9.柳弟と月城妹
図書委員の当番は、毎回忙しいわけじゃない。
本の貸し出しや返却が少ない時間帯は、どうしても暇になる。
そんなときは、カウンターの中で柳と適当に話をして過ごしていた。
「はぁ~……彼氏ほしー」
唐突に柳が呟く。
「……急だな」
「だって高校入ったんだよ? 彼氏くらいほしいじゃん」
「そういうもんか?」
「そういうもん!」
柳は即答した。
なんとなく、柳はそういう経験が豊富そうに見える。
明るいし、ノリもいい。
男子とも普通に話すし、距離感も近い。
だから、てっきり中学の頃から付き合っている彼氏がいたりするのかと思っていた。
「柳って、彼氏いたことあるの?」
「え、なに。気になる?」
「いや、なんとなく」
「ないよ」
「……そうなの?」
「なにその顔!」
「いや、なんとなく経験豊富そうに見えたから」
「失礼だなー!」
ケラケラ笑いながら、柳が俺の肩を軽く叩く。
やっぱり、こういうところも姉っぽい。
……姉?
「柳ってさ」
「ん?」
「なんか、お姉ちゃんっぽいよな」
「え?」
「なんか、面倒見がいいというか。弟とか妹いそう」
そう言うと、柳は少し照れてから答えた。
「あー、弟いるよ」
「やっぱりか」
「中2でさ、野球部。サードやってるよ」
柳は野球部の弟がいそうなタイプではあるなと思っていた。
「野球部なのか、大変だな」
「そうなのよ!」
柳は身を乗り出して答える。
「家帰ってくるとマジで最悪」
「最悪?」
「砂だらけ!」
「…なるほどな」
「玄関で靴脱いだと思ったら、廊下まで砂だらけ。洗濯物も泥まみれ。しかも本人は何も気にしてないし」
「野球部なら仕方ないんじゃないか?」
「こっちは仕方なくないの!」
柳が身振りを交えながら愚痴る。
「帰ってきて『腹減ったー』とか言って、そのまま冷蔵庫開けるんだよ? 手も洗わずに!」
「それは……」
「で、注意すると『あとでやる』って」
「あるあるだな」
「でしょ!?」
やけに嬉しそうに食いついてくる。
「それは、お姉ちゃん大変だな」
「そうなの! 分かってくれる!?」
「まぁ、俺も妹いるからな」
そう言うと、柳が少し驚いた顔をした。
「相馬も兄妹いるの?」
「妹が1人だけどな」
「へぇ、何歳?」
「柳弟と一緒で中2だよ」
そこから自然と、お互いの兄弟の話になった。
どんな性格なのか。
家ではどんな感じなのか。
喧嘩することはあるのか。
そんな他愛のない話。
普段なら、わざわざ人に話すようなことでもない。
でも、不思議と話しやすかった。
柳も弟の愚痴を散々言ったあと、
「まあ、なんだかんだ可愛いんだけどね」
と最後には笑っていた。
「結局好きじゃん」
「そりゃ弟だからね」
そう言って、柳は笑う。
俺もつられて笑った。
図書室の静かな空間に、俺たちの小さな笑い声だけが響く。
最初は、ただのクラスメイトで図書委員の当番仲間。
それだけだった。
こうして暇な時間に話をできるくらいには柳と仲良くなった。
それはとても嬉しい事だと実感した。




