第35話 ボスって何
覚悟を決めた、そのとき。
横から炎の小鳥がものすごい速さで飛んできて、魔犬の目の前で爆発した。
最後の一匹が、驚いてその場で固まる。
「あぶなかった! ナイスフォローです!」
「最後の一匹も油断しないようにね」
剣を引き抜いて構え直す。
魔犬は跳びのいて、しばらくこっちをにらんでいた。
けど、これ以上は危ないと判断したのか、くるりと背を向けて森の中に駆けていった。
「あら、どっか行っちゃいましたね」
「そりゃ、得体の知れない攻撃されたら怖いだろうし」
「それもそうですね。にしても、一人じゃちょっと厳しかったですね」
「まぁ、あれは向こうの連携がよかったよ。切り替えていこう」
「そうですね。ちなみに、ボスとかいるんですか?」
「ボス、ボス……ボスって何?」
「あー、なんか特別強い魔物みたいなやつです」
「うーん、上位種のこと? それとも、名有り?」
「その二つって、どう違うんですか?」
「上位種は、特殊な進化をした個体のことだね。さっきの魔犬だと、進化するとより大きく、より速くなるんだけど、上位種には触手が生えるやつとか、でかい角が生えてるやつとかがいる」
「触手」
「で、名有りは、同じ種族の中でも格別に強かったり、スキルを持ってたりして、ギルドが特別な魔物だと認定してる個体のことだね」
「なるほど。ダンジョンの中で階段を守ってたり、部屋の主みたいなのはいないんですか?」
「そういうのは、めちゃくちゃ稀だけど、いるにはいるみたいだよ。あんまりにも強いから、数十人規模で討伐するんだとか」
「あ、いるんですね」
ボスって言葉、こっちにはないのか。
気をつけないとな。今まであんまり指摘されなかっただけで、結構変な言葉を使ってたんだろうな。
そもそも、日本語をしゃべってる感覚で話してるんだけど、これどうなってるんだ?
気づいたら、ここの言葉がわかるようになってたんだよな。
(あ、それわしがやったんじゃ)
あ、師匠がやってたんだ。
まぁ、あんまり気にしてなかったけど、明らかにおかしいよな。
ちなみに、ほかの国の言葉だとどうなんの? 同じようにしゃべれる?
(主要な国じゃと、言葉の違いはほとんどないからいけるのぉ。あっても標準語と津軽弁くらいの差じゃから、まぁなんとかなるじゃろ。ただ、亜人の国の一部はほかの言語を使っとるから、そこは通じんぞ。おしゃべりしたくなったら、頑張って勉強するんじゃな)
まじかぁ。楽したかったな。
まぁ、そんな国に行くこともないだろ。
お、階段が見えてきた。
「こっちの道で合ってたみたいですね」
「そうだね。じゃあ、二階層に行こうか」
◇
二階層は……普通の洞窟って感じだな。
岩肌に苔、どこかから聞こえる水の音。
いいね! こういうのでいいんだよ。
「学校では、どんな授業をするんですか?」
「え? いや、僕は騎士学校を出てないからわかんないんだけど……」
「あぁ、そっか。魔法学校では、どんなことを教えてるんですか?」
「基本的には座学だね。座学と実技の比率でいうと、七対三くらいかな」
「そんなにですか!?」
「うん。そもそも、魔法を自由にぶっ放せる場所が少なすぎて、順番が回ってこないんだよ」
「あー。ちょっとした魔法は使わないんですか? ちょっと火をつけるみたいな」
「やるにはやるけど、魔力が多いだけで制御がちゃんとできない子が多いから、広い場所でやらないととんでもないことになるんだよね」
「具体的には、どうなるんですか?」
「魔力が枯渇するか、本人が死ぬまで周りを焼き尽くすね」
「えぇ……こわ……」
「大丈夫。君は大して魔力ないから、ちょっと炎が出てすぐ終わるよ」
フォローになってない。
「魔力がゼロになったら、どうなるんですか?」
「あ、あれ経験したことないんだ」
「枯渇寸前までなら、行ったことあります」
「経験してみる?」
「え。一応、どうなるかだけ聞いてもいいですか?」
「うーん、大人なら二日酔いで通じるんだけど……簡単に言うと、頭痛と吐き気がいっぺんに襲いかかってくる感じ。寝ようにもきつすぎて寝れないし、なんかめっちゃテンション下がって、マイナス思考になっちゃうんだよな」
「なるほど。遠慮しておきます」
「いや、でも、何事も経験だよ?」
「大丈夫です」
「少しでも慣れておいたほうがいいと思うんだけど」
「い~や、いいです。それは今後気をつければいいだけなんで」
「そっかぁ。もし経験したくなったら言ってね? 面白……いや、心配だから見に行くよ」
「ないと思います」
このおっさん、まじか。
苦しんでる俺を見て笑いたいだけだろ。たまーに終わってること言うんだよな、このおっさん。
っていうか、魔法学校じゃなくてよかった。
ちっちゃいころにちょっと魔法を教えてもらったときですら、だいぶきつかったもんな。
なんか、魔力で精霊に語りかけてあーだこーだ。
前世から授業ってそんなに好きじゃなかったし。
騎士学校では、実技が多いことを祈ろう。
親父殿の優秀な遺伝子を継いだ俺なら、無双も夢じゃないはず。
……あ、でも才能ないとか言われてたな。
ガチでへこむわ。やめてくれよ、ジジィ。
(ジジィと呼ぶんじゃない)
マジで暇なんだろうな、師匠。
でも、少なくとも一か月はそっちに行けないからな。ドンマイ師匠。
「お、向こうに熊いるね」
ガルさんが指さした先で、のっそりと黒い影が動いた。
「あれとタイマンなら、問題ないんじゃない?」




