


「放出系の魔法はからっきしだが、身体強化は超一流なんだろう? 戦闘実習の成績の一部を魔法実習のほうに回してくれって言われたよ。あ、バスターソードでいい?」


「大丈夫です。じゃなくて、僕は身体強化も……」


「問答無用!」



 どこでどう話が盛られたんだよ。


 おっさんが剣を左腰に構えたまま突っ込んできた。


 たぶん、腰から横に薙ぎ払うつもりだ。


 剣が抜かれるのに合わせて、跳ぶ。

 おっさんの頭を飛び越えて背後に回り、逆袈裟に斬り上げた。


 が、おっさんは振り返りながら剣を合わせてきた。


 この人、普通に強い。


 間を空けずに斬り上げ、続けて突き。

 どっちも軽くいなされた。


 体勢が崩れたところに、大上段からの振り下ろしが来る。


 親父殿やジジィに比べれば遅い。

 でも、見えるのと受けられるのは別の話だ。


 慌てて地面を転がって逃げた。


 膝をついて起き上がろうとしたところに、今度は横薙ぎ。

 なんとか後ろに跳んでかわす。



「親父さんにしっかり鍛えられてるみたいだな!」


「月二回だけですけどねっ!」



 言いながら、俺はおっさんの少し右に向かって走り出した。


 おっさんがいぶかしげな顔をする。


 そこで俺は、何もない空中を踏んだ。


 足の裏が、固いものをとらえる。

 そこを蹴って向きを変え、おっさんの頭の上から剣を振り下ろす。


 これはジジィに教わった魔法だ。


 俺の名前の由来になった霆王が、よく使っていたらしい。


 空間を部分的に固定して、そこを足場にする。

 何もないところで向きを変えられるから、相手に先を読ませずに奇襲をかけられる。


 霆王は超すごいので、あらかじめあちこち固めておいたり、相手のまわりの空間を固めて動けなくしたりしてたらしい。

 俺は五十センチより先に魔法が届かないので、踏む直前に足元だけ固めている。


 おっさんはどうにか剣を割り込ませた。


 でも、勢いまでは殺せなかったらしい。額から血が流れていた。


 いける。


 あとはヒット&アウェイで、体力と魔力が続くかぎり削っていけば……


 と、思っていた。



「かあぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」



 おっさんが吼えた瞬間、ものすごい風が吹き荒れた。


 何が起きたのかわからないまま、俺は吹っ飛ばされていた。


 体を起こしたときには、おっさんが笑顔で、俺の首元に剣を突きつけていた。



「さすがは、あいつの息子。俺に本気を出させるとは、なかなかやるな!」


「あ、ありがとうござい……」


「ただ、一つ気になることがある」



 おっさんの顔から、笑いが消えた。



「お前、あの術をどこで知った?」


「あの術……?」


「とぼけるな。空気を固定する魔法だよ。あれはうちの国の禁術に指定されていて、一部の者しか知らないはずだが?」


「な、なんのことでしょう?」


「あくまで白を切るか。それもいいだろう。よく考えてしゃべれよ? お前のやったことは、今すぐ軍法会議にかけられてもおかしくないレベルだからな?」


「え、えっと……」



 軍法会議って、マジかよ。


 あの能力のことを言うか?

 いや、証明のしようがない。いろいろ試した感じ、あそこには生き物は連れていけないし。


 適当なこと言ってると思われたら、その場で軍法会議行きだ。


 どうするどうするどうする。



(普通に思いついたって言えばいいんじゃ)



 ……あー、最悪だ。


 焦りすぎて、頭の中にイマジナリージジィが出てきた。

 しかも何だよ、思いついたって。そんなの通るわけないだろ。



(いや、まじで、思いついたで行けるからの。だまされたと思って言ってみるんじゃ)



 うわ、このイマジナリージジィ、全然引いてくれない。


 俺はまったく頭いいほうじゃないけど、そんな俺でもダメだってわかるぞ。



「沈黙が答えでいいんだな?」



 やばいやばい。マジでどうしよう。


 信じるか? イマジナリージジィを。


 ええい、ままよ!



「いや、その……ふと思いついて。壁とか作れたら強いんじゃないかって。急にまじめな感じになったから、焦ってわからないふりをしちゃっただけで……本当に禁術だって知ってたわけじゃないんです……」



 頼む。信じてくれ。


 禁術だって知らなかったのはマジなんだから。



「ふむ。ゴネリルの息子なら、あるいは、か?」



 おっさんは剣を下ろした。



「よし、今日のところは帰っていいぞ。たぶん数日中に、軍の使いがお前の家に行くと思うから」


「はい……ありがとうございました」



 これは、どっちだ。


 アウトか? セーフか?


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