87.制服に袖を通して
週末、俺のスマホにメッセージが来た。
『服届きました。土日どちらかで試着とOJT兼ねて来られそうですか?』
ついにバイトの時だ。
土日予定はない。せっかくだし、早い方がいい。
『土曜、1日行けます』
『了解。佐伯さんに伝えておきます』
俺のOJT担当は今話題の、玲奈さん。
いや、話題と言っても、うちのクラスの1部だけど。
「頑張るぞ…」
俺は小さく呟き、期待と不安を胸に膨らませた。
土曜日。
10時からの予定となっており、俺はその時間の少し前に向かう。
営業時間は8:00〜23:00営業だが、今日呼ばれたのは10時。
まぁ、朝早すぎてもスイッチが入らない為、このくらいの時間がベストではあった。
店舗の裏手に従業員出入口があり、ゴミ捨て場や、喫煙所が近くにある。
入り口のドアを開け、従業員通路を通っていくと、
事務所らしき部屋があった。
顔を出すと、そこには店長がいた。
「おはようございます!」
「おう!おはよう月城くん」
店長は事務仕事をしていたが、手を止め、机にあった書類を俺に渡してきた。
「とりあえず、仕事の説明するね」
店長から会社の概要や出退勤の仕方、メニュー表などを渡され、仕事の基本をざっくりと教えてもらった。
「よし、ロッカーに案内するよ」
ロッカーは広くはないが、着替えるには十分だし、休憩所としても使われているらしい。
そのくらいのスペースはあった。
「君のロッカーと制服だ。更衣室があるから、こっちで着替えてくれ」
更衣室に入り、着替え始める。
男子の制服は、シャツにズボン。
そしてネクタイを締め、着るのに難しいことは無かった。
俺が更衣室のカーテンを開けると目の前には店長と玲奈さんがいつの間にかいた。
「似合ってるねー」
「おはようございます、玲奈さん。」
「おはよー。朝早いと眠いねー」
と時刻は10時だが眠そうだった。
「サイズはどうかな月城くん」
俺は体を動かして確認する。
「ピッタリみたいですね。大丈夫です」
よかった!と店長はホッとし、玲奈さんを交えて話を始めた。
「よし、月城くんにはとりあえずホールに出てもらう」
「わからないことは佐伯さんに聞いてね、完璧な人だからなんでも聞いてね」
そう言われていた玲奈さんは聞き流していた。
「今後はレジとかキッチンとか覚えてもらうけど、とりあえず基本からだ」
「わかりました。頑張ります」
俺は玲奈さんの後ろにつき、物の場所や机の片付け方なんかを聞いていた。
「これここで良いですか?」
「いいよー」
「俺運びますね」
「ありがとー」
徐々にだが、動けるようにはなってきた。
注文はハンディだがタッチパネル操作で、通常の注文であれば対応できそうだ。
そんな事を思ってると、玲奈さんが声をかけてくれた。
「結構やるねー」
「いや、なんもできてないですよまだ…」
玲奈さん時計を確認し、「休憩しよー」といい、
他の店員さんとバトンタッチ。
玲奈さんについていくと、店舗の裏、物置のような場所に来た。
そこには小さな椅子と、灰皿が置かれていた。
「ここ、休憩場所なんですか?」
「まぁねー。正式な休憩所じゃないけど」
玲奈さんは椅子に座り、電子タバコを取り出した。
「一応、お客さん用の喫煙所は表にあるんだけどね。こっちは昔から一部の人が勝手に使ってる感じ」
「……大丈夫なんですか、それ」
「たぶん。怒られたら撤去されるねー」
玲奈さんは、あまり気にした様子もなく電子タバコを口に運んだ。
「あ、煙…。大丈夫?」
「大丈夫ですけど、吸うんですね玲奈さん」
「まぁねー」
玲奈さんは休憩しながら、俺を見てた。
「相馬くんやるね。普通、お客さんと話すの緊張するんだけどねー」
「いや、緊張してますよ?」
「海の家でも思ったけど、本当に高1?」
「年齢偽ってないですよ俺。高1です」
玲奈さんは電子タバコを口に運び話を続ける。
「バイト初めてであれだけ動けてたら十分。私の目は間違ってなかった」
俺はその話を聞き、嬉しく思う。
ふと、気になった事があり聞いてみる。
「芦屋…弟の方は、誘わなかったんですか?」
「んー?サッカー部でしょあの子」
「気にしてましたよ芦屋」
玲奈さんは、笑っていた。
「気にしそうなタイプだねー。『なんで相馬なの!?俺は?』って言ってそうだねぇ」
結構的を射ているな…と思い、俺も少し笑った。
玲奈さんは吸い殻を捨て、立ち上がる。
「まぁ、誘っても土日入れない。とかだと店長に悪いしねぇ」
「それは、そうですね」
玲奈さんに俺もついて、ホールへと戻った。
それからは俺の後ろに玲奈さんがつき、フォローしてくれた。
バイト初日とか関係なくお客さんは来る為、忙しかった。
「いらっしゃいませ、2名様ですね。少々お待ちください」
「どうぞ、こちらに」
「あ、奥の方がいいねー」
玲奈さんは奥から詰めた方がいい事を俺に伝達。
「了解です。すいません、こちらにどうぞ」
奥から詰めた方が効率がいいらしい。玲奈さんは空き状況を見ながら俺にアドバイスをする。
料理を運び、片付け、オーダーを聞く。
俺は繰り返し、海の家を思い出す。
こんな感じだったな。
その後、2組のお客さんが来た。
俺は店内を見回し、奥の席が空いているの確認した。
「こちらへどうぞ」
俺はさっき玲奈さんに教えてもらった通り、奥の席へ案内した。
「お、覚えてるねー」
玲奈さんが後ろから声をかけてくる。
「教え方が上手い人が後ろにいるんでね」
と返しておいた。
そんな事を繰り返し、俺はバイトの時間を終える事になった。
時刻は昼過ぎ。
今日はここまでという事になった。
「月城くんお疲れ様」
「お疲れ様です」
店長が俺の隣の玲奈さんを見る。
「佐伯さん、月城くんはどうだった?」
「よく見えてますよー。緊張も感じないし、いい感じです」
嬉しい。普段褒められる事は少ないから、こう言ってもらえるのは嬉しい。
「そうか、これからも頼むね月城くん。あ、シフトの事なんだけどーー」
バイトのシフトはLINEで伝達するらしい。
一覧表にそれぞれの名前と日付、時間が記載されている。
「入れる日わかったら、すぐ連絡してね。調整もできるから」
「わかりました。確認しておきます」
俺は頭を下げ、玲奈さんと店長に挨拶をした。
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
「またねー」
「気をつけて帰るんだよ」
俺は着替え、帰路に着く。
初日のバイト。
周りを見る余裕は無かった気がする。
新しい仕事を覚えるのは結構疲れる。数時間しか働いてないけど、ずっと気を遣っていた感じだ。
「唐揚げ買って帰ろ」
俺はコンビニでご褒美の唐揚げを買って帰る事にした。
家に帰ると、両親と葵がいた。
「今日は2人ともいるのか」
「おかえり相馬。バイトだったんだろ?」
「ただいま。疲れたよ」
「それにしてもロイポってすごいわね。私達でもあんまり行かないのよね」
親父と母さんが俺のバイトに反応してきた。
「やってる事は普通のファミレスだと思うけどね。対面接客意識してるから、結構接客頻度が高いくらいかな」
葵は俺の持ってる唐揚げを見ていた。
「あげないぞこれは」
「……なんも言ってないけど」
「言いそうだったから、止めたんだ」
リビングのソファに座り、唐揚げを取り出した。
俺はご褒美の唐揚げを食べる。
「うまいな、これ」
妹の鋭い眼差しを感じながら。
自室で予定を確認しながら、シフト希望日を提出。
店長から、『ありがとう。シフト組んだら送るね』と返信が来た。
当分は玲奈さんのシフトと同じ日に入り、ペアで動く流れらしい。
玲奈さんもバイトのはずなんだけど、バイトリーダーみたいなポジションなのかな。
早くホールを覚えて、1人でも活躍できるようになりたい。
そう思った。




