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第22話 死合

 さすがに、もう時間稼ぎはできそうにない。


 二台目の装甲兵器とやらが降ってくるのを祈るわけにもいかないし。


 三人が戻ってくるのを期待してたけど、間に合わなかったか。


 エミリアさん、早く来てくれ。


 やるしかない。


 空踏と虚実はなし。ジジィとの約束だ。


 ってことは、残ってるのは普通の剣と、逃げ足だけ。……逃げ足って言うな。スキルだ。


 剣を中段に構える。


 グレンゴルドは剣を下げ、半身を引いた。剣を体の後ろに隠すような構えだ。


 これ、なんかのアニメで見たな。


 青い騎士がやってたやつ。


 あっちは剣そのものが見えないやつだったけど、こっちはただ体で隠してるだけだ。


 で、実際に向かい合って初めてわかった。


 これ、間合いが読めなくてクソうざい。


 剣の長さも、どこから来るかも見えない。うかつに斬り込めない。


 まぁ、そもそも斬り込む気がないから、噛み合ってないんだけど。


 にらみ合ったまま、一分、二分。


 汗が、こめかみを伝っていく。向こうは、汗ひとつかいてない。



「斬り込んで来ねぇのかァ?」


「斬り込めるわけないでしょ」


「そうか。なら、先手はもらうぞ」



 グレンゴルドが、剣を下げたまま間合いを詰めてきた。


 下段から、すくい上げるような一撃。


 腰を落として、剣で受ける。


 重い。


 タークィンの比じゃない。腕が肩から抜けるかと思った。


 勢いを殺しきれず、靴が地面をこすりながら後ろに滑っていく。


 かかとで、地面に線が二本引かれた。


 手のしびれが取れる前に、次が来た。


 上段からの振り下ろし。


 これは受けたら剣ごと折られる。


 後ろに跳んで、距離を取ろうとした。


 でも、グレンゴルドは剣を引きながらついてくる。


 突きの構えだ。


 距離を取るのはあきらめた。


 突きを見極めることに、全部集中する。


 グレンゴルドが、地面を強く踏みしめた。


 来る、と思った瞬間。


 本能が、全力でやばいと叫んだ。


 これは、受けたら死ぬやつだ。


 気づいたら、ジジィのところに跳んでいた。


 まっしろな空間に、ジジィの顔。


 何か言われる前に戻らないと。こっちでも時間は流れてる。


 ジジィが口を開くより先に戻る。


 戻りざまに不意打ちを、と思ったら、グレンゴルドはもう距離を取っていた。


 苦々しい顔で、こっちをにらんでいる。


 一回見ただけで、もう警戒されてる。


 タークィンのときと同じ手は、もう通じないってことか。


 なんだよ。ズル技なんだから、ズルさせてくれよ。


 グレンゴルドは剣を軽く一振りすると、切っ先を下に向けた。


 下段の構え。


 俺は中段に構え直して、相手を正面に見据える。


 じりじりと、グレンゴルドが近づいてくる。


 圧がすごい。


 一歩下がると、向こうも一歩詰めてくる。


 間合いから逃げようと、俺は少しずつ下がる。


 空気がぴんと張りつめたまま、何秒か。


 グレンゴルドが仕掛けた。


 爆発したのかと思うほどの踏み込み。


 一瞬で目の前にいる。


 二撃、三撃と、流れるように斬り込んでくる。


 どうにかこうにか剣を差し込んで、直撃だけは避ける。


 でも、防戦一方だ。


 受けるたびに、手の感覚がなくなっていく。


 上段からの袈裟斬り。


 頭の上から来るそれを、なんとか剣の腹で受け流す。


 グレンゴルドはすかさず、振り抜いた剣を返して下から切り上げてきた。


 燕返しかよ。


 佐々木小次郎か、お前は。


 しびれの残る腕を、気合で動かす。


 振り抜きに合わせて、防御を……


 振り抜かれた右手に、剣がなかった。


 え?


 剣、どこいった?


 呆然とする暇もなかった。


 下から来た何かに、腕ごと剣を跳ね上げられる。


 左手だ。いつの間にか、剣が左手に移ってる。


 がら空きになった顔面に、蹴りが飛んでくる。


 考えるより先に、ジジィのところへ跳んだ。


 息を整える。


 ジジィは珍しく黙ってた。せこいとも言わない。


 その顔を横目に、戻る。


 グレンゴルドが、いない。


 左にも、右にもいない。


 探そうと首を回した、その瞬間。


 後ろから、首をつかまれた。


 指が首に食い込む。息ができない。


 跳べなかった。気づいたときには、もうつかまれていた。



「そう初見殺しをポンポン使うもんじゃねぇよ」


「ァッ、カッ……」


「まァ、今日のところはお前の負けだわな。おとなしく寝ときな」



 足が、地面から浮いた。


 首にかかる力が、ぐっと強くなる。


 そこで、俺の意識は途切れた。





 ◇





 ぐったりした子どもを片手で吊り下げたまま、グレンゴルドは首をかしげた。


 さっきまで、消えたり現れたりを繰り返していた子どもだ。吊るしてみれば、ただの軽いガキだ。


 脇腹を押さえたタークィンが、足を引きずって寄ってくる。



「その小僧、どうしますか?」


「どうしたもんかなァ」


「スキル持ちは珍しいですし、奴隷にでもして売り払いますか?」


「うーむ、悩むなァ。弟子にでもするか?」


「そんな小僧より強いガキは、いくらでもいますよ?」


「そ(・)ん(・)な(・)小(・)僧(・)にやられた傷は、どうなのよ」


「……」


「お前は油断さえしなけりゃ、けっこういいんだけどなァ」


「返す言葉もないです」


「そりゃそうだろ。これで反論でもしようもんなら、お前のこと殺すぜェ?」



 タークィンは、深く頭を下げた。



「精進します」


「俺に追いつけるように、頑張れェ」


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