86.変わる関係と変えたくない関係
「おはよう、憂華」
「おはよ、相馬くん」
登校した俺は憂華に声をかけ、自分の席に座る。
隣の席の水野さんを一目見る。
水野さんとは、あの話をして以来接点はない。
俺はあれから、水野さん、豊崎さん、そして芦屋を観察していた。
水野さんはダークブラウンのような髪色でショートカット。授業を受けるときだけ、眼鏡をかけている。
基本は物静かだけど、言うときは言う。
少し言葉に棘がある印象を感じる。
その水野さんと一緒によくいるのが、豊崎さん。
黒髪ロングで、内気な性格。
恥ずかしがり屋というイメージ。
芦屋は誰にでも声をかけ、誰とでも仲良くなれるタイプだと思う。
ただ、恥ずかしがり屋な豊崎さんにはあまり声をかけていない気がする。
それが、ここ最近わかったことだ。
ホームルームを終え、俺は1限の準備をしていると、豊崎さんが近づいてきた。
「あ、あの…ちょっといい?月城くん」
「ん?…いいけど」
俺は豊崎さんについていき、廊下で話すことになった。
「ごめんね月城くん」
「いいよ、なんか要件?生徒会とか?」
「ううん、そういうのじゃないんだけど」
俺は呼び出される理由に心当たりがない。
豊崎さんはなんで言おうか考えていたが、急かす理由もない。
俺は黙って待った。
「その…この間、ごめんね。私は芦屋くんを選ぶって言っちゃって」
「え?」
「いや…その、水野さんとか芦屋…くんと話してたときの」
あぁ、あれか。どっちをバイトに誘うかって話か。
豊崎さんは、心から申し訳なさそうにしていた。
「いや、全然気にしてないよ」
「本当?」
「本当に。気にしすぎだ」
豊崎さんは安心したような表情をした。
「そっか!よかった。私気になっちゃって…」
「気にしなくていいよ。俺のことはどんどん下げてくれ」
「…なにそれ」
豊崎さんは少し笑ってくれた。
「そろそろ1限だから教室戻ろっか」
「うん!」
笑顔になった豊崎さんを追い、俺も教室に戻った。
教室に入ると夕と目が合った。
『俺は悪いことしてないぞ』
と視線で伝えておいた。
……いや、多分伝わってないな。
昼休み、俺は夕を誘い、食堂に行くことにした。
「俺はカレーライスにしよう」
「私もカレーにしよ。珍しいね誘うなんて」
「なんか、言いたいことありそうだったしな」
俺は席についた。
そして、俺の正面に夕が座り、食べ始める。
「最近芦屋とかと仲良いじゃん相馬」
「ん?そうでもないぞ」
「そうでもないってなにさ」
夕はカレーをふーふーして食べている。
「元気にしてたか?」
「はは、元彼みたいなこと言うじゃん」
今彼だった時期もなければ、別れた記憶もないけどな俺は。
「夕って彼氏いたことあるのか?」
「気になる?」
今までで1番ニヤついてる。
「ねぇ、気になる?」
これはパンドラの箱だ。
開けたら最後、ロクな結末は待ってない。
「いや、気にならない」
「意気地なし」
俺達は黙々とカレーを食べることになった。
具は小さいけど、美味しい。
カレーって不味く作る方が逆に難しい食べ物だと思ってる。
「いたよ前に」
まじかよ、夕にもそういう人がいたのか。
俺は軽くショックのようなものを覚える。
仲間だと思っていたのに。
「その人は、一緒にゲームをやってくれていて」
…なるほど。
「一緒にコラボカフェ行ってくれて、戦士と魔導士のピンバッジを一緒に買って」
ん?
「一緒に海にも行ってくれた」
それって…。
「大好きって言ってくれた」
いや俺じゃないな。
「本当にいたのかそれ」
「さぁ、どうだろうね」
俺はカレーを食べ終えていたけど、話を聞いていた。
夕がカレーを食べ終わるのを待っていた。
久しぶりに夕とこうやって話した気がする。
夏休みの間は、ゲームをしたり、海に行ったりもした。
それでも、最近はこうして2人で話す時間が減っていた。
「あれ、楽しかったからさ。また遊ぼうね」
「……おう」
俺は、それだけ答えた。
夕はいつものように笑っていた。
ただ、その笑顔が少しだけ寂しそうに見えた気がした。




