第28話 守護竜
トルタヤの大通りは、まだざわついていた。
ガルドゥルとケイが、ユージーンを連れて門をくぐってから、少し経ったころだ。
「何か騒がしいようだが、どうしたんだ?」
ケイが、通りがかった町の男に声をかけた。
男は、騎士の鎧を見てほっとした顔をする。
「あぁ、これは騎士様。森のほうから爆発の音がして、竜が顔をのぞかせておったので、みんな騒いでおるのですよ」
「……そうか」
「騎士様、あの竜は何なのでしょうか?」
ケイは、一瞬だけ言葉に詰まった。
ガルドゥルは、何も言わずにケイの横顔を見ていた。
「あの竜は……レンドリアの守護竜だよ」
「守護竜?」
「人間は襲わないから、気にするな。ただ、少し気が立っているようだから、今日は森には入らないほうがいい。みんなにも伝えておいてくれ」
「守護竜ですか。森の奥に竜がいるって話は、本当だったんですねぇ。みんなに伝えてまいります」
男は、礼を言って走っていった。
うまい嘘だ、とガルドゥルは思った。
その背中を見送ってから、ケイが小さく息を吐く。
「では、ガルドゥル殿。私は首都へ戻ります。ユージーン君と、ダンジョン前の後始末をお願いします」
「あぁ、任された」
「では!」
ケイは馬を借りると、振り返りもせずに駆けていった。
ガルドゥルは頭をかいて、ケイから預かったユージーンを背負った。
◇
ユージーンを宿屋の部屋に寝かせてから、ガルドゥルは衛兵の詰所に向かった。
宿の受付のおばさんには、知り合いの子だから寝かせておいてくれ、五、六時間で戻る、とだけ伝えてある。
詰所では、けっこうな数の兵が慌ただしく支度をしていた。
何事かと思ったが、すぐに納得する。竜の姿が見えたからだ。
その竜が、さっきまで人の姿で剣を振ってたなんて、誰も思わないだろう。
「あぁ、ちょっといいかな? 俺は宮廷魔導士の一人で、ガルドゥルという。これ、証ね」
「は、はい!」
「ダンジョンの前でごたごたがあってな。片づけを手伝ってもらえないか?」
「了解しました。ちなみに、ごたごたとは?」
「見てもらえばわかる。そうだな、そこの袋とシャベルを持っていこうか。五、六人ついてきてくれ」
「あの、竜はどんな……」
「でかかったな」
「は、はぁ」
兵士の一人が、言われた袋を手に取って、顔をこわばらせた。
人が一人入りそうな大きさだ。
「この袋……死人が出たのですか?」
「あぁ。とりあえず、来てくれ」
◇
知らない天井だ。
……一回言ってみたかったんだよな、これ。
……いや、知ってるな、この天井。
体を起こす。首がちょっと痛い。そういや、首をつかまれたんだっけ。
狭い部屋に、ベッドと小さい机。窓の外が、オレンジ色になっている。
ベッドの横に、俺の剣が立てかけてあった。
ここ、レンドリアに行く前に泊まった、トルタヤの宿屋じゃないか?
なんで、こんなところに。
たしか、グレンゴルドにボコられて……そこから先が、まったく思い出せない。
エミリアさんが連れてきてくれたのかな?
とりあえず、受付のおばちゃんのところに行って話を聞くか。
「おはようございます」
「おはようって、もう夕方だよ」
あ、一日は経ってないのか。
よかった。三日くらい寝てましたとか言われたら、どうしようかと思った。
「起きたらここにいたんですけど、誰が連れてきてくれたかわかりますか?」
「名前は忘れたけど、なんか魔法使いだとか言ってたねぇ。おっさんだったよ」
「おっさんの魔法使い……ガルさんかな。ガルドゥルって名乗ってませんでした?」
「なんか、そんな名前だった気もするね。そういえば、帰ってくるのは五、六時間後って言ってたよ」
「あぁ、そうでしたか。じゃあ、部屋で待ってます」
「それがいいわね。夕食の時間になったら呼びに行くから」
「はい。ありがとうございます」
「そういえば、レンドリアの守護竜が見つかったんだってね」
「守護竜、ですか?」
「そうそう。あんたは寝てたから知らないだろうけど、レンドリアの森に竜の姿が見えてね。騎士さんが言うには、守護竜らしいのよ」
「へー。僕が寝てる間に、そんな面白そうなことが」
「うわさでは聞いたことあったけど、本当にいるんだねぇ」
「そうですね。僕もうわさでしか聞いたことなかったです。じゃあ、部屋に戻ってますね」
部屋に戻って、ベッドにごろんと転がる。
守護竜ねぇ。
そういや、レンドリアに行く途中で、エミリアさんがそんな話をしてたな。
あのときは、魔物の王がどうとか言ってたけど。本当にいたんだな。
で、そのエミリアさんはどうしたんだろう。
騎士が守護竜だって言ってたらしいから、ガルさんと調査にでも行ってるのかな。
それと、グレンゴルド。
あいつは、どうなったんだ?
ダンジョンから戻ってきた三人と、鉢合わせしたのかな。
……まぁ、大丈夫か。
どんなにグレンゴルドが強いっていったって、三人がかりなら、そうそう負けないだろ。
わかんないことだらけだ。
ガルさんが帰ってくるまで、まだ何時間もある。
腹も減ったけど、夕食まではまだ間がある。どうせ暇だ。
夕食まで、ただ天井を眺めてるのもなんだしな。
……よし。
ジジィのところに行って、話を聞いてくるか。




