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第19話 黒い人

 一方そのころ、俺はダンジョンの周りの森をのんびり散歩していた。


 この森、けっこう暗くていい感じだ。


 木の上をリスっぽいのが走っていく。小動物もけっこういるらしい。


 前世じゃ、こんな森に来ることなんてそうそうなかったからな。


 森林浴っていうのか? 前世でも行っときゃよかった。


 ぶらぶら歩いていたら、人に出くわした。


 黒い毛皮の外套を羽織った、ごつめの男の人だ。


 ……かっこいいな、この人。


 黒髪に黒いコート。腰の剣もちょっと大きめで、渋い。


 大人になったら、こういうの目指すか。


 まぁ、俺は明るめの茶髪だから、まったく同じ格好をしても雰囲気は変わると思うけど。


 目指すべきはマッツ・ミ〇ルセンだな。



「おう、坊主。迷子か?」


「いや、探索をしていただけです」


「そうか、迷子じゃねェんだな。そいつはよかった」


「はい」


「ところでだ、坊主。浪漫ッてのは、どこで感じると思う? 肚か? 心か? それとも頭か?」



 急に何なんだ。


 初対面の十歳に聞く質問じゃないだろ。


 まぁいいや、それっぽく答えとこう。



「魂でしょう。浪漫は魂の共鳴じゃないですか」


「くはは。よくわかってるじャねぇか」



 男の人は、楽しそうに笑った。


 当たりだったらしい。適当に言ったのに。



「坊主、もう一つ質問なんだがな。ダンジョンってのは、どっちだ?」


「こっちですね。案内しますよ」





 ◇





 名前も知らない黒い人を、ダンジョンまで案内する。


 黒い人は見た目に反して気さくで、道中もいろいろ話しかけてくれた。



「坊主は、騎士とか好きか?」


「まぁ、そうですね。父親が騎士なので」


「おぉ、そうかそうか。そいつァいいな。じゃあ、将来の夢は騎士か?」


「騎士学校には通う予定ですが、騎士になるかは決めてないです」


「ん? 坊主は今いくつだ?」


「今年で十歳になりました」


「十歳にしちゃ、しッかりしてるじゃねぇか。なんで、こんなところにいるんだ?」


「修行のために、知り合いの騎士さんと来たんです」


「ほゥ。知り合いの騎士か。俺の知り合いかもなァ。その騎士、なんて名だ?」


「エミリアさんです」


「エミリア、エミリアねェ。知らん名だな」



 まぁ、知らないよな。


 騎士なんて山ほどいるし。



「おじさんは、何をしてる人なんですか? 冒険者さんですか?」


「まァ、そんな感じのことをやってる。それと、俺はまだおじさんッて歳じゃねぇよ」


「いくつなんですか?」


「今年で二十八になる。いや、二十九になったんだっけか? あんまし覚えてねェなァ」



 二十九。


 前世の俺が死んだ歳だ。


 同い年でこの渋さか。俺なんか、トラック待ちで転んで死んだのに。


 ……考えるのはやめよう。



「あんまり、年齢とか気にしないんですか?」


「数えてても、使う機会がねぇからなァ」


「そういうもんですか。あ、そろそろ着きますよ」


「お、やッとかァ」



 森を抜けて、ダンジョンの前に出た。


 すると、タークィン殿がこっちに歩いてくるのが見えた。



「ユージーン君! どこに行ってたんですか? 探したんですよ?」


「あ、すみません。そこらへんを散策してまして」



 さっきと口調がちょっと違うな。


 なんて思っていたら、黒い人が片手を上げた。



「おう、タークィン。いつぶりだァ?」


「ボス!? 迎えに行くって言いませんでしたか?」


「道中で、この坊主に会ってな。案内してもらッたのよ」


「そうでしたか。それで、計画はどうしますか?」


「ちィと早いが、始めちまうか」



 なんだ。


 知り合いの騎士って、タークィン殿のことだったのか。


 ボスって何だ? 計画って?


 二人が、同時に剣を抜いた。


 というか、二人とも剣がかっこいいな。


 タークィン殿のは、真っ黒な剣。黒い人のは、黒い刃の真ん中に金が一本通っている。


 こういうのも、いいよなぁ。


 なんて、ぼーっと考えていたら。


 タークィン殿が、すぐそばにいた騎士を背中から斬った。


 ……え?


 あっけにとられているうちに、黒い人が次々と騎士を斬り殺していく。


 末端の騎士といっても、冒険者とは比べものにならないくらい強いはずだ。


 でも、いきなり敵が出てきて、しかも斬ってきたのは自分たちの副隊長だ。みんな固まっていた。


 ばたばたと倒れていく。


 何人かは剣を抜いて応戦していた。


 でも、黒い人は単純に強い。数合打ち合っただけで、全員地面に転がった。


 まだ頭が追いつかない。


 そのとき、後ろで、ジャリ、と砂を踏む音がした。


 振り向く。


 タークィン殿が、剣を振り上げていた。


 剣を抜いて受けるには、どう考えても間に合わない。


 なので、とりあえずジジィのところに避難した。





 ◇





「ふー、あぶないあぶない」


「なんじゃ、逃げたのか?」


「いーや、逃げじゃないです。スキルをうまく使っているだけです」


「物は言いようじゃな」



 まっしろな空間で、ジジィがあきれた顔をしている。


 うるせぇ。死ぬよりマシだ。


 とはいえ、ここでも時間は向こうと同じように流れている。


 のんびりしてたら、戻ったときには全部終わってるかもしれない。


 騎士の人たち、何人倒れてたっけ。……数えたくない。



「じぃさんや。あの黒い人は何なの?」


「彼の名前は、もう知っておるはずじゃが?」


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