第33話 五万
ガルさんの家を出て、歩くこと数時間。
ダンジョンが見えてきた。
「ここのダンジョン、攻略したことあるんですか?」
「いや、ないね。上のほうに行くと普通にきつくなるし、僕にはあんまりうまみがないから」
「何階層まであるんですか?」
「いくつだったかな? 十……二? 三? とか、そこらへんだったはず。これから行くのは七階層だね」
「ダンジョンの中って、どんな感じなんですか?」
「どんな感じと言われてもなぁ。中に入って自分で見たほうが早いかな」
「たしかに」
「そういえば、その剣は中で使うのあんまりよくないから、僕が持って帰っておくよ」
「あ、はい。ちなみに、なんでですか?」
「あれ、説明してなかったか。その剣、魔力を吸う素材で作られてるんだよね。今朝、疲れが取れないって言ってたでしょ。あれはこの剣のせいだよ」
「おぉ! そんな能力が!」
「うん。しかもこの剣、ため込んだ魔力を引き出せるっていう機能付き」
「おぉ! どうやってやるんですか?」
「今は無理かな。もっと容量を増やして、魔力の制御もうまくできるようにならないとね」
「そんなぁ」
「まぁ、そもそもかなり重い出来になってるから、今はたぶん振るのもきついんじゃないかな」
「はい。これ、超重いです」
昨日の夜、身をもって知った。
「っていうか、ガルさん、めっちゃ軽々持ち上げてませんでした?」
「身体強化かけまくってるからね」
「魔力、足りるんですか?」
「ははは、それは僕を見くびりすぎだなぁ。見えないかもしれないけど、僕、宮廷魔導士だからね」
「え、魔力量ってどのくらいなんですか?」
「どのくらいって言われてもなぁ。あぁ、入学試験で水晶使った?」
「はい。四十だったかな」
「四十!?」
ガルさんの声がひっくり返った。
そんなに?
「……あぁでも、ゴネリルの息子ならそのくらいでも不思議じゃないか。あいつ、今でも三百くらいしかないらしいからな。まぁ、それはいいや」
いいんだ。
「あの水晶だと、高すぎる魔力は計れないからね。ゴネリルが言ってた値になるんだけど、僕は五万くらいらしい」
「五万!?」
……って、よくわかんないな。
「えーっとね、魔術協会のS級魔術師の平均が、一万くらいってゴネリルは言ってたかな」
「おぉ! すごそう!」
「でしょ? それに制御力もかなり高いから、この剣を軽々持つくらいわけないのよ。お、着いた」
五万かぁ。
わかんないなぁ。そもそもS級魔術師がどのくらいなのかがわかんないし。
なんかすごい、ってことしかわかんない。でもまぁ、相当すごいんだろうな。
俺の千二百五十倍か。
……計算しなきゃよかった。
っていうか、親父殿って三百なのか。
その程度しかなくて、この国最強の騎士なのか。なんか目がすごいらしいけど、どうすごいのかはよく知らない。
今度、聞いてみるか。
◇
「今日も騎士団が来てるな。あれは……二番隊か? 二番隊に知り合いいないから、気まずいんだよな。こっそり行っちゃおうか」
「はい。ところで、何番隊かってどうやって見分けるんですか?」
「見えるかな? 服とか鎧のどこかに紋章がついてて、その紋章に描かれてる星の数で隊がわかるようになってるんだよ」
「あー、たしかに星が二つあるように見えますね。なんでダンジョンのまわりにいるんでしょうか?」
「グレンゴルドの調査だろうね」
ガルさんは、声を落とした。
「トルタヤの住民には適当言ってごまかしてたけど、グレンゴルドは守護竜なんかじゃなくて大罪人だ。しかも今は手傷を負ってる。叩くなら今が好機だ」
「それで二番隊が」
「調査と討伐にね。それに、奴は近衛騎士団の一人を殺した。近衛からも討伐隊が出るかもしれない」
「……はい」
「となると、俺も事情聴取を受けることになるのか。めんどくさいけど、後回しにしてもしょうがないしな」
ガルさんは頭をがしがしとかいた。
「ごめん、やっぱこっそり行くのなしで」
「はい」
そう言うと、ガルさんは地面をのぞき込んで話し込んでいる騎士たちのほうへ歩いていった。
あの人たち、地面のぞき込んで何やってんだ?
っていうか、珍しいことに女性の騎士が一人いるな。女騎士ってやつを見るの、初めてだ。
なんで全然いないんだろうな。個人的には、もっと増えてもいいと思うんだが。
あとで聞くことメモに追加しとくか。これで二つ目だな。
「すまない、少しいいかな?」
「はい、どうしましたか?」
「私は宮廷魔導士をやってるガルドゥルというものなんだが、今回のことで聴取があるだろうと思ってな」
「そういうことでしたか。こちらから出向くべきところを申し訳ない。私は帝国騎士団二番隊副長、アンナ・李下・プローマです」
「李下……西の小国群の生まれかい?」
「いえ、生まれも育ちもネクタルですが、母が鵬翔の人間でして」
「あぁ、なるほど。で、聴取はどうする?」
「ゴネリル殿からは、こちらに戻ったときでいい、と」
「遠回しに帰ってこいって言われてるよね、それ」
「はい。おそらく」
「わかった。これから一か月くらいはダンジョンに用事があるから、帰れそうにないと伝えておいてくれ」
「はい。二階層の小部屋は調査があるので使えませんが、問題ないでしょうか?」
「問題ない。用事があるのは七階層だからな。あぁ、そうだ。この子がゴネリルの息子の、ユージーン君だ」
「はじめまして、ユージーン・アンブロシアです」
「はじめまして、ユージーン君。アンナ・李下・プローマです。タークィンの野郎に手傷を負わせたと聞きました。お父上に似て、お強いのですね」
「いえ、そんなことは」
「ユージーン君、行こうか。では、アンナ殿、また」
「はい。お気をつけて」
タークィンの野郎。
この人、顔に似合わず口が悪いな。




