第12話 軍法会議
翌日。
本当に来た。
「ゴネリル様、軍の使いで参りました。ご同行願います」
「あぁ、少し待っていてくれ。息子を呼んでくる」
「はい」
玄関に立っていたのは、頭のてっぺんから足の先まで鎧で固めた騎士だった。
顔がまったく見えない。
「ユージーン。準備はよいな」
「はい、父上」
「馬を出してくれ」
◇
馬車の中は、昨日よりもピリピリしていた。
親父殿は腕を組んだまま、ひと言もしゃべらない。
で、その向かいで全身鎧の騎士さんがめっちゃしゃべる。
「いやぁ、今日はいい天気ですねぇ」
「は、はい」
「ユージーン君、だよね? 緊張してる?」
「それなりに……」
「だよねぇ。私も最初に司令部に呼ばれたときは、足がガクガクだったなぁ」
親父殿、無言。
騎士さん、まったく気にしない。
「まぁ、なるようになるって。たぶん」
親父殿、無言。
この人、強いな。いろんな意味で。
……まぁ、おかげで少し息はしやすい。
「到着しました」
◇
騎士団司令部は、思っていたよりも地味な建物だった。
騎士さんについて廊下を歩いていくと、机がいくつか置かれただけの部屋に通された。
「こちらの部屋になります」
「……少し小さくないですか?」
「今回の軍法会議は、内容が内容だからな。知る人間は一人でも少ないほうがいい」
答えたのは親父殿だった。
なるほど。禁術の話を、大勢の前でするわけにはいかないってことか。
しばらくすると、三人が部屋に入ってきた。
先頭は、きらきらした冠をかぶって、赤いマントを羽織った男。
入ってきただけで、部屋の空気が重くなった。
その次が、試験官のおっさん。額にまだ傷が残ってる。ごめんなさい。
最後が、白金色の鎧を着たイケメンだった。
先頭の男が座ってから、ほかの二人が座る。
ってことは、たぶんあの人が皇帝ヘクトールだ。
この国の皇帝は、血縁で一番強い人がなるらしい。つまり、えらくて強い。
いきなりラスボスが出てきた。
「さて、ゴネリルよ。お前は本当に、俺を楽しませてくれるな」
「恐悦至極に存じます」
「これで二代続けて禁術を使ったことになるわけだが、申し開きはあるかね?」
「ありません」
え。
二代続けて?
「くくく。まぁ、アンブロシアは先代からちとおかしかったからな」
皇帝陛下は、楽しそうに笑っていた。
目は全然笑ってなかったけど。
「俺としては、今回の件は不問にしようと思うのだが」
「そもそもあれが禁術なのは、城壁が意味をなさなくなるからだ。そこまで使われて困るものではない。それにこいつの魔力では、城壁を越えることすらできなかろうて」
さらっと魔力がないことをいじられた。
でも、反論できない。魔力四十だし。
「ただし、使用は禁止とする。どうだ? ヴァルト、レコア」
ヴァルト。
あのおっさん、ヴァルトっていうのか。
「自分も、不問でいいかと」
試験官のおっさん、ヴァルトさんが口を開いた。
「実際に戦ってみたうえでの所感ですが、この歳であれだけ腕が立つなら、学校を卒業するころには、そう簡単に術を盗まれるようなことにはならないでしょう。それでも、学生の間は禁止にしたほうがよいかと」
「ヴァルト殿が認めるほどの実力であるなら、私も異論はありません」
白金色のイケメン、レコアさんもうなずいた。
え、ちょっと待って。
これ、助かった?
「ふむ。そこまで言うなら、ひとつ実力を見てみたい気もするな」
助かってなかった。
「よし、今回の件は不問とする。ただ……エミリア!」
皇帝陛下が呼ぶと、ドアが開いた。
入ってきたのは、さっきの全身鎧の騎士さんだった。
あの人、エミリアさんっていうのか。
「レコア、今使っていない訓練場はあるか?」
「たしか、三番訓練場は空いているかと」
「エミリア、三番訓練場に向かってくれ。それと、誰も入れないようにすること」
「はい!」
エミリアさんは、来たときと同じテンションで出ていった。
「さて、ユージーンといったな。俺に実力のほどを見せてもらおう」
「は、はい……」
「くくく、そう固くなるな。罰など与えんよ。これで今回の会議は終わりとする」
皇帝陛下が立ち上がる。
「ヴァルトはこのあと仕事が残っていたな。レコア、ゴネリル、ユージーン。行くぞ」
◇
というわけで、三番訓練場とやらに向かっている。
というか、怖ええええええ。
ヘクトール様、目が鋭すぎる。見られてるだけで寿命が縮む。
怖すぎて、頭の中で下手なツッコミすらできなかった。
それより、二代続けて禁術って言ってたよな。
ってことは、親父殿も使ってたのか。禁術。
そりゃ怒らないわけだ。自分もやってるんだから。
昨日の「誇りに誓えるな?」の重さを返してほしい。
あと、実力を見せてもらうってなんだ。
決闘でもするのか?
あ、着いたっぽい。
◇
三番訓練場は、だだっ広い土のグラウンドだった。
先に来ていたエミリアさんが、ビシッと姿勢を正す。
「さて、エミリア。お前はたしか、去年の学生大会の優勝者だったな?」
「はい」
「よし。鎧はなしにしておこうか。手加減もなしでいい」
「はい?」
「ん? あぁ、言っていなかったか」
皇帝陛下は、俺のほうをあごでしゃくった。
「このユージーンと戦ってくれ。ユージーンの実力を見たいのでな」
……やっぱり決闘だった。
しかも相手、去年の学生大会の優勝者なんだけど。
「ユージーン、あれを使っていいぞ」
「いいんですか?」
「あぁ、いいとも。使えるものは全部使うといい」
「……わかりました」
全部使っていいって言われてもな。
そんなに手札ないんだけど。
向こうでは、エミリアさんががちゃがちゃと鎧を外していた。
最後に兜を取る。
お、顔が見え……
ん?




