↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/40

第29話 負け犬

 目を開けると、見慣れたまっしろな空間だった。


 ジジィは腕を組んで立っていた。



「よぉ、ジジィ」


「よぉ、負け犬」


「ま、負け!? ……まぁ、そうか」


「何しに来たんじゃ?」


「いや、俺が寝てる間に何があったのか聞こうと思って」


「どうせ戻ってくるんじゃから、本人に聞けよ」


「……なんか怒ってる?」


「そりゃ怒るじゃろ。自分の弟子があんなふがいない真似したんじゃから」



 ジジィ、バチ切れじゃん。


 いや、でも頑張ったほうだと思うんだけどなぁ。あのグレンゴルド相手に、そこそこやれてたと思うし。


 しかも縛りつきだったんだぜ? だいぶやったほうだろ。


 とりあえず謝っとくか。



「すんません」


「とりあえずで謝るな。ここにいる間は全部聞こえとるからの」


「あ、そうだった」


「まぁ、それはいいんじゃ。とにもかくにも、あと三時間みっちり鍛えるぞ」


「うっす」


「まず、才能のない者が才能にあふれる者に勝つには、どうすればいいと思う?」


「それ、暗に才能ないって言ってる?」


「ないじゃろ、おぬし」


「そこは嘘でもあるって言ってくれよ」


「いや、ないのぉ。まるでない。そもそも初見狩りを多用しとる時点で、才能がないんじゃ」


「それ、グレンゴルドにも言われた気がする」


「いいか、ユージーン。こっちに来るスキルを戦闘に流用するなら、確実に仕留められるときだけ使うんじゃ」


「はーい」



 スキル、ねぇ。


 そういや、こっちの世界のスキルってどういう扱いなんだろ。



「なぁ、スキルってなんなの? こっちの人ってみんな持ってんの?」


「みんなではないのぉ。こっちでは、スキルは神の恩寵ということになっとる」


「恩寵って、ありがたがる感じのやつ?」


「神から与えられるもの、ってことじゃな。手に入るかどうかは完全に運任せ。親から受け継ぐもんでもなくて、育つうちに勝手に出てくるもんじゃ」


「へぇ。じゃあ俺のも、分類上はスキルなんだ」


「うむ。ただ、おぬしのはマジでわしらが直接くれてやったもんじゃからな。そこはほかと違う」


「どう違うの?」


「ほかのは、どっちかというと才能に近いのぉ。わしらも別に、与えようと思って与えとるわけじゃない」


「恩寵なのに?」


「そういうことになっとる、というだけじゃ」


「ふーん」


「あと、受け継げる特殊能力もあるにはある。ただ、継承の条件が厳しかったり限定的すぎたりするんで、スキルとは別の括りにされとる。そっちはアビリティと呼ばれとるの」


「スキルとアビリティね。覚えとく」


「話がそれたの。で、どうすれば天才たちに勝てる?」



 えー、なんだろう。



「弱点を突くとか?」


「天才は弱点なんぞ見せてくれんぞ。おぬし、グレンゴルドの弱点はわかったか?」


「いや、まったく」


「の? ただ、弱点を突くというのは正解じゃ。じゃあ、弱点が見えん相手の弱点を突くにはどうする?」


「うーん……弱点を作る、とか?」


「そうじゃの。なければ作ればいい。では、どうやって作る?」


「天才相手に弱点なんか作れなくね?」


「ふむ。そもそも弱点とはなんじゃ?」


「え? 弱点……弱いところ?」


「まんまじゃな。要はそうなんじゃが、わしは鍛えていないところじゃと思っとる」


「鍛えなくても強いところもあるくない?」


「あるにはあるが、そういうところは窮地で裏切るもんじゃ。それに天才どもは、鍛えんでも強い部分こそ尖らせてくるからの」


「あー、なるほど」


「いいか。戦闘における鍛えていないところとは、意識の隙と思考の隙のことじゃ」


「意識の隙と、思考の隙?」


「まず意識の隙。これは、知覚や認識ができていない部分のことじゃ。【虚実】や【影音】がそこを突く技じゃの。そもそも相手が意識しとらん場所を突く」


「ほう」


「次に思考の隙。これは、経験や知識で“ありえない”と切り捨てとる可能性の部分じゃ。こっちは【空踏】や【地割】じゃな」


「地割?」


「軍法会議の模擬戦で、地面を踏み割ったじゃろ。あれが【地割】じゃ」


「あれ、名前あったんだ」


「空中を踏めるわけがないと知っとるから、急に地面が割れるわけがないと知っとるから、技が決まりやすくなる」


「あー、もう教えてもらってたのね」


「うむ。ただ、どれもバリエーションに乏しいうえに、対策されたら一気に効き目が落ちる。それに本物の天才は、初見で対策してくる」


「ダメじゃん」


「そう、ダメなんじゃよ。じゃから対策できなくしたいのぉ?」


「そうだね」


「ならどうする?」


「うーん……隙をもっと作るとか?」


「そうじゃの。隙をもっと作る。そのために要るのが、ブラフ、フェイント、盤外戦術じゃ。おぬしにはこれを極めてもらう」


「えー、かっこ悪くない? もっとこう、かっこいいのがいいんだけど」


「おぬしが選べる立場か。それにブラフなんぞ、強いやつらはみんな息をするように使っとるぞ」


「そうか?」


「グレンゴルドを思い出してみよ。おぬしに見えんように剣を持ち換えて、思考の隙を突いてきたじゃろ。あれもブラフじゃが、超かっこよくないか?」


「……正直かっこいいね、あれ」


「じゃろ? 嘘じゃろうがブラフじゃろうが、使いようでいくらでもかっこよくなるんじゃ」


「なるほど。で、具体的にはどう鍛えんの?」


「まずは目の運び方じゃな。次に体の使い方。強いやつほど、相手の眼をよく見るからの」


「目の運び方?」


「目でフェイントをかけるんじゃ。まぁ、やったほうが早いの」



 ジジィはどこからか剣を二本取り出して、一本を俺に放ってきた。



「打ち込むから構えるんじゃ」


「うっす」



 剣を中段に構える。


 ジジィは上下左右に散らして打ち込んでくる。本気じゃないらしく、軽く受けるだけでどうにかなった。


 何合目かで、ジジィの目が俺の右足に落ちた。


 反射的に、そっちに剣を下ろす。


 気づいたら、左の首元に剣がぴたりと当てられていた。



「ざっとこんな感じじゃ」


「まじか……なんか釣られた」


「コンマ数秒で斬り合っとる最中じゃ、天才といえどブラフだと見抜けんからの」


「へぇ」


「たまに見抜く化け物もおるが」


「おるんかい」


「そんなやつとは、戦わんのが正解じゃの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。