第23話 本命
ユージーンを地面に下ろして、グレンゴルドはタークィンに向き直った。
「タークィン。この坊主、騎士と一緒にダンジョンに来たとか言ってたんだけどよ。予定では、来るのはケイ一人だッたはずだよなァ?」
「そうですね。来たのは“近衛騎士団の新入り”エミリア・レンブランと、“宮廷魔導士”ガルドゥル・リーフィスです」
「エミリアはともかく、ガルドゥルとやらはやばそうだなァ」
「いえ、むしろ警戒すべきはエミリアのほうかもしれません。去年の学生大会の優勝者です」
「ほう」
「一方で、ガルドゥルのほうは王城にいた記録がなく、戦争に出た記録もありません。おそらく、研究者としての素質を買われて宮廷魔導士になったのかと」
「……戦争に出た記録がない、か」
グレンゴルドは、顎に手をやった。
しばらく黙ってから、あっさりと言う。
「計画は中止にしたほうがいいかもなァ。タークィン、坊主を回収してずらかるぞ」
「なぜです? 私がケイを引きつければ、相手にもならないでしょう?」
「戦争に出ないってのはな、ただ戦闘向きじャねぇってだけじゃない時があんだよ。とにかく回収しろ」
タークィンは不満そうな顔のまま、気を失ったユージーンを肩に担ぎ上げた。
ちょうどその瞬間、三人がダンジョンから駆け戻ってきた。
「タークィン! 何をしている!」
ケイの怒鳴り声が響く。
ダンジョンの前には、斬り倒された騎士たちが転がっていた。三番隊の、ケイの部下たちだ。
ケイの顔から、表情が消えた。
「タークィン、坊主を置いて走れ。今お前が捕まるのはまずいからな。合流はいつもの場所でな」
タークィンは舌打ちして、ユージーンを地面に放り出して駆け出した。
「待て!」
「ケイ! 追うな!」
今にも飛び出しそうなケイを、ガルドゥルが腕一本で止めた。
視線は、黒いコートの男から外さない。
「お前がグレンゴルドだな?」
「はじめましての挨拶はねぇのかァ?」
「お前には必要ねぇだろ。ユージーン君に何しやがった?」
「なに、ちょッと遊んでもらっただけだよ」
エミリアが、倒れているユージーンに目をやった。
胸が上下しているのを確かめて、剣の柄を握り直す。
「グレンゴルド。今のうちに、謝罪の言葉を考えておくといい。俺はエミリアやガルドゥル殿と違って、優しくないからな」
「必要ないでしょ。謝ることになるのは、お前らのほうだしさァ」
グレンゴルドが、腰から剣を抜いた。
その体から、覇気がぶわっと噴き出した。
「さすがは大盗賊だな。エミリア、ケイ。俺が身体強化をかけて援護する。接近戦は任せたぞ」
「はい!」
「お任せを!」
ガルドゥルの魔力が、二人の体に流れ込む。
先に斬り込んだのは、エミリアだった。
二合、三合と打ち合う。
そのうちに刃と刃が噛み合い、押し合いの力比べになった。
「見た目にそぐわず、力があるなァ」
「そいつはどうも」
軽口を返しながら、エミリアは奥歯を噛んだ。
身体強化込みで、五分。
気を抜いたら、押し切られる。
グレンゴルドが、手首を返した。
押し合いの形からくるりと刃を反転させ、エミリアの首元を横に薙ぐ。
エミリアは、読んでいた。
すとんと膝の力を抜いて、しゃがむ。
同時に、しゃがんだエミリアの頭上から、ケイの大剣がグレンゴルドの眼前に迫っていた。
グレンゴルドは反射で身を反らした。
大剣が鼻先をかすめて通り過ぎる。
振り抜いたケイの背中は、隙だらけだ。グレンゴルドはそれを追おうとして……
本能が、剣を背中に回させた。
ガキィン、と背後で金属がぶつかる音。
何かを、防いだ。
それが何かを確かめる暇もなく、反転したケイの大剣が正面から来る。
グレンゴルドは体を横に倒し、右手一本で大剣を弾いた。
ケイが舌打ちする。
「なんて馬鹿力だよ」
「こいつ、そこらの盗賊と一緒にしないほうがいいですね」
「騎士様のお褒めにあずかれるとはなァ。うれしくて心が震えるねぇ」
「適当なこと言いやがって」
今度は、ケイが前に出た。
大剣が、うなりを上げて何度も振るわれる。
どれもグレンゴルドに届かない。少し体をずらすだけで、全部空を切っていく。
「そんな大振り、当たるわけないでしょォ?」
上段からの振り下ろしを、グレンゴルドは半身を引いてかわした。
大剣を振り切ったケイの左脇腹が、がら空きになる。
そこへ、黒い剣が走った。
ガンッ。
鈍い音がした。
斬れていない。
剣が当たったケイの脇腹が、金属のような鈍い光を返していた。
グレンゴルドの目が、わずかに見開かれる。
だが、驚いている暇はなかった。
また、背筋がざわついた。
グレンゴルドは横に跳ぶ。
黒いコートの裾を、片刃の剣が後ろから貫いていた。
いつの間に回り込んだのか。エミリアだ。
「……そうかァ。お前ら、スキル持ちかァ」
「ケイ殿、申し訳ありません。しくじりました」
「いや。奴の勘が良すぎた、というだけだろう」
ケイは大剣を構え直したまま、グレンゴルドから目を離さずに言った。
脇腹の鈍い光が、すっと引いていく。
「それか、スキルで気づいたとかな」
その言葉に、グレンゴルドの口の端が上がった。




