第14話 遠征
騎士団司令部から帰ってくるなり、親父殿から話があると言われた。
居間に来い、と。
正直、もうくたくたなんだが。
皇帝陛下の前で模擬戦をやらされて、魔力はすっからかん、足は棒だ。今すぐベッドに倒れ込みたい。
でも親父殿の「話がある」を断れる十歳はいない。
「座れ」
「はい」
「話というのはほかでもない。お前の魔力量についてだ」
あ、そっちか。
禁術の件で説教かと思ってた。
「私が学生のころほどではないが、お前の魔力量はかなり少ない」
「……はい」
「それに、お前の戦い方は、剣の技術と魔法による奇襲が軸になっている。私はそんなことを教えた覚えはないが」
「えっと」
「責めているわけではない。それが合っているなら、矯正するつもりはない」
セーフ。
ジジィに習ってますとは、口が裂けても言えない。
「ただ、その戦い方だと、魔力が切れたとたんに一気に詰む。今日の模擬戦もそうだ」
「そう、ですね」
「あの場面でエミリアが避けて反撃に転じていたら、お前に打つ手はなかっただろう」
ぐうの音も出ない。
実際、最後のあれでほぼ魔力が尽きてたからな。
「それに今日のエミリアは、かなり受けに回っていた。本来は攻め立てる型だ。ああいう相手に本気で攻められたら、奇襲を仕掛ける前に勝負が決まる」
「なるほど……」
「そこでだ。お前が強くなるには、道が二つある」
「二つ」
「一つは、純粋に剣の技術を鍛えること。もう一つは、魔力の総量を上げることだ」
親父殿が指を二本立てた。
この人、しゃべるときほとんど顔が動かないから、指だけ妙に目立つ。
「剣の技術は、騎士学校に通えば自然と鍛えられる。問題は魔力のほうだ」
「騎士学校じゃダメなんですか?」
「総量の拡張は方法がかなり特殊でな。騎士学校ではできない。魔法学校でならできるんだが……」
「だが?」
「私が魔法学校の校長と仲が悪くてな。おそらく使わせてもらえないだろう」
「え?」
え?
今、さらっと私情が混ざらなかった?
親父殿の顔を見る。
いつもどおりの無表情。何も読み取れない。
「……あの、父上。何があったんですか?」
「昔の話だ」
「はぁ」
「だから、学校が始まるまでの四か月を使って、お前にはレンドリアに行ってもらう」
「レンドリアって、西の端にある森ですか?」
「そうだ。そこで知り合いの魔術師が研究をしていてな。手紙を送ったら二つ返事で引き受けてくれた。そこで魔力の総量を拡張してもらえ」
「わかりました。いつ向かいますか?」
「同行者の準備が整うのが来週になるらしい。それまでに支度をしておけ。話は以上だ。行っていいぞ」
「はい」
居間を出て、自分の部屋に戻る。
ベッドに倒れ込んでから、ようやく頭が回り出した。
魔法学校の校長と仲が悪いって、何やったんだよ親父殿。
騎士学校と魔法学校があんまり仲良くないってのは、なんとなく知ってた。でも、副団長と校長が個人的に仲悪いってどういうことだ。
決闘でもしたのか。しそうだな、あの人。
それにレンドリアか。
あそこ、たしかダンジョンがあったよな。しかも、ダンジョンからあふれてきた魔物のせいで危ないとか、なんとか。
そんなところで研究って、何の研究だよ。
まぁいい。準備するか。
……何がいるんだ?
剣と、服と。
あとは、えーっと。
必要なもの、必要なもの……。
思いつかないし、いいか。
寝よう。
◇
一週間後。
「ユージーン、迎えが来たぞ」
「はい、父上」
「……少し、荷物が多くないか?」
親父殿が、俺の背中のリュックをじっと見ている。
思いつかないなりに、この一週間で詰め込んだのだ。着替えとか、着替えとか、あと着替えとか。
「服は向こうで用意してあるらしい。剣だけ持っていけばいい」
「……わかりました」
服すらいらないのか。
じゃあ、この一週間の準備ってなんだったんだ。心の準備か?
リュックを玄関に下ろして、剣だけ腰に差す。
身軽になった。逆に不安だ。
門の前には、馬車が一台止まっていた。
その横に、見覚えのある人が立っている。
「やぁ、ユージーン君」
「エミリアさん!」
この前、模擬戦でぼこぼこにされかけた相手だ。
今日は鎧じゃなくて、旅装だった。やっぱり、ぱっと見じゃ女の人にしか見えない。
男だけど。
「同行者って、エミリアさんのことだったんですね」
「そうだよ。師匠に、お前もダンジョンで鍛えてこいって言われてね。どうせなら一緒に行こうかなって」
「師匠って、父上ですか?」
「うん。君のお父さん、人使い荒いんだよ」
「なんか、すみません」
「あはは。君が謝ることじゃないよ」
エミリアさん、親父殿の一番弟子なんだっけ。
皇帝陛下がそう言ってた。息子の俺を差し置いて。
別にいいけど。
「エミリアさんと一緒なら安心ですね」
「そんなこと言ってくれるとは、ありがたいねぇ」
エミリアさんは、ちょっと照れたように笑った。
それから御者台のほうを振り返る。
「よし。馬を出してくれ!」
馬車ががたんと揺れて、動き出す。
行き先は、魔物の森レンドリア。
ダンジョンもあるらしいし、ちょっとくらいは俺つえーできるかもしれない。
……なんて浮かれていられたのも、ほんの数刻だった。




