第3話 いらねぇぇぇ
「待て待て待て待て」
「なんじゃ」
「まとめんな! 全部却下ってなんだよ! 本命のソロモンと饕餮は!?」
「いや、どうせ全部ダメじゃし、早う本題に入ろうかと」
「本題ってなんだよ。俺にとってはそっちが本題なんだよ」
このジジィ、自分のおすすめのやつだけ早く言いたいんだな。
「聞きたいんか?」
「聞きたくはねぇけど、聞かなきゃ納得できねぇだろ」
「しょうがないのぉ」
ジジィは、横にどけた紙の束を手元に戻した。
「次、“万雷の福音”。『これはエネルか?』『速すぎて、たぶん目が追いつかないぞ』『これも名前のセンスが悪い』。却下じゃ」
「エネル以外にもいるだろ、雷系の能力者」
「キルアとかな」
「そう、それ。あと目が追いつかないのは、ほら、なんか慣れで」
「慣れるかのぉ」
「慣れる! たぶん!」
「次、“黒穴熊”。『なんでいけると思った』『こんなのが通るわけないだろ』『まぁ、これの名前は否定するとこはないか』。却下じゃ」
「まぁ、これはね」
自分でも、「他のもだいたいあんな感じ」はないなと思ってた。
書いたときは、たぶん深夜のテンションだったんだ。ここ、夜ないけど。
……ん?
名前は否定するとこがない?
「ていうかさ、さっきから名前で判断してるやついない?」
「やっぱ名前は大事じゃからな。次、“超人”」
「お、それは自信ある」
「『ふざけんな、ちゃんと考えろ』『どうやって数値化するんだ』『なんだそのルビ』。却下じゃ」
「えぇ……ルビまでかっこよかっただろ」
「そこじゃないんじゃがな」
「シンプルでいいと思ったんだけどなぁ」
「シンプルすぎるし、十倍は盛りすぎじゃ」
「十倍は十倍だろ」
「なんの十倍じゃ」
「……俺の?」
言ってから気づいた。
運動もダメな二十九歳の十倍。たしかに、ちょっと強いおっさんくらいかもしれない。
「次、“全てを飼いならすもの”」
来た。本命その一。
「『俺らにもできねぇのに、お前ごときにできると思うな』」
「いきなり辛辣!」
「『これだけまじめに考えた感あってウケる』『ソロモンはすべての動植物と話せただけで、飼いならせたわけではないぞ』。却下じゃ」
「なんか口悪くない!? 俺なんかした!?」
「いつもこんな感じじゃぞ」
天界のお偉いさん、名前が出ないからって好き放題だな。
ていうか「まじめに考えた感あってウケる」ってなんだよ。まじめに考えたんだよ。
「次、“饕餮”」
本命その二。頼む。
「『こんなのできるやついんのか?』『ちゃっかり毒無効とかつけてんじゃねえ』」
「いいだろ毒無効くらい! 食うんだから! 腹壊すだろ!」
「『はいはい、難しい漢字知っててすごいすごい』。却下じゃ」
「クッソ、最後のやつマジで許さん」
お偉いさんに、すごいすごいって言われた。
ぜんぜんうれしくない。
「がんばって復讐するんじゃな」
全滅だ。八個とも落ちた。
五日間、どれが通るかにやにやしてたのが、全部パーだ。
「で、改めて最後に“いつでも爺にあえる権利”じゃが」
ジジィが、こほんと咳ばらいをした。
「『爺ってだれのことだ?』『本人がいいんならいいんじゃない?』『これもうネーミングセンスとかじゃないもんね』」
「……」
「以上の理由があったが、無事、認可されたぞ」
「えー……いらないよぉ……」
「なんでじゃ。わしに会えるんじゃぞ」
「だからいらないんだって」
「いつでもじゃぞ。毎日でも会えるんじゃぞ」
「余計いらねぇよ」
よりによって、それかよ。
メリットなしの、ジジィに会えるだけのやつ。
まぁいい。切り替えていこう。
評議会のクセはだいたいわかった。要は名前だろ。あとルビ。
ソロモンなんか、名前を変えればワンチャンあるかもしれない。
「よし! 別の考えるか! 次はもうちょい設定練るわ。紙もらうぞ!」
「ところでの、悲しいお知らせじゃが」
「ん?」
「おぬしの魂の体力が、そろそろ尽きる」
「え、マジ?」
「大マジじゃ」
あー……そういや五日前に言ってたな。
再提出して待つ体力がなかったら、能力そのままで出発ってやつ。
え、じゃあ俺、あれで確定?
「したがって、おぬしに与える能力は“いつでも爺にあえる権利”じゃ!」
「いらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ちなみにマジで時間がないから、もう送るぞ」
「は? 今?」
視界のはしっこが、じわじわ光ってきた。
手の先の感覚が、なんか薄い。
「待って待って待って! せめてもう一個! 一個だけ出させて!」
「無理じゃ。次の評議会まで、おぬしの魂はもたん」
「じゃあせめて説明しろよ! これ何ができんの!」
「会えるんじゃよ。わしに。いつでも」
「知ってるよ! 名前に書いてあんだろ!」
ジジィは「うーむ」と、あごをさすった。
なんだその間。
「能力の確認は向こうでしとくれ! じゃあの! 元気でな!」
「おい待てジジィ! てめぇ、知ってて入れろって言ったろ!」
ジジィはにこにこして手を振っている。
あの顔だ。おすすめのスキルを書いとけって言ったときと、まったく同じ顔。
「おい! 向こうで確認って何だ! おいふざけんなあああああ!」




