第31話 宮廷魔導士
部屋のドアが、どんどんと強く叩かれた。
「夕食の時間だよ! 起きてるかい?」
「今行きます」
そんなに叫ばなくても聞こえてるっての。
さて、食堂に行くか。
それにしても、ガルさん帰ってくるの遅いな。
っていうか、ガルさんの家ってこの近くにあるんだよな。なんでわざわざ町まで下りてきたんだ?
エミリアさんもどっか行っちゃったし。おかみさんの話だと、守護竜がどうとか騎士が説明してたらしいから、そのへんの確認でもしてるのかもな。
食堂に入ると、今日のメニューが貼り出されていた。
鶏肉と野菜をいい感じに炒めたやつか、牛肉をいい感じに切って焼いたやつ。
昨日は牛ひき肉をいい感じにしたやつだったし、今日は鶏肉にしとくか。
「鶏肉のほうでお願いします」
「はいよ。あのおじさん、まだ帰ってこないね」
厨房のお兄さんが、フライパンを振りながら言った。
「そうですね。まぁ、宮廷魔導士だって話なので、無事だとは思うんですけど」
「へぇ、あのおじさん宮廷魔導士なんだ。そいつはすごいね」
「それが、どのくらいすごいのかよくわかってないんですよね」
「そうか。じゃあ、元魔術師のこのお兄さんが教えてあげよう」
「元魔術師なんですか」
「昔ちょっとね。宮廷魔導士っていうのは、この国に五人しかいない、国から認定をもらった魔術師たちのことさ。功績がないと認定はもらえない。まぁ、宮廷魔導士だからって義務とかはないみたいだけどね」
「全員の名前と顔って覚えてます?」
「顔は会ったことないからなぁ。ガルドゥル殿と、もう一人はわかる。名前のほうは全員大丈夫だよ。認定された功績もね」
「教えてもらってもいいですか?」
「まだ仕事が残ってるから、今すぐはちょっとな。そこらへんの空いてる席で食べててよ。食べ終わるころには暇になってると思うから。ほら、バン鳥とレスタの炒め物だよ」
「ありがとうございます」
あのおじ……お兄さん、元魔術師なのか。
そういや、魔法使いと魔術師と魔導士の違いもいまいちわかってないんだよな。
じ……師匠、知ってる?
(魔法使いは、魔法学校を卒業した者全員に与えられる称号じゃ。そこから魔術協会に所属した者を魔術師と呼ぶ。魔導士は、魔法使いの中でも特に優れた技量を持つ者のことじゃ)
お、答えてくれた。ありがとう師匠。
魔術協会なんてのもあるのか。まぁ、俺にはあんまり関係ないか。
ん、この鶏肉うまいな。バン鳥とか言ってたっけ。
この世界の食べ物って、和洋中が入り乱れてるんだよな。よくある話だと、転生者が広めたとかだけど、ここもそうなんだろうか。
俺以外の転生者の話って聞いたことないんだよな。俺がいるってことは、ほかにもいそうなもんだけど。
まぁ、そうポンポン転生されても困るだろうし、よその国に転生してることだってあるか。
「お、まだ食べ終わってなかったか。宮廷魔導士の話、始めてもいいかい?」
「ん、んぐ。ふぅ……大丈夫です」
「食べながらでいいからね。さて、誰から話そうか。歳の順にいこうかな」
「お願いします」
「まずは最年長のオズワルド・フランクボム。ヴォルフガング戦争を戦った魔女で、そこでの戦果で宮廷魔導士に認定されてる。今は何歳だったかな。たぶん九十とかそこらだ」
「九十」
「魔術協会の前会長でね。任期が一番長かったはずだよ。“殲滅の魔女”なんて呼ばれてて、一人でヴォルフガング軍の二割を倒したって伝説がある。まぁ、作り話だとは思うけどね」
「ふむふむ」
「次が……あ、こっちが一個前の会長だ。ベオウルフ・デネ・ヘオロット。だからオズワルドは二個前の会長だね」
「ややこしいですね」
「ごめんごめん。僕はこのベオウルフ殿が好きでね、会ったこともあるんだ。イェータランドって街に竜が現れたとき、一人で討伐して街を守ったんだよ。それでイェータランドは、ヘオロットって名前に変わった」
「街の名前ごと変わったんですか」
「そう。何がすごいって、今七十四歳なんだけど、竜を倒したのは十二年前。六十二歳のときなんだ。すごくない? 六十二で竜と戦うなんて、僕には無理だよ。絵本にもなってるんだけど、読んだことないかい?」
「うっすら記憶にありますね。でも、その二人、長生きすぎません?」
「お、いいところに目をつけたね。魔力が高いほど、体の劣化が遅くなる傾向があるんだ。まぁ体質とかも関係するから、魔力が多ければ絶対長生きってわけじゃないらしいけど」
「へぇ」
「これを見つけたのが、三人目のウォルター・ネーゲリ。この発見で宮廷魔導士に認定された。僕は研究をやってたわけじゃないから、仕組みはさっぱりなんだけどね」
「なるほど」
「で、次が現会長のデッドアロン・レッドバロン。この人はよくわかんなくてね、なぜか偽名なんだよ」
「偽名で宮廷魔導士になれるんですか?」
「皇帝陛下の友人だから許されてるんだ。宮廷魔導士になった理由は、確認されてる限り唯一の、竜を従属させた魔術師だから。会長になったのも有能だからって理由で、どういう人間なのかはよくわかってない」
「そんな魔導士もいるんですね」
「めちゃくちゃレアだけどね。普通なら許されないことでも、実力と皇帝のお墨付きがあるから通っちゃう。で、最後がガルドゥル・リーフィス殿だね。この方は……」
お兄さんが言いかけたところで、後ろから声がかかった。
「僕の話は、自分でするよ」
振り向くと、ガルさんが立っていた。
「あ、おかえりなさい」
「ただいま、ユージーン」
「ガ、ガルドゥル殿! いきなりで申し訳ないのですが、サインをいただいてもよろしいですか?」
「すまないね、書かないことにしてるんだ」
ガルさんはお兄さんに軽く手を上げてから、俺のほうを向いた。
「ユージーン、部屋に戻ろう。話がある」
「はい」




