第17話 黒い鎧
「ダンジョン、ですか。一人で?」
「いやいや、まさか。三人で行くんだよ。君がどれだけの魔力と剣の腕を持ってるか、この目で確認したいからね」
「よかったです」
いきなり一人でダンジョンに放り込まれるのかと思った。
親父殿の知り合いなら、それくらいやりかねない。
「ユージーン君、そのおじさんいらないよねぇ?」
「いや、俺がいないと実力を確認できないでしょうが。なんだお前、俺のこと嫌いなのか?」
「いや、嫌いじゃないよ。気に食わないだけ」
「何が気に食わないんだよ、まったく。そもそも俺ら、あんまり関わりないでしょうが」
「覚えてない!?!?」
「あれ、なんかあったっけ?」
「はぁぁぁ……。もういいです」
「ご、ごめんよ……おじさん、もう記憶力が……」
エミリアさん、目が死んでる。ガルさんは目が泳ぎまくり。
何があったんだ、この二人。
「と、とにかくダンジョン行こう! ダンジョン!」
「そ、そうですね! 行きましょう!」
俺も全力で乗っかった。
こうして、なんとも微妙な空気のまま、ダンジョンに向かうことになった。
◇
着いたのは、山の洞穴だった。
森に入る前から見えていた、でかめの山。そのふもとに、ぽっかり穴が開いている。
穴の周りには、冒険者が何人かと、騎士がたくさんいた。
冒険者たちは、腰からポーションっぽい小瓶とクロスボウをぶら下げている。
珍しいな、クロスボウ。
クロスボウは、魔物にはあんまり効かない。
人に撃っても、避けられたり簡単に弾かれたりする。
だから、あんまり出番がない武器なのだ。
騎士たちの中には、さっきガルさんの家の前で会ったケイ殿もいた。
というかケイ殿、ほかの騎士と並ぶと明らかにごつい。
入学試験で戦ったヴァルト殿と、どっちがでかいんだろう。
「報告します! 五階層までに、グレンゴルドの姿と痕跡は確認できませんでした!」
「そうか。地下組の報告を聞かんとわからんが、ダンジョンの中にはおらんだろう。よし、撤収の準備をさせろ!」
「はっ!」
「隊長さん。俺らはもう探索を再開していいのかい?」
「もう大丈夫だ。時間を取らせてすまなかったな」
「いやいや、なんか盗賊を探してたんだろ? こちらこそありがとうだよ。じゃ、俺らはまた潜るから。隊長さんたちも気をつけてな」
「あぁ、幸運を祈る」
クロスボウの冒険者たちが、穴の中に入っていく。
入れ替わるように、また騎士が駆けてきた。
「報告します! 地下三階層までに、グレンゴルドの姿、痕跡ともに見つかりませんでした!」
「そうか。よし、撤収だ! これよりトルタヤに戻る!」
「なんか、タイミングばっちりって感じですね」
「そうだね。一応、話を聞いてくるよ」
「俺も行こう。ユージーン君もおいで」
三人でケイ殿のところへ向かう。
「ケイ殿!」
「おぉ、新入りにガルドゥル殿じゃないか。ダンジョン攻略に来たのか?」
「はい。ガルドゥル殿が、ユージーン君の実力を見たいと」
「そうか。ならちょうどいいな。グレンゴルドがダンジョンに潜んでいないか確認させててな。今終わったところだ」
「ケイ、二階層の隠し部屋は確認させたか?」
「隠し部屋、ですか?」
「あぁ。二階層には隠し部屋があるんだよ。冒険者から聞かなかったか?」
「いや、聞いてないですね。隠し部屋の類はないかと一応聞いたんですが、知らないと。今日が初めてなんだとか」
ガルさんの顔から、へらへらが消えた。
「初めて、だと? そんなわけないだろ! あいつら、クロスボウを下げてただろうが!」
「え?」
「隠し部屋に入るには、クロスボウが要るんだよ!」
「な……じゃあ、あいつらは!」
「あぁ、そうだ! すぐに後を追うぞ! 俺も行く!」
「私もついていきます! 危ないから、ユージーン君はここで待ってて!」
三人は、何人かの騎士を引き連れて、ばたばたとダンジョンの中に駆け込んでいった。
……え?
俺、置いてけぼり?
なんか大変なことになったな。
さて、何しよう。いきなり暇になった。
ぼーっと穴を眺めていたら、騎士が一人、こっちに歩いてくるのが見えた。
珍しいことに、その騎士は真っ黒な鎧を着ていた。
「私は騎士団三番隊副隊長、タークィン・カラドスという。君が、あのゴネリル殿の息子のユージーンかね?」
「はい。アンブロシア家長子、ユージーン・アンブロシアです。副隊長殿が、何のご用でしょうか?」
「いや、なに。ただの自己紹介だよ。かの高名なゴネリル殿の嫡男であれば、いずれ世話になることもあるだろうからな」
「そうでしたか。これは失礼しました」
「いいのだよ。初対面なのだからな」
タークィン殿は、にこりと笑って去っていった。
……なんだ、こいつ。
自己紹介だけしに来たのか? わざわざ? 気に食わない野郎だな。
面従腹背、っていうんだったか。何考えてるかわからないタイプだ。
要警戒だな。
にしても、俺はいつまで待ってればいいんだ?
三人が戻ってくるまで、穴の前で体育座りか?
それはさすがに退屈すぎる。
……そこらへんを散歩でもするか。
ちょっとだけ。ちょっとだけなら、怒られないだろ。




