第2話 評議会
「よおおおおし! 書けたああああ!」
砂時計の砂は、まだ半分も落ちていなかった。
俺は紙の束をつかんで、ドアを開けた。
「ジジィ! できた! 評議会行こうぜ!」
「うるっさいのぉ。次の開催はまだ先じゃ。そこで大人しくまっちょれ」
「え、早く出したら早く転生できるとかないの?」
「言っとらんかったかの。ないぞ」
「マジかよ。めっちゃ頑張ったのに……」
「推敲でもしとくんじゃな」
ジジィは水色のDS Liteをぱかっと開いた。こっちを見もしない。
「なぁ、これ一個も通らなかったらどうなんの?」
「もう一回考えるか、最悪、能力なしじゃな。おぬしの場合は微妙なとこじゃが」
「微妙ってなんだよ。てか、能力なしとかあんの?」
「転生できる条件はの、魂の体力みたいなもんが、ここにたどり着いて、評議会の結果が出るまで残っとることなんじゃ」
「体力」
「再提出して、もう一回評議会を待つとなったら、そのぶん体力がいる。それまで魂がもたんと判断されたら、能力なしで出発じゃ」
「え、そんなヘロヘロで転生して大丈夫なの? 途中で死んだりしない?」
「送るあいだはこっちで保護するから、途中で死ぬことはないのぉ。問題は生まれるときじゃな。出産は母子ともに命がけじゃから、場合によっては普通に死ぬ」
「こわっ」
「そこさえ越えれば、体力はちょっとずつ回復するから問題ないぞ」
「ちょっとずつ回復ってなんだよ。そもそも魂の体力ってなんなのさ」
「正味の話、わかっとらん」
「わかってねぇのかよ」
「原初の神が生き物を作ったときは、そんな仕様はなかったらしいんじゃがの。気づいたら後から増えとったんじゃと」
「勝手に増えんの?」
「増えたんじゃから、しょうがないじゃろ。ほれ、推しが死んだとき、体は元気なのに働けんことがあるじゃろ。あれに絡んどるんじゃないかと言われとる」
「あー……推しが死んだ回のあと、三日くらいバイト休んだことあるわ」
「それじゃ、それ。わしも三日、メシが喉を通らんかったのぉ。まぁ研究するやつがおらんから、わからんままじゃがの」
神様も推しが死ぬと寝込むのか。
◇
それから五日。
「しゃあ! 行くぜ評議会!」
「ん? おぬしは行かんよ?」
「え?」
「おぬしはここで留守番じゃ。言っとらんかったか?」
「言ってないな」
「じゃあ、なんで聞かんかったんじゃ」
「聞いたわ! 何回も聞いたのに、ジジィがDSで化石掘るのに夢中で返事しなかったんだろうが!」
ジジィは何も言わずに、ドアの向こうへすたすた歩いていった。
「おい! 逃げんなジジィ! 戻ってこい!」
戻ってこなかった。
都合が悪くなると、すぐこれだ。
まぁいい。今日の俺は機嫌がいいんだ。結果が出るまでに、書いたスキルを振り返っておくか。
獄炎の使者
なんか黒い炎を地獄から呼び出して戦う。
なんか体にまとうと身体能力が上がる。体を炎に変えて攻撃をよけられる。
黒い炎を薄く張りめぐらせて感知とかできる。蜃気楼とか炎の分身も作れる。
一発目にしては完璧だろ。ルビもかっこいい。
氷天の徒花
なんか氷を地獄っぽい場所から呼び出す。氷で装備とか作る。
相手を氷漬けにして封印する。氷の分身を作る。
砂塵の防壁
なんかオートでガードしてくれる砂を呼び出す。
ものすごい量の砂で相手を押しつぶす。なんか握りつぶしたりもできる。
やばくなったら砂の狸が出てくる。
ここのルビ、俺は最初「デザート・イージス」って書いてた。
DSを取りに来たジジィが勝手に二重線を引いて、上に「フラガイル」って書いていった。意味は知らん。
万雷の福音
雷を大量に降らせる。自分の体を雷に変えられる。
黒穴熊
手から鋼鉄の爪が生えたりする。
他のもだいたいあんな感じ。
これはルビなし。漢字だけで十分強そうだからな。
超人
身体能力十倍。
シンプル・イズ・ベスト。
全てを飼いならすもの
すべての動物を使役できる。
条件は相手を倒すこと。倒し方は問わない。相手が「負けた」と感じたら、それがトリガー。
饕餮
相手の肉を食うと、そいつのスキルを奪える。
食った量で、どこまで再現できるかが変わる。毒とかも効かない。
いつでも爺にあえる権利
いつでもジジィにあえる。
……最後のはあれだ。
ジジィがDSを取りに来るたびに「書いた?」「わしのおすすめ書いた?」ってうるさいから、根負けして書いた。
正直、これは選ばない。メリットがない。
本命はソロモンと饕餮だな。
よし、あとは結果を待つだけだ。
◇
「結果発表じゃ」
戻ってきたジジィは、紙の束を持っていた。
「おぉ! ついに来たか! よし、順番に頼む!」
「では一個ずつ、評議会のコメントを読んでから結果を言うぞ」
「コメントとかあんの?」
「あるぞ。まず“獄炎の使者”じゃが」
「うん」
「『設定が雑すぎる』『アビスは奈落。地獄と言いたいならヘルを使え』『名前が雑』『勝手にルビふるな』。以上の理由で却下じゃ」
「えぇ……」
い、いや、まだ候補はある。一個目で落ちるのは想定内だ。
「次、“氷天の徒花”。『一個目と設定がかぶりすぎ』『一個目もそうだけど、どうやって分身に色つけるんだよ』『花の要素はどこ行った』『やっぱり名前がダサい』。却下じゃ」
「いや、分身の色はさ、なんか魔法とかで……」
「魔法はそこまで万能じゃないぞい。次、“砂塵の防壁”。『いくらなんでも我愛羅すぎる』『狸はなんなんだ』」
「狸はいいだろ、狸は」
「『かたい防壁と、もろい砂塵の対比で、フラガイルのルビをふったのはセンスがいい』。以上の理由で却下じゃ」
「そのルビふったの、ジジィだよな」
「そうじゃな。さすがわし、センスがいい」
「ほめられたの、そこだけなのに俺のじゃねぇし」
ジジィは紙をぺらぺらめくって、途中から束ごとまとめて横にどけた。
「残りもまぁ、全部却下じゃな」
「は?」
「で、最後に“いつでも爺にあえる権利”じゃが……」




