97.準備開始
夕方のホームルームで青山先生が発表する。
「1-Aの出し物、『射的と輪投げの縁日』で通りました」
「おおー!」
「やったぜ!」
クラスメイトは喜んでるようだ。
俺は知っていたが、公言するなと言われている為今日は言わなかった。
「それとは別件なんだけど、ステージでやりたい事がある人は記入して出してね」
先生は紙を全員に配る。
「それじゃ、実行委員あとよろしく!」
と言い先生は教室の隅の椅子に座った。
「じゃあとりあえず班を分けるか?」
「そうだね!」
芦屋と彩葉が相談し、班分けを行う事になった。
小道具や大道具、衣装やレイアウト担当など、様々な役割分担をした。
「なぁこれって射的の銃も作るのか?」
芦屋は俺に聞いてきた。
「どこまでやるかはみんなで考えよう。作ってもいいし、借りてきて別のところに時間をかけてもいいしな」
「…結構むずいな」
どこまでやるか。どこを目指すか、どんな方法で。
というのを考えるのがこの文化祭の趣旨でもあるはずだ。
「みんな!どうするよ」
と言い、みんなで確認し、進めている。
いい感じだ。
班分けや役割が決まり、準備を始める。
最初はみんな戸惑っていたが、徐々に慣れていくはずだ。
俺と憂華は一旦抜け、生徒会室へ向かう。
「月城くん」
「佐藤先輩、どうしました?」
机の上には、事前申請用紙の山があった。
「……早いっすね、さすが上級生」
2、3年はすでに事前申請で何が必要か、必要なものを購入する申請書が届いていた。
「事前申請はまだいい。この後事後申請が来るから、今のうちにまとめておくよ」
「わかりました。やりましょう」
俺は佐藤先輩の隣に座り、会計の仕事を手伝った。
今回会計補佐には濱田先輩も同席した。
「佐藤と月城だけじゃ、この量はきついからな」
「ありがとうございます」
俺たちは、資料を見てノートパソコンに入力。
資料をまとめていった。
作業を進めていると、冴島副会長に呼ばれた。
「月城、来てくれ」
「はい、行きます」
俺は入力済みのリストを佐藤先輩に送付し、副会長の元へ向かった。
紙を一枚渡され、確認する。
「その件なんだが」
「……市長が来るんですか」
「そうだ」
市の広報でも取り上げられるらしい。
その関係で、市長も視察に来るとの事だった。
「去年は来なかったんですか?」
「去年は代理の人が来て、挨拶して帰って行ったが今回は本人直々ということだ」
「なるほど、いいものを作らないとですね…」
「まぁそうだな。特に何かをする必要はないが、念頭に置いておこう」
俺はその話を聞き、今日の生徒会は終わりとなった。
生徒会メンバーと共に、生徒会室を出るが俺は鞄を教室に忘れていた。
「やべ、鞄忘れた」
「どうせ中身何も入ってないだろ」
濱田先輩に見抜かれていたが、認めるのも嫌なので。
「勉強道具と参考書とゲーム機が入ってます」
「いや、ゲーム機は校則違反だろ…」
生徒会らしい事を言われてしまった。
また階段を登らないといけないのか、と少し億劫になりながら階段を登り教室へ到着。
日も落ちかけていた教室に夕が1人。
俺の席の机に座って、外を見ていた。
「みんなは帰ったのか?」
夕は俺に気づいて一瞬、安心したような顔をしたが、すぐにいつもの調子に戻った。
「遅かったじゃん相馬」
「まだ、残ってたのか?」
夕は少しむっとした表情になる。
「相馬鞄置きっぱなしだったから」
「待っててくれたのか。悪い事をしたな」
「憂華は?」
「帰ったよ」
「そっか」
俺は夕が少しだけいつもと違うような雰囲気、表情をしていると思ったが、何を考えているかまでは読めなかった。
俺は鞄を持ち、「帰るぞ」と夕に言って、一緒に廊下を歩く。
「クラスの様子はどうだった?」
「ん?まぁ、普通?」
「普通ってなんだよ…」
「まだ買い出し行ってないから、話し合いメインだったよ」
「そうなるよな…」
夕はローファーにスポスポと足を入れ、俺も靴を履き替え歩き出す。
校門付近に来た時、夕が口を開く。
「相馬はクラスにはあんま顔出さないの?」
「いや、行くよ。生徒会は最初だけ忙しいらしい」
「ふーん」と夕は呟いたあと、少し下向いて歩いていた。
俯き気味の夕の表情は見えなかった。
夕とゲームする時間は夏休みに比べ、減っていた。
隣同士だった席も離れ話す頻度も減った。
もちろん俺達は話すし、仲も悪くなってない。
でも、だからこそ、文化祭を一緒に回りたい。
俺はそう思った。
「なぁ、よければだけど、文化祭一緒に回ろうぜ」
夕は顔を上げて、俺の方を見た。
「え?…いいの?」
「もちろん」
「…生徒会とかは?」
「何とかなるだろ。多分」
「何とかなるだろって…」
夕と俺は駅に向かって歩く。
「…約束だからね?」
「おう」
夕と駅で別れ、俺は電車に乗った。
文化祭の準備は始まったばかりだ。
生徒会の仕事もあるし、これから忙しくなるだろう。
それでも、楽しみが1つできた。
文化祭当日、夕と何を見て回ろうか。
そんなことを考えながら、俺は電車に揺られていた。




