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第8話 三時間後

 で、だいたい三時間後。


 俺はジジィの部屋で、DS Liteをやっていた。


 もちろん、水色じゃないほうだ。


 短剣を持った男から逃げてきて、神様の横でゲーム。


 我ながら、緊張感がなさすぎる。


 でも、向こうに戻ったら刺されるかもしれないんだから、しょうがない。


 ちなみに最初の一時間は、ずっとジジィの小言だった。


 大変なことになったらわしがどやされるんじゃぞ、と何回言われたかわからない。


 知らん。俺のスキルを推したのはジジィだ。



「よし、そろそろいいかな」


「お、なんじゃ。もう行くのか」


「あんまり遅くなっても、心配すると思うしね」



 あいつも、さすがにもう家にはいないだろう。


 ……あ、そうだ。



「そういえばジジィって、剣とか使える?」


「そりゃ、まぁ、そこらの人間よりかは、はるかに強いのぉ。あと、ジジィって言うのやめなさい」


「ほんと? じゃあ、たまにこっちに稽古つけてもらいに来るかも」


「まぁ、おぬしの能力じゃ。好きにやるといいぞい」


「そっか。またね!」



 手を振って、ジジィに背を向ける。


 ……。


 …………。



「……これ、どうやって戻んの?」


「あぁ、戻れーって念じればいけるんじゃないかの?」


「適当だな!」



 戻れー。


 戻れー。





 ◇





 おぉ、戻ってこれた。


 クローゼットの中だ。吊るしてある服が、また顔にもさもさ当たる。


 そーっと扉を開けて、部屋をのぞく。


 よし。あの変なやつは、いなくなってるな。


 ん? なんか、外が騒がしいような……。


 行ってみるか。


 廊下に出る。


 床に、点々と赤いしみが続いていた。


 ……あいつの膝のやつか、これ。


 見なかったことにして、音のするほうへ急ぐ。


 玄関のほうに、人が集まっている。その真ん中にいるのは……親父殿か?


 騎士団の服のままだ。仕事中に飛んで帰ってきたらしい。



「父上!」


「おぉ! ユージーン! どこに行ってたんだ!」


「なんか、変な人が襲ってきたので、隠れていました」



 嘘は言ってない。


 隠れてた場所が、ちょっと遠かっただけだ。



「あぁ、そうか……怪我はないか?」


「はい、どこも」


「無事ならよかった」


「あの変な人は、どうなりました?」


「あいつなら、憲兵に連れていかれたよ。どうやら私に強い恨みを持っていたみたいでね。私の記憶にはないから、逆恨みだと思うんだが……」


「はぁ」


「それに、目の前から消えたとか何とか言っていたし。大方、変な薬でもやっていたのだろう」



 すみません。


 それ、俺です。


 とは、もちろん言えない。


 神様のところに三時間行ってました、なんて言ったら、今度は俺が薬を疑われる。



「ともあれ、お前が無事でよかったよ」



 親父殿の大きな手が、頭に乗った。


 薬のせいにされたあいつには、ちょっとだけ悪いことをした気がする。殺されかけたけど。





 ◇





 こうして、この一件は落着した。


 ただ、親父殿はこの事件でだいぶ危機感を覚えたらしい。



「ユージーン。これからは、稽古を月二回にする」


「はい、父上!」



 月一から、月二。


 正直、そのくらいの変化なら焼け石に水だと思う。


 でも、稽古が増えるのはうれしい。文句はない。


 ……デコピンは倍になるけど。


 それと、もう一つ。


 一人になれるタイミングがあれば、ジジィのところに行くようになった。


 剣の稽古をつけてもらうためだ。


 帰りは、戻れーと念じるだけ。慣れたもんだ。


 親父殿は月二回。でもジジィなら、暇さえあればいつでも見てもらえる。


 いつでも爺にあえる権利。あんなにいらなかったのに、ここにきて急に便利だ。



「ほれ、脇が空いとる」


「いでっ」


「遅い」


「いっでぇ! ジジィ、ちょっとは手加減しろよ!」


「しとるわい。あと、ジジィって言うのやめなさい」


「隙あり!」


「ないわい」


「いでっ」



 このジジィ、やたら剣が上手い。


 正直、親父殿より強いんじゃないかってレベルだ。


 まぁ、神様だからな。それくらい強くてもおかしくはないんだけど。


 水色のDSを死守してるジジィと同一人物とは、とても思えない。


 と思ったら、稽古の途中で「ちょっと待て、今いいとこなんじゃ」とDSに戻っていった。


 同一人物だった。





 ◇





 七歳になると、魔法の特訓も始まった。


 親父殿が、今度こそ魔法の先生を見つけてきてくれたのだ。


 ……が。


 どうやら俺は、魔法の才能がびっくりするくらいないらしい。


 体の外に向けて魔法を使うのは、まったくダメだった。


 できたのは身体強化だけ。それも、ギリ。



「では、もう一度。手のひらに魔力を集めて、的に向かって押し出すように」


「はい……ふんっ!」


「……」


「ふんぬっ!」


「……」



 的は、ぴくりともしない。


 俺の顔が赤くなっただけだった。



「……ユージーン君。身体強化は、できていますね」


「はい」


「…………身体強化は」



 先生、そこで黙らないでください。


 というわけで、親父殿も先生も、俺の魔法にはもう期待してないっぽい。何より俺自身が、とっくに諦めてる。


 いいんだよ。俺には剣があるんだから。





 ◇





 そんな感じで、稽古と特訓の日々を三年ほど過ごした。


 デコピンの回数は、途中から数えるのをやめた。


 そして明日、俺は十歳になる。


 この国の十歳の誕生日には、もう一つ、ややこしい決まりがある。


 魔法がからっきしの俺にとっては、かなり胃の痛いやつが。


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