98.得意不得意
昼休み、俺が自分の席で焼きそばパンを食べていた時、珍しく豊崎さんが俺に話しかけてきた。
豊崎さんは、隣の席で水野さんと一緒にご飯を食べている。
「あの…月城くん!」
緊張しているのか声が大きくなっていて、周りの何人かが振り向いていた。
「どうしたんだい豊崎さん」
豊崎さんは自分の声が大きかった事に気づき、顔を赤くしながら俺に話しかけてきた。
「あぁ…ごめんね、月城くん」
「大丈夫だよー」
俺は水野さんを見るが、何も気にせずお弁当を食べている。その卵焼き美味しそうだな。
「えっとね…その、佐藤先輩から聞いたんだけど」
「佐藤先輩って…生徒会の?」
「……うん、中学一緒で、よく話すの」
「そっか…。あ、ごめんそれで?」
「……佐藤先輩、月城くんと猫カフェ行ったって言ってたけど、本当?」
「ああ」
佐藤先輩、そういうの人に言うんだ。
隠すタイプなんだと勝手に思っていた。
「行ったよ。体育祭のお礼も兼ねてだけど」
「…そうなんだぁ!私も猫好きだから気になってるけど、行けてないんだよね」
それは俺と一緒に行きたいというメッセージにも聞こえるけど…多分、違うんだろうな。
「…そっかあ、緊張するよね初めてだと。それこそ佐藤先輩とか行かないのか?」
豊崎さんは首を大きく振った。
「佐藤先輩が誰かと出かけたって初めて聞いたよ。私も学校では話すけどプライベートわかんないし…」
なんか豊崎さんと話し込んでしまったな。
喋ると結構饒舌で面白い。
「そうなんだぁ、あはは」
水野が俺と豊崎さんの話を聞きながら、少し驚いていた。
「結構話せるじゃん豊崎…」
「え!……なんか、そうだね」
俺は豊崎さんを見ながら、考えてた。
普段豊崎さんが、男子と話してるのはあまり見ない。
芦屋とは緊張してあんまり喋らないみたいだし。
俺は緊張しないちょうどいい位置なのかもしれないな。
「なーに話してんの、月城」
食堂から戻ってきた芦屋が声をかけてきた。
「ん?猫の話をしてた。芦屋は猫好きか?」
「お?好きだぜ…?」
「そうか、良かったな」
「…なんだそれ」
芦屋は「変な話してんな」と言い、興味が薄れたのか自分の席に戻って行った。
「ねぇ…月城くん。こんな事本人に言う事じゃないんだけどさ」
水野さんは少し声を落とした。
「豊崎さんと話す練習台になってくれない?」
「……ん?俺?」
豊崎さんは慌てて首を振った。
「違うの、水野さん……。私はただ、月城くんなら気を使わずに話せるって言っただけで……」
水野さんから説明を受け、ようやく事情が分かった。
豊崎さんは男子と話すのが苦手らしい。
その点、俺なら話しやすいということか。
まあ、確かに佐藤先輩という共通の知り合いもいるしな。
「なるほど…俺は別に構わないよ。いつでも話しかけてくれていいし」
「……本当に?」
「うん。話すだけなら別にいいだろ」
豊崎さんは、少し安心したように笑った。
ただ、1つだけ気になった。
「でも、俺とばかり話してていいのか?」
「え?」
「いや、練習するのはいいけど、いろんな人と話せるようになる為にやるんだろ?」
俺の言葉に、豊崎さんは少し考えるように視線を落とした。
「……そう、だね」
「じゃあさ、慣れてきたら男子を誰か呼ぶから、そいつとも話してみてくれ」
「…わかった、やってみる」
「困ったら俺もフォローするから、安心してくれ」
焦る必要もないだろう。
まずは俺と話すことから始めて、少しずつ慣れていけばいい。
俺はそう考え、空になった焼きそばパンの袋をゴミ箱に捨てた。




