第11話 イマジナリーじゃない
試験のあと、俺はドロシアさんと正門の脇で迎えを待っていた。
「これ、僕大丈夫なんですかね……?」
「どうなんでしょう……。私もずいぶん長く生きてきましたが、禁術なんてものがあること自体、今初めて知りましたから」
「父上なら、何か知っているんでしょうか?」
「おそらく。ゴネリル様は近衛騎士団の副団長であらせられますから、知っていてもおかしくはないと思います」
「そうですよね……」
知ってたとして、教えてくれるかは別だけどな。
あの親父殿のことだ。「話は家で聞こう」とか言って、それきり黙ってそう。
そうして待つこと、約一時間。
うちの馬車がやってきた。
「あ、父上。すみません」
「話は家で聞こう」
「はい」
「付き添い感謝するぞ、ドロシア」
「ありがたきお言葉でございます」
「馬を出してくれ」
ほら、言った。
◇
馬車の中、親父殿はひと言もしゃべらなかった。
腕を組んで、窓の外を見ているだけ。
感情を顔に出さなすぎて、怒ってるのかどうかもわからない。
気まずい。めちゃくちゃ気まずい。
というか、軍法会議って何されるんだ。牢屋か?
十歳で前科持ちか?
転生して十年で前科一犯。前世より悪くなってないか、これ。
にしても、禁術だったのか。
あのジジィ、あとで問いただしてやる。
(おぬしが聞いてこないのが悪かろう)
……まだいるよ。
しかも開き直ってるし。
普通言うだろ。教えるときに「ちなみにこれ禁術な」って。
(聞かれんかったからのぉ)
聞くか。どこの世界に、教わった技が禁術かどうか確認する十歳がいるんだよ。
このイマジナリージジィ、いつまでいるんだ。さすがにうっとうしくなってきた。
もしかしてずっとこのままか? そもそも、なんで出てきたんだこいつ。
(こいつとか言うんじゃない。あと、イマジナリーじゃないからな、わし)
ん?
(だから、イマジナリーじゃなくて、本物としゃべっとるんじゃよ)
え。
え、なんで? なんでそんなことになってんの?
(いや、さすがにの。禁術じゃと伝えずに教えた技で軍法会議にかけられるのは、かわいそうかなと思ったんじゃ。特別措置ってやつじゃの)
いや、待て待て待て。
ってことは、さっきからの俺の考え、全部本物のジジィに聞かれてたってこと?
イマジナリーとか、うっとうしいとか、こいつとか。
(全部聞こえとるぞ)
うわぁ。
え、っていうか、そんなことしていいの? どうやってんの?
(質問が多いのぉ。ちぃとは自分で考えんか)
考えてわかるか。
(まぁ、今回は考えてもわからんじゃろうから教えるが)
一言多いな。
(まず、さっきも言うたとおり、これは特別措置じゃ。普段はこんなことせん。わしらがむやみに干渉することは禁じられとるからの)
(ただ、おぬしはそもそも、スキルで普段からわしに会えるじゃろ。じゃから許されとるって感じじゃの。この会話も、おぬしのスキルをこう、上手いこといい感じに流用して成り立たせとるんじゃ)
なるほど。
いや、上手いこといい感じにって何だよ。説明ふわっふわじゃねーか。
あと途中でだいぶイラッとすること言われた気がするけど、気にしないでおこう。
話を聞く感じ、このふざけたスキル、けっこう特殊なのか?
よく考えたら、いつでも神に会えるっておかしいもんな。
(まぁ、そうじゃの。特に実害がなさそうじゃから評議会でも可決されたが、おかしさで言ったら過去一じゃの)
あ、やっぱそうなんだ。
ちなみに過去一ってことは、今までどんな変なスキルがあったんだ?
(個人情報保護法のもとに秘匿されとる)
ケチな連中だ。
(聞こえとるぞ)
知ってるよ。わざとだよ。
そんなことを考えたりしゃべったりしているうちに、馬車は家の前に着いていた。
◇
家に入るなり、親父殿が口を開いた。
「さて、ユージーンよ。どこで禁術を知ったのか、教えてもらおうか」
「いや、知ったっていうか……思いついたんです」
「空中を固定し、足場にするということをか?」
「はい」
親父殿が、じっと俺を見る。
目をそらしたら負けだ。たぶん。
頭の中では、ジジィに教わりましたって百回くらい白状してるけど。
(わしの名前は出すなよ)
出せるか。神様に習いましたって、それこそ軍法会議だわ。
「それが本当であると、自らの誇りに誓えるな?」
「はい。誓います」
「そうか。そこまで言うのなら、信じるとしよう」
親父殿は小さくうなずいた。
「軍部の使いは、おそらく明日には来るだろう。それまで家から出ることを禁ずる。よいな?」
「はい、父上」
外出禁止。
まぁ、もともとほとんど家から出ないんだけど。
自分の部屋に戻って、ベッドに倒れ込む。
(ほれ、通ったじゃろ)
通ったよ。通ったけどさ。
罪悪感がすごい。
誇りに誓うとか言っちゃったよ。
本当はジジィに教わりました、なんて口が裂けても言えない。
せめて、この嘘がバレる事態だけは避けないとな。
にしても親父殿、そこまで怒ってる感じじゃなかったよな。
息子が禁術を使ったってのに。
俺が親なら、もうちょっと怒る。
……いや、怒られたいわけじゃないけど。
なんでだ?




