第34話 一階層
「アンナさん、すごい綺麗な人でしたね」
「そうだね。あんなに綺麗だと、逆にちょっとビビるよね」
「わかります」
いや、わかりますってなんだ。十歳の言うことじゃないな。
ダンジョンの入り口で受付を済ませると、係の人が小さな札を差し出してきた。
「こちら、認識票になります」
「ありがとう。よし、行こうか」
「その認識票って、何に使うんですか?」
「人数の確認に使うね。あと、失踪とかしたときに、冒険者ギルドか魔術協会に報告を入れられるようにするためだね」
「なるほど。じゃあ、なくしたら大変ですね」
「いや、これはなくしても会員証と紐づけされてるから問題ないよ」
「おぉ、ありがたいですね」
「だね。会員証のほうをなくすと、結構大変なんだよね」
「会員証……さっきアンナさんに見せてたのが、会員証ですか?」
「これのことかい? これは会員証じゃないんだけど……」
ガルさんはコートの内側から、チェーンにつながったゴツめのペンダントを取り出して見せてくれた。
王冠をつかんだ鷲と、剣と、杖が描かれている。
「結構派手なんですね」
「そうだね。これの歴史は浅いからね」
「そうなんですか?」
「うん。この宮廷魔導士勲章は、デッドアロンが作ったものだからね。まだ五、六年しか経ってないよ」
デッドアロン。
昨日、食堂のお兄さんが言ってた、偽名の現会長か。
「へぇ。なんで作ったんですか?」
「さぁ? 権威を誇るためとかじゃない?」
興味なさそうだな、この人。
そんな話をしながら階段を上ること数分。出口が見えてきた。
上りきると、そこには森が広がっていた。
「森……ですね……」
「うん。一階層は森だね」
ダンジョンって、洞窟とかじゃないの?
階段を上ったら森って、どういう作りしてんだ。
「ちなみに、最速で七階層まで進むのと、じっくり七階層まで進むの、どっちがいい?」
「どうせなら、じっくり探検しましょう」
せっかくの初ダンジョンだ。素通りはもったいない。
「そうだね。じゃあ、まずどっちに行く?」
「じゃあ、こっちで」
左を指さして、そっちに向かって進む。
「これ、地図とかに書かなくていいんですか?」
「魔力で印をつけてるから大丈夫だよ」
「遠くに離れてもわかるんですか?」
「込めた魔力量によるけど、このダンジョンの同じ階層内くらいなら網羅できるね」
「階層が違うと厳しいですか?」
「いや、なんか、魔力を感じなくなるんだよね。どういう仕組みかはわかんないんだけど、これは全部のダンジョンで共通なんだよ」
「へー。まぁ、僕にはあんまり関係ない話ですね」
魔力で印をつけるほどの魔力が、そもそもないからな。
「あ、向こうに魔物いますね」
進む先に、犬型の魔物が数匹、群れでいた。
正直、犬型とか猫型の魔物を倒すのは気が引けるんだよな。まだ盗賊とかを相手にするほうが気分がいい。
「んー、あのくらいなら一人で処理できそうだけどな。どう?」
「どうと言われましても……やばくなったら手を貸してくださいね」
身体強化をかける。
まぁ、俺の魔力だとたかが知れてるけど。
一気に距離を詰めて、一匹に狙いを定めて斬り上げた。
外れた。
魔犬は匂いで気づいていたらしく、ひょいと横に避けられる。
魔犬は四匹。低く唸りながら俺を取り囲むように広がった。
「えぇ、これ一人でやんのぉ?」
愚痴ってもしょうがない。
剣をしっかり構え直す。
左の一匹に向かって突っ込み、剣を振り下ろした。
魔犬が後ろに跳んで避ける。
間髪入れずに距離を詰めて、胸を真横に斬り裂いた。
キャインッ。
甲高い鳴き声。
それに混じって、背後でザッと土を蹴る音がした。
考えるより先に、前へ倒れ込むように転がる。
後ろから飛びついてきた一匹が、俺の上を飛び越えていった。
起き上がりかけたところへ、三匹目が飛び込んでくる。
切っ先を向ける。
そのまま、貫いた。
よし。
と思った、その瞬間。
視界の端で、四匹目が地面を蹴っていた。
明らかに、間に合わないタイミングだった。
あ、これ無理だ。




