90.文化祭のヒントを探して
早くも週末、第一高校文化祭見学の日となった。
俺達は、文化祭の開始前に到着。
生徒会室へと招かれた。
「北高のみなさんようこそ」
生徒会室には1人。
生徒会長の梶原と名乗った。
髪を整えていて、清潔感のある好青年。そういう印象だ。
「お招きいただきありがとうございます。北高生徒会長の橘です」
「そんな堅苦しくなくていいですよ」
「他のメンバーは出払っていて、すいません…」と前置きした後、梶原会長は文化祭の説明を始めた。
「今日は一般開放日なので、生徒も親御さんも知り合い達も来ます。内容はーー」
クラスと文化部を中心に出し物がある。
飲食、展示、アトラクションなど様々あるが、被らないように調整しているとの事。
その後、渡されたパンフレットを確認する。
地図がわかりやすく書かれている。
ただ、書かれているのは企画名と場所だけで、具体的な内容まではわからない。
「まぁ、ゆっくり見ていってください」
そう締めくくり、梶原会長は説明を終わらせた。
俺は地図を見ながら考える。
例えば、
『2-A、クレープ屋』や『写真部、写真展示』
人を呼びたいなら、「いちご味やチョコ味もあります」とか、「生徒たちが見つけた日常の風景」とか、宣伝文句を添えるのが普通だと思う。
だけど、ここにはそれがない。
それなのに、どんなものがあるのか気になって、行ってみたくなる。
「とりあえず見て回ろうか」
橘会長の言葉に俺達は頷き、そのまま生徒会室を後にした。
招かれているとはいえ、『生徒会』の腕章をつけた他校の生徒が集まって歩いてるのは、注目を集めた。
「橘会長、バラバラで動きます?その方が効率もいいですし、感じ方も変わるかもしれません」
「そうだな、月城の言う通りだ」
2人1組に分けられ、俺は佐藤先輩と見て回ることになった。
「デートみたいですね、佐藤先輩」
「腕章つけてデートは、度胸がいるね」
「俺飲食系見てみたいんですけど、クレープ屋からでいいですか?」
「いいよ。……猫カフェ無いのかな」
「あるわけないじゃ無いですか…。でもメイド喫茶あるみたいですよ。そっちなら猫耳はいるかも」
「人間には興味ない…。けど、あとで見てみようか」
俺達はクレープ屋に向けて歩き出した。
クレープ屋は2-Aの教室を使用していた。
調理スペースと、飲食スペースが分けられている。
「いらっしゃいませー!」
制服にエプロンをつけた女子が対応してくれた。
「佐藤先輩、せっかくなんで食べましょうか」
「チョコクレープにする。月城くんは?」
「俺はいちごにしようかな」
「かしこまりましたー!」
俺たちは待っている間に観察する。
「クレープってホットプレートでできるんですね」
「ちょっと忙しそうだね」
生地を焼く人、巻く人、トッピングする人。それぞれに役割が分かれているけど、どうしても時間がかかっているみたいだ。
「何枚か作り置きしておけば対応できそうだね」
「たしかに」
普通のクレープ屋みたいに注文してから作る必要はなく、作り置きしておいた方がいいかもしれないな。
「おまたせしましたー!」
俺は女子からクレープを受け取る。
「ありがとうございます。これチョコです佐藤先輩」
「ありがと」
俺達は椅子に座り、2人でクレープを食べる。
「でも、思い出しますね。猫カフェ」
「夏休み挟んだから、すごく前な気がするけど。2ヶ月くらい前だもんね」
「またいきましょうね先輩」
「うん…行きたい」
先輩はチョコクレープを綺麗に食べながら、嬉しそうに微笑んでいた。
俺達は、それから展示系を見に行った。
写真部やクラスの展示、美術部も面白い作品が多くて楽しめた。
人はまばらだったが、どの部屋にも人はしっかりいた。
俺達は、最後の目的地。
メイド喫茶に来たけど、案の定大盛況だった。
メイド服を着た女子生徒、執事の格好をした男子生徒など、様々いた。
「相馬くん達も来たんだ」
憂華が先に来ていた。
山村先輩は羨ましそうにメイド達を見ていた。
「去年やれなかったからなぁ…メイド喫茶。今年はやりたいなぁ」
「メイド喫茶いいですね…見てみたいです」
俺は横目で佐藤先輩を見る。
「佐藤先輩もメイド服、似合うと思いますよ」
「……褒めてる?」
「褒めてます」
その話を聞いていた憂華が。
「私は?」
「多分似合いすぎて、憂華だけが人気になる未来が見えるからやめておけ」
「…それも褒めてるの?」
「褒めてる」
そんなやりとりをしながら観察していた。
火は使ってないみたいだけど、オムライスなど料理の提供はできている。
卵はすでに焼かれたものを使用しており、ライスに関してもすでに調理済みのものを使用している。
それから、飲み物は冷蔵庫から取り出したジュースだけど、しっかりと形になっている。
「いい感じだな、メイド喫茶も」
俺は感心というか、感動していた。
憂華も同じ気持ちだろう。
「そうだね、すごくしっかりしてる」
高校の文化祭ってこんな感じなんだ。
自分の高校より前に知ってしまい不思議な感覚だ。
それでも、いい経験ができたと思う。
「それより、相馬くんメイド服見過ぎじゃない?」
憂華が俺にジト目で言ってきた。
「いや、観察してるだけだぞ?」
「月城くんも男だねー!」
山村さんは俺の反応に嬉しそうに笑った。
俺達は見終わり、生徒会室に集まった。
「どうでしたか?うちの文化祭」
梶原会長と橘会長が話をしていた。
「すごく良かったです。ここまで幅広くできるんですね」
「生徒全員の希望は叶えられないですが、やりたい事をやってもらった方がモチベーションになるのでね」
俺は話を聞いて質問する。
「すいません。梶原会長、質問いいですか?」
「もちろん!なんでも聞いてください」
「どうして、こんなに自由にできるんですか?」
梶原は少し考えて、
「自由……ですか?」
「はい。メイド喫茶とか、クレープとか。北高だと、危ないからとか、管理が難しいからって理由で却下されそうなものも多いので」
「ああ、その悩み、よくわかります」
梶原会長は笑った。
「うちは、やっていいことを増やしたんじゃなくて、やっていい状態を作った。そんな感じですかね」
例えば、と梶原会長は説明する。
「たこ焼き屋をやりたいクラスがあって、そのクラスは火を使いたい。これだけではダメです」
俺は頷き、続けて話を聞く。
「調理器具は何にするか、食品調理の場所は?消火器はどこに置くか」
「何が危険なのかを考えるだけじゃなく、どうすれば安全にできるか。うちはそこまで考えてもらっているかな」
「なるほど…」
みんなが自由にやってるわけじゃない。
自由にやる為にはどうすればいいかを、みんなで考える。
ここが重要なのか。
俺はなんとなくわかった気がする。
「ありがとうございます。梶原会長」
「はは、助けになったのならなによりだよ」
それからもみんなからの質問は続いていた。
「北高文化祭がどんなものになるか、楽しみにしてるよ」
梶原会長は立ち上がり、みんなを送り出した。
「また、月曜日に。ここで決めるぞ」
橘生徒会長が話し、俺達はそれぞれ、帰宅することになった。
生徒会室を出たところで、俺と憂華は自然と並んで歩いていた。
「なんかすごかったね、文化祭」
「俺達1年は自分の文化祭見るより先に、他校の見ちゃったしな」
外の空気は、秋を感じさせるような冷たさと、太陽の暖かさがある。
俺はその空気を吸って、憂華を見る。
「絶対成功させような」
「うん!もちろん」
そう言って、2人で帰ろうとした時だった。
ふと目の前に、屋台の看板が目に入った。
『焼きそば屋』
「あ!あった!」
「すごい嬉しそうじゃん…」
俺は焼きそば屋の生徒に話しかけ、焼きそばを買う。
「嬉しい…あったわ」
俺は思わず、ほくほく顔になった。
「ふふ、面白いね相馬くんって」
「ん?なにが?」
「なんでもなーい!」
憂華は最近嬉しそうな顔をする事が増えた気がする。なんとなくだけど。
自分達の文化祭の糸口も見えた気がする。
月曜から忙しくなりそうだ。




