第18話 隠し部屋
ユージーン君を入口に残して、僕、エミリアはケイ殿たちとダンジョンに飛び込んだ。
洞穴の中だというのに、目の前には森が広がっていた。
ダンジョンって、こういうものらしい。初めて入ったけど、意味がわからない。
「エミリア、ぼさっとするなよ」
「してません」
「ガルドゥル殿、お願いします」
「まかせろ」
ガルさんが手をかざすと、蒼い炎でできた小鳥が三羽現れた。
小鳥たちは、それぞれ別の方向へ飛んでいく。
しばらくして、ガルさんが走り出した。
「こっちだな。けっこう魔物が多いから、気をつけろよ」
「はい!」
僕とケイ殿が先頭を走って、その後ろにガルさんと騎士たちが続く。
前に出てくる魔犬やゴブリンを、二人で片っ端から斬り捨てていく。
ケイ殿と並んで走るのは癪だけど、正直、楽だ。この人の大剣、通ったあとに何も残らないから。
三十分ほど走ったところで、前方に階段が見えてきた。
その手前に、冒険者が三人。
入口で見た、クロスボウの連中だ。
「お前ら!」
「隊長さんじゃないですか。どうしたんですか、そんなに急いで」
「お前ら、俺が隠し部屋のことを聞いたとき、知らないと言ったよな?」
「さぁ? 覚えてないですね」
「とぼけやがって。悪いが、連行させてもらうぞ」
「やれるものなら、やってみてください」
冒険者たちは、へらへら笑っている。
三対一なら勝てると思ってるんだろう。相手が誰だか、わかってないな。
「ケイ殿、手伝いましょうか?」
「いい。俺一人で十分だ」
ケイ殿は背中の大剣を下ろして、真正面に構えた。
次の瞬間、ケイ殿はもう冒険者たちの目の前にいた。
笑みが、そのまま固まる。
下段から振り上げた大剣が、一人目をガードごと吹き飛ばす。
手首を返して、大剣をそのまま二人目の脳天へ振り下ろす。ダガーごと両断。
大技の後の隙を狙って、三人目が斬りかかる。
ケイ殿は身をひねってかわし、みぞおちに蹴りを一発。
三人目は、そのまま崩れ落ちた。
「さすがですね」
「新入りの手前、ダサいことはできんからな。おい、こいつらの後始末を頼んだぞ」
「ケイ、エミリア、先を急ぐぞ」
「はい」
……悔しいけど、かっこいい。
口に出したら一生いじられるから、絶対言わないけど。
◇
階段を下りて、二階層。
「ガルドゥル殿、隠し部屋はどちらに?」
「こっちだ。ケイは、ダンジョンの経験はないのか?」
「私は学校を卒業してしばらく冒険者をしておりましたので、経験自体はあります。ただ、このダンジョンは初めてですね」
「あ、ケイは東校の出身だったか?」
「そうですね。新入りもたしか東校だろ?」
「はい。ただ、私は冒険者の経験がないので、ダンジョン自体が初めてです」
「えーっと、ここの石を押し込んで、と。よし、ここだな」
ガルさんが壁の石を押すと、ごごご、と壁が横にずれた。
奥に、通路が続いている。
「クロスボウは使わないんですか?」
「この先だよ。もっとも、俺には必要ないが」
通路を進むと、でかいゴーレムが立ちふさがっていた。
「こんなところにゴーレムなんかいなかったはずだ。当たりっぽいな。速攻で片付けるぞ」
「はい!」
ガルさんが詠唱を始める。
ゴーレムはそれを脅威と見たのか、こっちに突進してきた。
僕とケイ殿は軽く横に避ける。
でも、ガルさんは動かない。
「ガルドゥル殿!」
ゴーレムの渾身の突進は、ガルさんに当たらなかった。
ガルさんの姿が揺れて、気づいたらゴーレムの後ろにいた。詠唱は止まっていない。
そして、ゴーレムに手のひらを向ける。
「メインヴォルフ」
手のひらから、光の球が放たれた。
光の球がゴーレムに触れた瞬間、ゴーレムは跡形もなく消えた。
「ガルドゥル殿……消し飛ばしたのですか?」
「いやいや、まさか。あんなでかいもの、消し飛ばすなんて無理だよ。俺はただ、飛ばしただけ」
「飛ばした?」
ガルさんは、黙って人差し指を上に向けた。
「??」
「いずれわかるさ。さ、この先に盗賊がいるんだろう。行くぞ」
「よくわかりませんが、行きますか」
ほんとに、よくわからない。
……このおじさん、ときどき底が見えない。
◇
通路の突き当たりに、扉があった。
「ところで、これはどうやって開けるんだ?」
「うーん、どっかに隠しボタン的なものがあると思うんだが……」
「見当たらないですね」
三人で扉の周りを探すこと、数分。
「ないな」
「ないですね」
「見当たりませんね」
「こういうのは、だいたいわかりやすいところにあるんだが。隠しボタンで開けるタイプじゃないのかもな」
……あれ。
この扉、普通に取っ手がついてないか?
「この扉、取っ手みたいなのついてませんか?」
「え!? まさか、そんなわけないだろう」
「いや、ほら、これ」
「……まじであるな。まぁいい、先に進もう」
いい大人が三人そろって、数分間、取っ手を見落としていた。
師匠には絶対に言えない。
取っ手を引くと、中には盗賊が十人近くいた。
机と椅子が並べられていて、どうやら会議の最中らしい。
みんな椅子に座ったまま、誰もこっちを向きもしない。
「おぉ、帰ってきたか。騎士どもはどっか行ったか?」
「騎士なら、ここにいるよ」
「あ? ……おいっ! 武器を取れ!」
「俺が身体強化をかける。ケイは左、エミリアは右を頼む」
「はい!」
「了解!」
ガルさんの魔力が体に流れ込んでくる。
体が、軽い。
ケイ殿が盗賊の首をはね、胴を貫く。
負けじと、僕も目の前の盗賊を袈裟懸けに斬る。もう一人、腹を裂く。
死角から飛びかかってくるやつは、ガルさんの蒼い小鳥が貫いていく。
ものの数分で、制圧は終わった。
「この身体強化、すごいですね」
「まあな。にしても、あっけなかったな。さすがに、この中にグレンゴルドはいないんだろう?」
「はい。あいつは、かなりの豪傑ですので」
「そうか。とりあえず、このへんの紙を見てみるか」
机の上には、書類が散らばっていた。
ケイ殿がその一枚を拾い上げて、目を走らせる。
「そうですね……ん? これは……タークィンのサインだな」
タークィン。
三番隊の副隊長だ。……撤収の指揮で、入口に残っているはずだ。
ユージーン君も、あそこにいる。
「っ! ガルドゥル殿、これを!」
ケイ殿の顔から、血の気が引いていた。
「早く戻らないとまずいです!」




