第20話 お披露目
ユージーンが消えた地面を、グレンゴルドは黙って見ていた。
「あの小僧、どこへ行った!」
タークィンが、剣を振り下ろした格好のまま怒鳴った。
剣の先には、何もない。グレンゴルドの目にも、坊主が消える瞬間は映らなかった。
「まァ、落ち着けよ。タークィン」
タークィンは舌打ちして、剣を握り直したまま周りを見回している。
グレンゴルドは、もう一度地面に目を落とした。
今のは何だ。
あの坊主、何の魔法を使った?
発動が速すぎて、魔力の動きが見えなかった。
魔力がカスみたいな量しかなかったから、油断して見落としたか。
いや、違うな。あれは、もっと理不尽なモノの感じがする。
「タークィン、警戒しとけよ。あの坊主、何をしでかすかわからんからな」
「あの小僧がゴネリルの息子だからって、買いかぶりすぎでは? 私ら二人を相手に、何かできるとは思えませんが」
「……それもそうだなァ」
口ではそう言いながら、グレンゴルドは内心で歯噛みした。
馬鹿が。油断しやがって。
騎士の息子とは聞いていたが、ゴネリルの息子だったのか。
なら、用心を重ねるに越したことはない。
さすがに、自分より強いとは思わない。だが、油断するとまずいタイプだ。
まずは、タークィンにやらせて様子を見るか。
◇
まっしろな空間で、俺はジジィに聞き返した。
「もう知ってるって?」
「うむ。知っておるというより、聞いておる、のほうが正しいがの」
「聞いて……あー、もしかして、グレンゴルドか?」
さっき、エミリアさんが盗賊に聞いてた名前だ。
ケイ殿が探してるっていう、盗賊の頭領。
「それは本人に聞くといい。それと、あいつには【空踏】と【虚実】は使うんじゃないぞ」
「虚実って……模擬戦で使った、魔法の刃のやつ?」
「うむ」
「え、なんでさ。あんだけやばいやつなら、使わないとまずいと思うんだけど」
「あんだけやばいやつじゃから、使わんほうがいいんじゃ。とにかく、死なんように守りに徹するんじゃな」
「えー、なんかおせっかいじゃない?」
「おぬしに今死なれると、わしとしても色々とまずいんじゃよ。ほれ、はよ行け。せっかくの実戦経験を積むチャンスじゃぞ」
「なんか言ってること矛盾してない!? 死ぬとまずいなら、ずっとここにいるのがいいと思うんだけど」
「こっちにも色々あるんじゃよ。それに、実戦経験が足りんと、後々どっかで死ぬしの」
「えー……」
色々ってなんだよ。神様の事情なんか知らんがな。
聞いても絶対教えてくれないやつだ、これ。
ジジィに背中を押されて、俺は戻った。
◇
ダンジョンの前。
二人は、少し離れたところで何か話していた。
今なら奇襲できるか?
いやいや、守りに徹しろって言われたばっかりだろ。奇襲とか論外だ。
いや、でも、やりたいよなぁ。
……ジジィのうるさそうな顔が浮かんだ。やっぱやめとこう。
あ、気づかれた。
「坊主ゥ、お前、スキル持ちだなァ?」
「あぁ、今のはスキルですか」
「スキルなんて、持ってませんよ」
やっべ。なんでバレたんだ?
一回見ただけで、気づいたのかよ。やっぱりこいつ、やばい。
下手に【虚実】とか見せたら、とんでもないことになるな、これ。
「とぼけなくていい。かくいう俺も、スキル持ちだからなァ」
「ボス!?」
「俺のは、別に隠さなきゃならんやつじャねぇからな。いいんだよ」
「どういうスキルなんですか?」
「ただで教えるわけにャいかねぇな」
「じゃあ、結構です」
「くはは、生意気なガキだなァ」
黒い人は、楽しそうに笑う。
笑ってるけど、目はずっと俺から離れない。
「十歳のガキに二人がかりッてのも、大人げねぇからな。タークィン、本気で相手してやれよ」
「こんなガキ、本気を出すまでもありませんよ」
カチンときた。
でも、守りに徹しろってジジィに言われたばっかりだ。
空踏も虚実もなし。普通の剣だけで、どうにかするしかない。
言うが早いか、タークィンが剣を抜いて突っ込んできた。
上段からの振り下ろし。
剣を斜めに構えて、刃を沿わせて受け流す。
そのまま、すれ違いざまに脇腹を狙う。
ガキン、と止められた。
いつの間に抜いたのか、タークィンの左手に短剣がある。読まれてたか。
いったん距離を取る。
タークィンが口を開いた。
「ゴネリルらしくない剣筋ですね」
「あなたのような俗物に語られるとは、父上の剣も落ちたものですね」
「……言ってくれるじゃないか」
タークィンが、剣を下段に構えた。
逆袈裟に振り上げてくる。
剣の腹で受け止めた。
でも、見た目に似合わない馬鹿力で、体ごと吹っ飛ばされる。
地面を転がって、体を起こす。
目の前に、タークィンの足が迫っていた。
蹴り上げ。
避けられない。
なので、一瞬だけジジィのところに行った。
「おぬし、せこいのぉ」
なんか言ってるジジィは無視して、すぐに戻る。
タークィンは、空振りした蹴りの勢いで体勢を崩していた。
黒い鎧の、腰のつなぎ目。
そこに隙間が見えた。
横に、裂く。
「ぐあぁぁ!!」
タークィンが、脇腹を押さえて膝をついた。
追い打ちはしない。すぐに飛びのいて、距離を取る。
さっきまで俺を見下ろしてた副隊長殿が、地面に膝をついている。
……ざまぁ。
言っとくけどジジィ、これも守りのうちだからな。




