第15話 焼き鳥
エミリアさんとしゃべりながら馬車に揺られていると、急に馬車が止まった。
「ん? まだレンドリアには全然着かないはずなんだけど。何かあったかな」
「休憩ですか?」
「いや、そういう予定はないはずだよ。ちょっと待ってて、様子を見てくる」
エミリアさんが馬車を降りていく。
すぐに、外から誰かと話す声が聞こえてきた。
道でも聞かれてんのかな。
なんて、のんきに座っていたら。
ガキンッ、と金属を打ち合わせる音がした。
続けて、俺の名前を叫ぶ声。
慌てて飛び出すと、エミリアさんと御者さんが、武器を持った男たちとやり合っていた。
「ユージーン君! 盗賊だ! 気を抜かないようにね!」
「わかりました!」
ちょうど、エミリアさんの背中に斬りかかろうとしているやつがいた。
剣を抜いて、そいつを後ろから斬り捨てる。
次。
遠くで弓を構えているやつが見えた。地面を蹴って、一直線に突っ込む。
矢が飛んでくる前に、間合いに入った。
御者さんも、そこそこ腕が立つらしい。
短剣一本で、盗賊を二人まとめて相手にしている。
騎士の家の御者って、みんなこうなのか?
ものの数分で、盗賊たちは全員動けなくなった。
エミリアさんのほうを見ると、わざと生かしておいた何人かに、何かを聞いているところだった。
「貴様ら、グレンゴルドの一味か?」
「グレンゴルド? そんな危ねぇやつ知らねぇよ」
「そうか。ならいい。言い残すことはあるか?」
「おいおいおい! 殺すのかよ! 衛兵に引き渡すんじゃねぇのか!?」
「たしかに、冒険者には盗賊の必要以上の殺害は認められていないが。私は騎士団所属でね」
「は?」
「ま、そういうわけだ」
エミリアさんの剣が、すっと動いた。
何人分かの首が、地面に転がる。
……うわ。
さっきまで普通にしゃべってた人が、顔色ひとつ変えずにやった。
エミリアさんは、何事もなかったみたいに剣を拭いて、のろしを上げた。
「こうしておけば、見回りの兵士か衛兵が来るから。僕たちは先に行こう」
「は、はい」
◇
また馬車に揺られながら、さっきのことを聞いてみた。
「冒険者だと、盗賊を殺しちゃダメなんですか?」
「うん。戦ってる最中ならともかく、捕まえたあとに殺すのは禁止だね」
「へぇ」
「そもそも、拘束しないと報酬が出ないから。殺すメリットがないんだよね」
「じゃあ、さっきのは」
「急いでたし、僕が騎士だったのもあって、殺しちゃった。でも基本は拘束だよ」
殺しちゃった、って。
言い方が軽い。この世界の命、軽い。
……まぁ、盗賊相手だしな。
「エミリアさんは、冒険者をやってたことはあるんですか?」
「ないね。僕は在学中にスカウトされて、近衛騎士団に入ったから」
「在学中にスカウト、ですか?」
「そう。知ってるかもしれないけど、騎士学校では六年生から学生大会っていうのに出られるんだ」
「学生大会」
「僕は七年生のときに準優勝、八年生で優勝。それでスカウトされたんだよね。すごいでしょ」
「はい。普通にすごいです」
「ユージーン君も、学生大会で優勝したらスカウト来るよ。多分」
「できるといいんですが」
多分、って言ったな今。
まぁ、魔力四十だもんな。俺でも多分って言う。
◇
そんなこんなで、さらに数刻。
馬車がまた止まった。今度は盗賊じゃなかった。
「トルタヤの町に着きました」
「あぁ、ありがとう。行こうか、ユージーン君。レンドリアに一番近い町、トルタヤだよ。一泊してから、レンドリアに向かおう」
「はい、わかりました」
トルタヤは、帝都ほどの大きさはないけど、それでもそこそこでかい町だった。
近くにダンジョンがあるから、にぎわってるんだろう。
門からまっすぐ続く大通りに、ずらっと店が並んでいる。
あっちこっちから、いい匂いがする。
腹が鳴った。
「何か食べていくかい?」
「そうですね。あそこの、なんか焼いてタレつけてるやつにしましょう」
「銀貨五枚か、お手ごろだね。二本もらえるかな?」
「毎度あり!」
屋台のおっちゃんから、串を二本受け取る。
エミリアさんが、片方を俺に渡してくれた。
「はい。これは焼き鳥だね」
「あぁ、焼き鳥ですか」
「あれ、知ってた?」
「いや、食べたことはないですけど。名前だけ」
知ってるも何も。
見た目も匂いも、完全に焼き鳥だ。名前まで焼き鳥だ。
こっちにもあるんだな、焼き鳥。
他にも、同じ料理があったりするんだろうか。
いや、あっても名前が一緒とは限らないか。
……転生者が持ち込んだ、ってのはありえるな。
だとしたら、ほかの転生者に会えたりするかもしれない。
「おじさん。この焼き鳥を思いついたのって、誰なんですか?」
「さぁ? 誰なんだろうなぁ。気づいたら、なんか流行ってたからなぁ」
店主でも知らないか。
そりゃそうか。俺も向こうで、焼き鳥を発明したやつなんて知らないしな。
料理で知ってる人なんて、平〇レミくらいだもんな。
……あの人って、何してる人なんだ?
焼き鳥にかぶりつく。
うまい。タレが甘じょっぱくて、ちゃんと焼き鳥の味がする。
そのまま、屋台やら出店やらで適当にぱくつきながら、宿に向かった。
宿は、そんなに大きくなかった。
我が家の豪邸に慣れきった俺じゃ、もう満足できないよぉ。
……なんて言ったら、エミリアさんに置いていかれそうなので黙っておく。
その晩はぐっすり眠って、翌朝。
俺たちは、レンドリアへ向かった。




