第16話 レンドリア
馬車の中で、気になっていたことを聞いてみた。
「エミリアさんって、名字は何ていうんですか?」
「レンブランだね」
「レンブランって……」
「そう。君のお父さんの故郷だよ」
「え、父上の故郷なんですか?」
「あれっ? 知らなかった?」
「はい。レンブランって名前を、どこかで聞いたことがあるだけで」
親父殿、そういう話しないからな。
「僕のご先祖さまが、昔あのあたりを開拓したんだ。それで記念に自分に名字をつけて、ついでにできた街にも同じ名前をつけたんだとか」
「へー、そんな歴史が」
「うん。……あ、着いたみたいだね」
馬車の窓から外を見る。
森だ。
見渡すかぎり、ずーっと森。
「ここがレンドリアですか」
「そう。ダンジョンと魔物の森、レンドリアだよ」
「だいぶ大きいですね」
「なんでか、奥に行くほど魔物が強くなるらしくてね。魔物が出るようになってから、誰も奥まで行けてないんだ。だから正確な大きさも測れてないんだって」
「理由はわかってないんですか?」
「とんでもない魔力が観測されてるから、やばい魔物の王みたいなのがいるとか、別のダンジョンがあるとか言われてるね」
「確かめないんですか?」
「特に実害も出てないし、確かめに行ったら被害がとんでもないことになりそうだから。放ってあるみたいだよ」
魔物の王。
いきなりファンタジーっぽい単語が出てきた。
っていうか、そんなところで研究してる人がいるんだよな。
「その、ここで研究してる魔術師さんは大丈夫なんですか?」
「あぁ、あの人はとんでもなく強いから。それに、そんなに深いところで研究してるわけじゃないみたいだしね」
「そうなんですね。ちなみに、何の研究をしてる人なんですか?」
「それは本人に聞くといいよ。きっと詳しく教えてくれるから。ほら、ここだ」
馬車を降りると、目の前に家が一軒建っていた。
想像どおりの、森の中の家って感じだ。
刃〇の安藤さんの家を想像してもらえると、わかりやすいと思う。
木造で、魔術師の家って感じはあんまりしない。
どっちかっていうと、猟師の家に近い。
なんて考えていたら、中から人が出てきた。
筋肉の鎧をまとった、ごっついおっさんだった。
……こいつが魔術師、なわけないよな?
「あれ? 隊長じゃないですか。どうしたんですか、こんなところで」
「ん? あぁ、近衛のところの新入りか。いや、ガルドゥル殿に用があってな」
「用ですか? あと、新入りじゃないです」
「うむ。このあたりでグレンゴルドの目撃情報があってな。俺ら三番隊が駆り出されたんだが、どうにも手がかりがない。それで、怪しいやつを見なかったか聞きに来たんだ」
「グレンゴルドの目撃情報ですか」
「お前らは何しに来たんだ? あと、お前入って一年かそこらだろ。新入りじゃないか」
「私らは修行です。師匠が行ってこいって。ちなみに、こっちの子が師匠の息子のユージーン君です」
「ほう」
「一応、私らも警戒しておきますね。あと、一年半いますからね。訓練生じゃなくて正規入隊してますから」
エミリアさん、二回も訂正してる。
「ほう、ゴネリルの息子か。ちょいと腕前を見てみたいが、時間がなくてな。遊ぶのはまた今度にしよう」
「あ、はい」
「それと新入り。新入りと呼ばれたくなかったら、決闘でも仕掛けてこい。俺に勝てるまで、お前は新入りだ。じゃあな」
おっさんは、のっしのっしと去っていった。
エミリアさんが、その背中を見ながら口をとがらせている。
「あの人は、どういう人なんですか?」
「騎士団三番隊の隊長、ケイ殿だよ。あの人、いっつも煽ってくるんだよなぁ」
「ケイ殿。覚えました。ちなみに、グレンゴルドっていうのは?」
「最近暴れてる盗賊の頭領だよ。あっちこっちで暴れてるんだけど、どうにも足取りがつかめないんだよね。まぁ、近衛にはあんまり関係ないんだけど」
「盗賊の頭領ですか。悪そうですね」
我ながら、中身のない返事だ。
すると今度は、家の中からおじいさんが出てきた。
白いひげに、ローブっぽい服。
きっと、この人が魔術師に違いない。
この見た目で魔術師じゃないってことはないだろ。
と思っていたら、その後ろからもう一人、おじさんが出てきた。
「爺さん、気をつけて帰れよ。帰り道わかるか?」
「大丈夫、大丈夫。ジジィ扱いするんじゃない」
「爺さんはもうジジィって歳だろ。今いくつよ」
「まだ七十にもなっとらん」
「六十五超えたら、もうジジィでしょ。さ、客人も来てるし、早く帰りな」
「どうせお前もすぐジジィになるんじゃ。じゃあの」
おじいさんは、すたすたと森の中に帰っていった。
魔術師じゃなかった。
残ったおじさんが、こっちを向く。
ぼさぼさの頭に、よれよれの服。
魔術師っていうか、休みの日の親戚のおじさんだ。
「さて、エミリアとユージーンだったね。僕が宮廷魔導士のガルドゥルだ。よろしく。ガルでいいよ」
「あれ? 元、じゃないんですか?」
「いや、今も一応宮廷魔導士だから。仕事はしてないけど、名前だけは置いてあるんだよ」
「あ、そうでしたか。ユージーン君、このおじさんがお世話になるガルさんだ」
「どうも」
「このおじさんは、怠けて仕事をしなかったせいで、こんな森まで左遷されたダメ人間だよ。殿とか様とか、つけなくていいからね」
「ひどい紹介だなぁ。まぁ、実際つけなくていいんだけど」
この人が、親父殿の言ってた知り合いの魔術師か。
とんでもなく強いって話だったけど、とてもそうは見えない。
「ガルドゥルさん、これからよろしくお願いします」
「君は、お父さんやこっちの生意気坊主と違って礼儀正しいねぇ。いいことだけど、おじさん的にはもうちょっと肩の力を抜いてほしいかな」
「では、ガルさんで」
「うん。それがいい」
ガルさんは、にへらっと笑って手を打った。
「さて、ユージーン君。君の修行の話だけど」
「はい」
「まず、ダンジョンに潜ってもらうよ」




