8.日常と繋がり
それからの日々は、思っていたより穏やかに過ぎていった。
学校では授業を受けて、放課後になれば図書委員の当番。家に帰れば勉強をして、余った時間はゲーム。
そんな毎日だった。
特別なことは何もない。
ただ、少し変わったことと言えば…、楠木と一緒に飯を食べに行くことがあるくらいか。
最初は一緒にラーメンを食べに行っただけだったが。
「月城くん、このあと暇?」
「ん?特に予定はないよ」
「じゃあ、なんか食べて帰ろ?」
そんな軽いやり取りから始まる。
飯を食いながら、学校の話をしたり、ゲームの話をしたり。
聞き上手な上に話し上手。
相手が話さないタイプなら話すし、話すタイプなら聞きに徹するだろう。
有能な補佐官タイプだなんて考えていた。
楠木は思っていた以上に話しやすかった。
「月城くんってさ」
「ん?」
「なんか思ってたより喋るよね」
「そうか?」
「うん。最初、もっと静かな人かと思ってた」
……まあ、最初は緊張するだろ。
そんな感じで、楠木とは少しずつ話すようになった。
図書委員の仕事も、特に問題なく続いていた。
俺は放課後に図書室へ行き、当番をこなす。
そのついでに本を読んだり、借りて帰ることも増えた。
静かな図書室は、意外と居心地がいい。
本が近くにあると読む。
そんな習慣も出来つつあった。
そして、図書委員の当番では――
「月城くん」
「ん?」
「貸し出しってどうやってやるんだっけ?」
「このバーコード読ませて、ここ押す」
「おー、そうだった」
別の日には、
「相馬、これどこの棚?」
「それなら奥の――」
「こっち?」
「いや、反対」
「お、あった。ありがと!」
……なぜか、柳から頼られることが増えていた。
あと、普通に名前呼びになっていた。
最初は単純に、俺のほうが仕事を覚えるのが早かっただけだと思う。
一度教えられたことを忘れないようにしていただけ。
それだけだ。
でも。
「相馬、これ返却処理した?」
「相馬、次の時間移動教室?」
「相馬ー!」
気づけば、何かあるたびに名前を呼ばれるようになっていた。
図書委員だけでなく、教室でも。
そんな毎日を過ごしているうちに、少しずつ変化が起きていた。
最初は、俺のことなんて誰も知らなかった。
入学して間もないんだから当然だ。
教室の隅にいる、ちょっと大人しそうな男子。
たぶん、それくらいの認識だったと思う。
それが、少しずつ変わっていった。
ある日の昼休み。
俺が教室で焼きそばパンを食べていると、少し離れたところから声が聞こえた。
柳、楠木、そして天沢憂華の3人が話しながらご飯を食べている。
「ねえ、憂華最近あれさ――」
「たしかにね!でも――」
「ほら、B組の――」
何気ない喧騒をBGMに、俺は特に気にせず、食べ続ける。
すると柳さんの声。
「そういえば憂華、相馬が――」
…俺の名前?
「あいつ結構使えるぞ!」
……なんだ、その評価。
「図書委員の仕事も覚えるの早いし」
「へぇ」
「普通に話したら結構面白いんだよな」
「へえ」
どうやら俺が知らないところで、俺の話がされているらしい。
そして、楠木もそうそう!と乗っかる。
「うん。最初は大人しい人だと思ってたけど、結構ちゃんとしてるよ」
「ちゃんとしてる。って…言い方」
「割と面白いやつなんだよね」
「そうなんだ」
……いつの間にそんな評価になったんだ。
あと、俺のいないところでやってくれ…。
そう思い俺は席を立って、廊下へ向かう。
その時、天沢さんと一瞬目が合う。
天沢さんにとって俺は、まだ『クラスにいるちょっとおとなしい子』。
そのくらいが、この時点での認識だろう。
でも。
楠木と飯を食べるようになって。
柳と図書委員の仕事をするようになって。
少しずつ、俺という人間が知られていく。
そして、その話が少しずつ広がっていく。
――最初の印象、見た目の印象、話した時の印象、人から見た印象。どれも感覚的なもの。
自分が周りからどう思われているか。
正直、気持ち悪いとか変とか思われてなければいいか、くらいにしか思っていなかったが。
まさか、男子より先に女子と仲良くなるとは予想していなかったな。




