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第24話 人間じゃない

「なァ、どッちだと思う?」



 グレンゴルドが、笑いながら聞いてくる。


 ケイもエミリアも、それには答えなかった。


 目だけはグレンゴルドに据えたまま、二人で言葉を交わす。


 問いかけに乗れば向こうのペースになると、二人ともわかっていた。



「少し、勘が良すぎる気がしますね」


「近衛にも、ああいうタイプがいるだろ? あいつと同じ感じがする」


「いますね。純粋な強さで殴ってくる人。では、スキルではないと?」


「そうだな。だが油断はするなよ。スキル持ちじゃないと決まったわけじゃない」


「おい、無視すんなよ。せっかく聞いてやッてんのによ」



 グレンゴルドが、不満そうに口をとがらせた。


 盗賊団の頭領がやる顔ではない。


 それが、エミリアにはかえって不気味だった。


 地面に転がったままのユージーンを、横目で見る。


 あの子は、こんなのとやり合っていたのか。よく生きててくれた、ユージーン君。


 ケイが、ちらりと後ろに目をやる。


 ガルドゥルは少し離れたところに立ったまま、口の中で何かを唱え続けていた。


 何を仕込んでいるのかは、ケイにもわからない。ただ、邪魔をさせるわけにはいかない。



「ガルドゥル殿は……仕込み中っぽいな」


「そうですね。引き続き、こっちに引きつけましょう」


「そんなに無視すんならさァ、こっちから行くぜ?」



 グレンゴルドの姿が、目の前から消えた。


 次の瞬間、左から、ダンッと地面を踏みしめる音。


 エミリアが振り向いたときには、グレンゴルドはもう突きを放つ寸前だった。


 速い。


 剣を間に挟む余裕すらない。


 エミリアは、受ける覚悟を決めた。


 せめて、急所だけは外す。腕一本くらいなら、くれてやる。



「エルドゴス!」



 ガルドゥルの声が響いた。


 グレンゴルドの足元の地面から、炎が勢いよく噴き上がる。


 地面の焦げる匂いが、あたりに広がった。


 エミリアの鼻先を、熱風がかすめた。



「あぶねぇなァ、おい」



 炎が収まったとき、グレンゴルドは少し離れた場所に立っていた。


 コートの裾が、わずかに焦げている。それだけだ。


 あの距離で、かわした。エミリアは目を疑った。


 そこへ、蒼い炎でできた小鳥が一羽、まっすぐ飛んでいく。


 グレンゴルドは、それを難なく斬り捨てた。


 斬った瞬間、グレンゴルドはその場から飛びのいた。


 一拍遅れて、二つになった小鳥が爆発する。



「さすがァ、宮廷魔導士様。油断する隙すらないねぇ」


「……今の、斬ると同時に跳んでましたね」


「あぁ。爆発するって、わかってた動きだ」



 爆風の向こうで、グレンゴルドが笑っている。


 ガルドゥルは笑わないまま、一歩前に出た。



「お前、見(・)え(・)て(・)る(・)な?」


「どうだろうねェ」



 グレンゴルドは、はぐらかすように肩をすくめる。


 ガルドゥルは小さく息を吐いて、前の二人に声をかけた。



「悪いが、俺の魔法は役に立ちそうにない」


「この時代に、二人目ですか?」



 エミリアが、グレンゴルドから目を離さずに聞いた。



「それは、人(・)間(・)な(・)ら(・)だろ?」


「え?」


「人間じゃない……?」



 ケイが、思わず聞き返した。


 エミリアとケイが、同時にガルドゥルを見た。


 その一言に反応したのは、二人だけではなかった。



「おいおい、気づいてんのかよ。宮廷魔導士、やべェな」



 グレンゴルドが、目を丸くしている。



「いや、お前が何なのかはわかってないよ。ただ、人間じゃないってことだけはな」


「そうかァ」



 グレンゴルドは、少しだけ考えるそぶりを見せた。


 それから、楽しそうに、にやりと笑う。


 グレンゴルドは、剣を下ろした。


 ほんの数秒、誰も動かなかった。



「なら、見せてやろう」



 グレンゴルドの翠色の目が、赤く光り始めた。


 骨のきしむような音がした。


 肘から先と膝から下が、黒い竜のものへと変わっていく。


 袖とズボンの裾が、内側から裂けて落ちた。


 人の肌が、重い鱗に覆われていく。指の先からは、黒い爪が伸びた。


 こめかみから、金の竜角が突き出す。


 背中のコートを破って、金の翼が広がった。


 エミリアは、気づけば一歩下がっていた。


 握った剣の柄が、汗で滑る。


 ケイが、横目でガルドゥルを見た。ガルドゥルは、変わっていくグレンゴルドから目を離さない。



「……冗談だろ」


「竜……?」



 赤い目が、三人をゆっくりとなぞった。



「こんなとこかなァ」



 具合を確かめるように竜の指を握ったり開いたりしてから、グレンゴルドは剣を片手でもてあそんだ。



「正直、剣はあんまり得意じャァないんだよねェ」



 竜の体になじませるように、背中を伸ばす。


 金の翼が、ばさりと一度だけ羽ばたく。



「さァて、第二ラウンドと行こうか?」



 返事をする者はいなかった。


 ガルドゥルが、目を離さないまま口を開く。



「ケイ。あれを、どう見る?」


「竜の一種、ですかね? ただ、人間の形をとる竜なんて、聞いたことがないですが」


「姿を変える竜なら、たしかいましたよね?」


「イズメニャトか? あいつは姿を変えるっていうより、色を変えるだけだったろ」


「では、あれは……」



 誰も答えられなかった。


 三人が言葉を交わす間、グレンゴルドはじっと待っていた。


 待って、待って、それから。


 額に、青筋が浮いた。



「さっきから無視してんじゃねェよッ」



 竜の脚が、地面をえぐった。


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