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第4話 生誕

 うおっ、なんだここ!?


 狭い! 暗い! なんかタプタプしてる!


 おい、出せっ! 出せよ!


 おらっ、くらえ! キック! キック!


 ……反応なし。


 蹴った足がぬるっと押し返されるだけで、壁はびくともしない。


 なんだよこれ。ジジィ、転生させるならもうちょっとマシな場所に送れよ。


 ……いや待て。


 狭くて暗くてあったかくて、水っぽい。


 これ、腹の中か。


 そりゃそうか。生まれ変わるんだもんな。いきなり草原に放り出されるわけじゃないよな。


 じゃあ、生まれるまで待てばいいってことか。


 よし、待とう。



 はぁ。


 いつまでこうしてりゃいいの、これ。


 することがない。マジでない。


 寝る。起きる。ちょっと蹴る。寝る。


 スキルの紙を書いてた五日間もだいぶ暇だったけど、あっちにはDS Liteがあった。


 こっちには何もない。水しかない。


 持ってくりゃよかった、DS。水色じゃないほう。


 ……今、どれくらい経った?


 長い。


 長すぎる。


 …………


 ……………………



 ん?


 なんか、足引っ張られてる。


 出れる! 出れるぞ!


 おぉ、がんばれ! そのまま引っ張れ! うおおおおお!


 ……ぐえっ。


 苦しっ。首、首が絞まってる!


 罠か! 出そうとしたのは罠だったのか!


 ぐおおおおお、苦しい、苦しすぎるううううう!



「おぎゃあああああああああ!(だあああああ、死ぬかと思ったああああああ!)」


「びぎゃああああああああああ!(危なかったああああ! 何すんだこの野郎おおおお!)」


「うぎゃあ! おぎゃあ! えぎゃあ! んぎゃあ!(どこだここ! なんかいるな!? 誰だてめぇら! ……やべ、ねむ)」





 ◇





「御屋形様! 奥様が!」


「うむ、急ごう」




「あなた……」


「心配するな。私がついている」




「奥様! 元気な男の子ですよ! 産声も超あげてます!」


「逆子だったから心配したが、健康そうだな。よかった……」


「あなた似で、本当にかわいい……」


「名前は何にしようか?」


「古の大英雄の名前を借りて、ユージーンというのはどうかしら」


「あの霆王(ていおう)ユージーン・キングスカラーか。若干血なまぐさい名前な気もするが……ありだな」


「でしょ?」





 ◇





 というわけで、俺はユージーンになった。


 らしい。


 なにせ本人は、生まれて三秒で寝てたからな。




 で、ゼロ歳。


 ほんっとに暇だった。


 腹の中よりはマシだけど、やれることは大差ない。


 起きる。寝る。起きる。寝る。


 たまに漏らす。全力で騒ぐ。騒ぎ疲れて寝る。


 起きたら腹が減ってる。全力で騒ぐ。




 しかも、うちの家はそこそこ広いらしい。


 全力で騒がないと、誰も来ない。


 腹ペコで泣き叫んで、待って、待って、待って。体感で三日くらい待たされた。


 いや、実際は三十分とかそこらだろう。でも赤ん坊の三十分はきつい。


 腹は減ってるし、頭は回らないし、そのうえ全力で泣き続けないといけない。


 前世で転んで死んだときより、死ぬかと思った。




 たまに様子を見にくる両親に手を伸ばすくらいしか、することがない。


 親父殿は、俺を抱っこするときだけ手つきがおそるおそるで、そこはちょっと面白かった。


 母親殿は、来るたびにとにかく何か話しかけてくる。


 声はやさしい。それはわかる。


 でも、何を言ってるのかはさっぱりわからない。異世界語だからな。ジジィ、翻訳機能くらいつけとけよ。




 半年もすると、立てるようになった。


 これはさすがに感動した。泣くかと思った。


 前世の二十九年で、立っただけでほめられたことなんて一回もない。親父殿も母親殿も大喜びで、使用人まで拍手してた。


 まぁ、基本ははいはいだし、ブロックをガチャガチャやるくらいしかやることはないんだけど。


 それと、離乳食はくそまずかった。


 味がしない。いや、なんかちょっと苦い。なんで苦いんだよ。




 二歳。


 二歳はだいぶマシだった。


 散歩に連れていってもらえるようになったからだ。


 言うて、庭で草をむしるか、虫をいじめるくらいしかやることはない。


 それでも、回らない赤ちゃん頭にはそこそこ楽しかった。




 あと、言葉がわかるようになった。


 これはデカい。


 毎日のように呼ばれてた「ユージーン」が、自分の名前だってこともようやく理解できた。


 ユージーン。


 山田太郎からの落差がすごい。急にかっこよくなりすぎて、ちょっと照れる。


 なんでも、昔の英雄から取った名前らしい。名前負けしそうで、今から怖い。


 話せるようになったのもデカい。腹が減ったら「ごはん」と言えばいい。全力で泣き叫ぶ必要がない。


 ごはんも、ちゃんとしたやつになった。やわらかいけど、味がある。離乳食よりは百倍マシだ。




 で。


 もらったあのくそ能力は、一回も発動しなかった。




 “いつでも爺にあえる権利”。


 いつでもって言うくらいだから、会いたいと思えば会えるんだろうと思っていた。


 なので、夜、ベッドの中で何回か呼んでみた。


 ジジィ。


 ジジィ出てこい。


 おいジジィ。




 ……何も起きない。


 夜泣きと間違えられて、母親殿があやしに来ただけだった。


 ちがうんです母上。今、神様を呼んでるんです。


 とは言えないので、おとなしく寝かしつけられた。


 いつでもって何だよ。いつだよ。


 向こうで確認しろって言ったの、お前だからな、ジジィ。

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