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第38話 ヴァルプス

「来るぞ」



 魔獣は少し身をかがめ、ためを作ってから飛びかかってきた。


 ガルさんは左に、俺は右に跳ぶ。


 黒い霧で、お互いの姿が見えなくなった。



「こっちが狙いのようだ! ユージーンは隠れてていい!」


「了解! お気をつけて!」



 霧の向こうから声が聞こえたあと、爆発音が何度も何度も続いた。


 周りに気を配りながら、家があったほうへ移動する。


 大気を割るような魔獣の咆哮。


 続いて、地面が激しく揺れた。魔獣が地面を踏み鳴らしているような音もする。


 やばそうだな、とか思っていたら、目の前に炎でできた小鳥が一羽、飛んできた。



「ん? これ、ガルさんの……」



 小鳥は目の前でくるくると少し回ったあと、ゆっくりどこかへ飛んでいく。



「ついて来いって? まぁ、いいけど……」



 小鳥を追いかけてしばらく進むと、そこにはガルさんが立っていた。



「あれ、なんで……さっきまで、っていうか今も、あいつの相手をしてるんじゃ……」


「おや? もしかして、僕がただ炎を操って爆発させるだけの魔術師だとでも? 幻術くらい使えるさ」


「幻術」


「とにかく、この階層から一回出よう。あのデカブツが幻術の相手をしてる間にね」


「そうですね」


「さっさと戻って、援軍を呼ぶとしよう。あんなけだものの相手なんかできるか」


「誰がけだものだって?」



 透き通るような声が、後ろから聞こえた。


 振り返ると、さっきの魔獣をそのまま小さくしたような獣がいた。


 獣が右の前足を振り上げる。


 鋭い鉤爪。


 とっさに抜いた剣で、どうにかはじき返した。


 同時に、ガルさんが獣の鼻先で小鳥を爆発させる。


 獣は一瞬で後ろに跳び、距離ができた。



「驚いたな。この獣、知性があるぞ」


「私は獣ではない。どちらかというと、竜に近い存在だ。それに、ヴァルプスという名前もある」


「ヴァルプス……その名前、誰からもらった?」


「言う必要があるか? それに先に伝えておくが、私は敵ではない。さっきのは少し試しただけだ」


「なぜ家に変身していたんだ?」


「答えるつもりはない」


「そうか。で、何の用だ?」


「用があるのはお前じゃない。そっちの坊やだ」


「ん!? 僕!?」


「そうだ。そこの坊や、ちょっとこっち来い」



 え、行くの? これ。


 ガルさんを見ると、小さくうなずかれた。行くしかないらしい。



「そうだ。で、ちょっとしゃがめ。よし、顔を見せな。目だ、目を見せるんだ」



 赤い目が、すぐそこまで近づいてくる。


 近い。怖い。



「……なんだ、普通の目じゃないか」


「目って、父上と何か関係が?」


「勘がいいな。勘のいいガキは、まぁ、嫌いじゃないよ。話が早いしな。よし、もう離れていいぞ。次はそこの魔導士だ。こっちに来い」



 獣……いや、竜か。


 竜はガルさんを連れて、霧の中に消えていった。


 なんの話をしてるんだろうか。


 そもそも、あの竜はなんなんだ? 師匠なら何か知ってるかな。


 師匠! なんか知ってる?



(知ってはおるが、まぁ、今は話すことはできんの。そのうちわかるじゃろうから、待っておれ)



 ほーん。


 まぁ、師匠が言うならしょうがないか。黙って待つことにしよう。


 しばらくすると、ガルさんが子どもと一緒に戻ってきた。


 ちょうど俺と同じくらいの歳だ。



「待たせたね、ユージーン。さて、紹介しよう。こちらが、今日から君の友人になる、ヴァルプス・リーフィス君です。仲良くしてあげてね」


「ヴァルプスって……それに、リーフィスっていうのも。どういうことです?」


「幻術の一種だよ。グレンゴルドが使ってたのとは違う。私はあれは使えなくてね」


「グレンゴルドを知っているのか?」


「そりゃあな。竜であいつのことを知らないやつはいないよ」


「それは、なぜだ。あいつは、何か特別なのか?」


「ふん。お前ら人間にはわからんさ。それに、私から教えることもない。私は君の敵ではないが、同じように味方でもないのでね」



 ヴァルプスは、そこで俺のほうを見た。



「あ、坊や。君は別だ。私は君の味方さ。友人と言い換えても問題ないがね」


「それは、どうも、ありがとうございます……」



 なんとも胡散臭いな。


 十歳そこらの見た目で胡散臭いって、相当だぞ。


 だいたい、友人になるってなんだ。信用できるか、こんなやつ。


 それに、リーフィスってガルさんの名字だろ? どういうつもりだ?



「まぁ、なんでもいい。で、今日からこいつが君の友人として、君と行動を共にするから。そこのとこよろしく」


「よろしく、ユージーン君」


「……うん、よろしく」


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